満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ)

小桜けい

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本編

14 満月綺想曲

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 ラヴィは今でも犬は苦手だ。狼も怖い。
 ルーディだけが特別だから、人狼でも怖くない。
 ラヴィの『つがい』の人狼青年は、優しくて強くて頼りがいがあって、見た目まで良い。
 ただ……ほんの少し困った部分はあるけれど……

「ルーディ……んっ!」

 衣服の上から胸の突起を弄られ、困惑の声は、語尾が妙に跳ね上がってしまった。

「ラヴィは、本当に感じやすいなぁ」

 ラヴィを後ろから抱きしめて、ルーディが楽しげに囁く。
 からかい混じりのセリフに、頬が一層赤くなったのがわかった。
 当たり前の事なのだけれど、こういう風に密着すると、余計にルーディが男性なのだと、ことさら意識してしまう。
 もう何度も抱かれているのに、いつまで経ってもこのドキドキだけは消えそうにない。

「ん、ん……こんな所で、どうして……」

 夕暮れのキッチンで夕食を作っていたら、いつのまにか後にいたルーディに、突然抱きしめられたのだ。
 手に持っていたトマトが落ち、コロコロ流しの中を転がっていく。

「や、ラヴィのケガもすっかり治ったしさ。有言実行をしようかと」

 力強い片手でしっかり抱えられ、身体の向きさえ変えられないまま、後から囁かれた。

「有げ……?」

「キッチンでもどこでも、ラヴィがすぐ欲しくなる」

 うなじに口づけられ、ゾクリと肌があわ立つ。

「ん!?」

 そういえば、確かにそんな事を言っていたが……。

「だ、駄目だって!ふぁぁ!」

 慌てて身をよじって逃れようとしたが、ガッチリ押さえる腕は、ピクリとも動かない。
 それどころか、また衣服の上から胸を弄られ、腰が砕けそうな声をあげてしまった。
 足に力が入らず、両手で目の前の流し台に掴まる。

「っん!ふ……ふぁ……」

 背後から回された両手が、衣服の裾から侵入し、胸に直接触れる。
 後から無骨な大きい手からは想像もかない繊細な動きで、二つの胸の先端を嬲られる。
 ルーディの言うとおり、抱かれる回数を重ねる毎に、ラヴィの身体はどんどんルーディの愛撫に夢中になり、性感帯を開発されている。
 たちまち固く尖った乳首を摘んだり軽く引っ張ったりされると、下肢もすぐ潤いだしてくるのを感じた。

「あ、あ、あ……」

 くすぐったいような、もどかしい感覚に、腰がくねくね勝手に動き、スカートがそれにあわせて揺れる。
 けれど、そちらにはいっさい手を触れられず、ひたすら胸だけを刺激され続けた。

「抱くたびに感度良くなってくみたいだし。そろそろ胸だけでイけるかも」

「ひゃんっ!あ、ああ……そ、そんなの……無理……」

「ふぅん。じゃぁ賭ける?」

「え?」

 思わず首をよじって、ルーディを見上げた。
 ルーディはなんだか、ものすごーく嬉しそうな顔で、ニヤニヤ笑っている。

「下を触らないでイけたら、俺の言う事何でも聞くってのは?」

 こういうタチの悪い笑みを浮べている時の彼は、たいていろくな事を言い出さない。
 いつもはすごく優しいくせに、信じられないほど意地悪くなるのだ。
 それでも、ラヴィが本当に嫌がる事はしない。そこがまた困った所だった。
 どんなに恥ずかしい事を要求されても、結局ラヴィは受け入れてしまうのだから。

「……ヤダ」

「十分の制限時間付きで」

「……ダメ」

「出来なかったら、俺がラヴィのいう事を何でも聞くけど?」

「……」

 結局、頷いてしまった。
 いくらなんでも、そんなに敏感なわけはないし、ちょっと痛い目を見てもらうのも良いかもしれない。
 一週間の禁欲でも言い渡そうと、ラヴィはほくそ笑む。

