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回廊の秘密
回廊の秘密 6
しおりを挟む「こんにちは! あ、いえ、こんばんは?」
「は、はい。あの、こんばんは?」
待ち兼ねた様に飛び出したデッサン人形が、両腕を開き気味にこちらに手のひらを向け、妙にスラリとした姿勢で挨拶をしてきた。
頭が真っ白になるほど驚いた玉生だが、人形のやや首を傾げた風情がコミカルなせいか、なんとか普通に挨拶を返せた。
そのコミカルな動きに不似合いな、感情の籠らない平坦な声だが、イントネーションは正確なのが不思議な響きになって聞こえる。
見た目は艶のある木の素材でできていて、関節部分の球体を上手く動かしその動作は実に滑らかだ。
ただ、それはつるんとしたのっぺらぼうである。
「ようこそ、倉持宝より私を引き継いだお方。私は主となるモノのため、ダンジョンという空間を整える核である、思考する疑似生命体、宝には『コア』と呼ばれたモノです」
その人形は玉生に向かい、左手を腹部に右手を後ろに回すボウアンドスクレイプで礼をして、「どうぞよしなに」と恭順の意思を示した。
「いきなり箱から人形が飛び出すから、ミミがびっくり箱でも仕込んだのかと思ったよ」
珍しく寿尚があっけに取られた顔をするのに、「これは、失礼を。つい気が逸って」と人形が九十度腰を折っての最敬礼をする。
詠の方は椅子に腰掛けると、何かを推し量る様にその眼鏡越しの半眼でテーブルの上の人形に観察する視線を向けた。
「え、と。コアさん? あの、ご丁寧な挨拶ありがとうございます。倉持玉生です。あっ、よろしくお願いします!」
「いえいえ。これからの長いお付き合いを円滑に進める、その第一歩でありますので」
そんな感じでペコペコ頭を下げ合う一人と一体に、このままでは話が進まないと見た寿尚が「質問しても?」とさり気なく割って入る。
「貴方はわが主のご友人、日尾野寿尚ですね。その問いが回答可能であれば、『はい』」
大男共の手のひら程の人形が、トランクの縁に腰掛けて足を組むと「では、質問を」と寿尚を促した。
妙に人間臭い仕草は、親近感を演出しているのかもしれない。
実際に、玉生は視線を人形の顔に合わせるために正面の自分の席に座って、少し頬を紅潮させてにこにこしている。
「俺が認識しているダンジョンとは、地下牢や地下迷宮などを表す言葉です。“ここ”は、それなのですか?」
「それは主次第の事ゆえに。そうとも言え、そうではないとも言え、としか申せません」
「空想小説では、モンスターと戦い宝箱を探す洞窟類をダンジョンと称するが……」
商品の箱の裏の成分表示からレシピまで読む男は、娯楽小説を嗜んでいないわけがなかった。
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