「ニマニマしちゃって、余裕じゃん」

「あっ」

 くるんと身体の向きを変えられ、テーブルの上に押し倒された。
 それでもラヴィが頭をぶつけないように、しっかり腕でガードしていてくれた事に気付く。
 組み敷かれたままルーディを見上げると、とても愛しそうに口づけられた。

「ん……ふ……」

 唇を舌で柔らかくなぞられると、それだけで簡単に解けてしまった。
 侵入してきた舌は、ラヴィの一番大好きなやり方をちゃんと心得ていて、上あごの縫い目や歯列を、絶妙な手順で愛撫していく。
 卑怯にもほどがあるキスだ。
 思考がとろとろに溶けて、硬いテーブルの板も、ここがキッチンなのも、まだ明るい時間なのも、どうでも良くなってくる。
 唇を合わせ、甘く舌を絡ませられる感覚に酔っていると、いつのまにかエプロンとブラウスのボタンが全部外されていた。

「っ!?」

「さて、頑張るとしますか」

 ニヤリと笑った狼青年の口端から、鋭い犬歯がチラリと覗く。
 早まったかもしれない……そう思った時には、もう遅かった。
 すでに固く尖っていた乳首をペロリと舐め上げられ、喉が反り返る。

「ぁん!!」

 身体の傷はすっかり完治し、痕も普段は殆どわからないが、興奮してくるにつれ、しだいにうっすらと赤い線が斜めに浮かびあげってくる。
 乳房の片方にもかかっている線を、なぞるように舐められると、身体が勝手にビクビク引きつる。
 頬のもそうだが、傷痕を舐められるのに、ラヴィは弱い。

「ん、ん、ふぁっ!あ、あ……」

 コリコリと片方の乳首を指で刺激されながら、もう片方を口に含まれて、思うさま弄ばれる。
 熱心に吸い付かれ、指で舌で嬲られ続けた胸の飾りは、真っ赤に熟れきって、じんじんと疼く。
 身悶えしても、力強い腕はしっかりラヴィを押さえ込んで、苦しいほど甘ったるい拷問から許してもらえない。

「は……はぁ……ん……」

 気持ち良いのに、足りない。ほんの少し足りない。
 もっと……もっともっと欲しい!!
 中途半端な快楽は飢餓感を深めるだけで、苦しさにポロポロ涙が零れる。
 達してしまえば負けなのに、意志と無関係に、最後の一押しを欲しがって腰が揺らめく。
 いっそ負けても良いから、楽にして欲しい。
 なのに、ルーディはそこには触れてくれない。
 チラリと壁時計に視線を走らせると、まだ五分しか経っていなかった。

「ふぁ、あぁ、あ……るーでぃ……っ」

 涙声で、暗灰色の髪をかき抱いて喘ぐ。
 やりたい放題に胸を弄りまわされ、貪欲な胎内が、ヒクヒクと痙攣を繰り返し始める。
 熱い愛液は溢れ出し続け、下着はとっくにグチャグチャになっていた。
 背筋がゾクゾク震え、つっぱった両足に力が入る。

「あ、あふっ、あ……ああ!!も……やぁ……おかしくなっちゃ……」

「ラヴィ……」

 不意に耳元で囁かれ、カプリと耳朶を甘噛みされた。
 焦らされ過ぎていた身体に、不意打ちの刺激は予想以上にこたえた。

「あ、あ――――――っ!!!!」

 身体が弓なりに仰け反り、ビクビクと激しく痙攣を繰り返す。
 達してしまった事を、これ以上ないほどはっきりルーディに知らせてしまった。

「っ……はぁ、あ……」

「ハハッ、俺の勝ち」

 聞き捨てならないセリフに、荒い息もつきながら、反論した。

「だ、だって!あんなの卑怯……胸だけって……」

「へぇ?俺は『下を触らないで』って言っただけだけど?」

 しれっと言い返され、スカートのうえからそこを軽く指でなぞられた。

「ふぁぁぁ!!!」

 すでにぐちゃぐちゃになっていた蜜壷には、それだけでも強烈な刺激になった。

「ラヴィ、すごく可愛い」

 かすれた声が耳元で囁く。そのまま、さっさとスカートを捲られてしまった。
 下着の横から指が侵入し、ぐちゅぐちゅ淫猥な音が響く。

「あ、あああああああ!!」

 今度は率直過ぎるほど与えられる快楽に、簡単に屈してしまう。
 しがみついたシャツの背に爪を立てながら、身体を弓なりにそらせて快楽に上り詰めた。

「ひ……ぁ……あああ……」

 身体の奥が、ひくひく蠢いている。
 ここまで来たら、もうラヴィも終われない。

「あ、あ……ん……」

 半脱ぎの衣服がまとわりつく身体で、されるがままうつ伏せにテーブルへ上体を押し付けられる。
 灼熱の塊が押し付けられたと思った次の瞬間、一気に奥まで貫かれていた。

「ひぁあああん!!」

 悲鳴にも似た嬌声が上がる。背骨が限界まで反り、必死に天板へ爪をたてた。
 狭い蜜道をギチギチと押し広げられても、狂いそうなほど焦らされ続けていた身体は、少しも痛みを感じない。
 やっと求めていたものが与えられた事に、ただ夢中で喜び、快楽に溺れる。

「あっ!は、ああっ!」

 腰を掴まれ、揺さぶられると、あっという間にまた昇りつめる。
 何度も何度も瞼の裏に火花が散り、神経が焼ききれそうなほど快楽に浸けられる。
 口端から唾液が垂れ、強すぎる快楽に涙が零れ落ちて、真っ赤になった頬に伝っていく。とてもみっともない顔のはずだ。

「や……ああっ!!あ、あっ!!」

 テーブルに突っ伏して、両腕で身体を支えながら顔も隠していると、腰を掴んでいた手が、上へ回った。

「きゃっ!?あああ!」

 繋がったまま上体を引き起こされ、その拍子に、いっそう奥まで突き入れられ、また達した。

「ひぅっ!あ……あ……はぁ」

「ラヴィ……俺の事、どう思ってるか言って」

「はぁ、はぁ……え?」

「何でもいう事聞いてくれるって賭け。俺の勝ちだろ?」

 だから……と、背後から強く抱きしめられ、耳元に囁かれる。

「俺が好きだって……言って」

 ルーディの表情は見えなかったけど、とても切ない声音だった。

「あ……」

 ルーディが大好きに決まっている。
 世界の誰よりも愛してる。

 それがラヴィの中で、もう当たり前すぎていて、気付かなかった。
 彼に愛され通じ合っていても、考えてみれば、まだ一度もちゃんと言葉に出して言った事がなかったのだ。

「ルーディ……好き……」

 あらためて口にするには、なんだか気恥ずかしかったが、首を精一杯後に向け、はっきり告げる。

「愛してる……私のつがいは、世界中でルーディだけよ」

 その時見たルーディの顔を、ラヴィは一生忘れない。
 今にも泣きだしそうなクシャクシャの笑顔で、ラヴィを抱きしめてキスした。

「んっ!んんっ!」

 唇を重ねながら、器用にラヴィの身体は反転させられ、再びテーブルの上に横たわる。

「っは……あ、ああああっ!!」

 激しく腰を突き入れられ、仰け反りながらルーディにしがみつく。

「ああっ!す……すき……あいしてる……ふぁっ……るーでぃっ好きぃっ!」

 一度溢れ出した言葉が止らない。
 言うたびに、心臓の奥に暖かいものがこみ上げてきて、必死で訴える。

 あの時、本当に死んでも良いと思ったけれど、今は二人で生きたいと思う。
 二人でなくては駄目なのだ。どちらが欠けてもいけない。
 ラヴィはもう、ルーディなしでは生きていけないし、ルーディもラヴィなしでは生きていけない。
 たとえ身体は生きていても、心が死んでしまうだろう。
 これが自惚れじゃない事を、もう互いに知っている。

「ラヴィ……俺も……愛してる」

 狼の凶暴性と人の優しさを合わせ持った琥珀の瞳が、ラヴィの心も身体も貫く。
 世界でたった一人の愛しいつがい。人間にも狼にも人狼の中にも、他には誰も該当者はいない。ルーディだけだ。
 愛してる。愛してる。愛してる!!

 抱きしめ、抱きしめられ、喘いで貫かれ、注ぎこまれ、荒い息をつきながら口づけを交わし、照れながら笑いあう。
 激しすぎる情交の名残で、ラヴィの手足はフルフル震えていたが、まだ料理の途中だった事をやっと思い出した。
 しかし、その身体はルーディに軽々抱きかかえられ、寝室に運ばれてしまう。

「ルーディっ、まだお料理の途中で……」

 ラヴィをベッドに降ろし、ルーディが苦笑した。

「その身体じゃ、無理だろ。あとで俺が何か作るよ」
「あとで……?」

 不穏な空気を感じ、ゴクリとラヴィは息をのむ。

「もう一回。いや、あと二回くらい抱いた後で」

「ええ!!」

「俺はまだ足りない。もっとラヴィを食べたくて仕方ない」

 とびきりニコニコ顔の狼青年が、じゃれつきながらおねだりを開始する。

「…………ぅ」

「ラーヴィ?」

「……ん」

 なんてタチの悪い狼に掴まってしまったんだろう。
 ラヴィの心へとびきり優しく噛み付いて、残さず貪りつくして飲み込んでしまった。


 ****

 季節は流れ、冬が来た。
 
 白銀の雪に覆われたフロッケンベルクの森を、ルーディは四足で駆け抜ける。
 針葉樹林の間にあるはずの街道は、深い積雪に覆われて、どこが道なのかも判別できない。
 これから雪解けの季節まで、フロッケンベルクの王都はこの雪に閉ざされるのだ。
 しかし、厚い毛皮に覆われた身体は、吹雪の寒さにも耐えられ、身軽な獣の脚は積雪に沈む事も無い。
 時折、雪の森で獲物を見つけて腹を満たしながら、なつかしいフロッケンベルク王都へ向かってひた走る。

 一ヶ月はラヴィの元に帰れないだろうが、彼女は件の老婦人の元へ、身を寄せている。
 老婦人は今、イスパニラ王都の閑静な住宅街に住んでおり、今後もそこで暮らすそうだ。
 驚いた事に、彼女はラヴィから、ルーディが人狼だと打ち明けられても、反対しなかったそうだ。

『私だって、若い頃はロマンスの一つもありましたよ。貴女が選んだのでしたら、それが一番です』

 平然と、そう言ったらしい。

 針葉樹の森の奥から、狼達の遠吠えが響いてきた。
 人狼ではない、ただの狼だ。
 それでもルーディの血は高鳴り、歩みを止めて一緒に月へ向かって吼える。
 今は遠い地で暮らす住む同族達も、この月を見て吼えているだろう。

 バーグレイ紹介の調査により、ヴァリオが一族のために手に入れた土地の事がわかった。
 そこに住んでいるのは、もはや本当に数少ない最後の人狼たちだ。
 ルーディは彼らの元へ、鎮静剤の調合法を記した紙を匿名で送った。必要な薬草は、あの土地でならごくありふれた野草だし、分量さえ間違わねば、調合もそう難しくない。
 それを使うかどうかは、彼等自身が決める事だ。

 今日の夜空はよく晴れ渡っていて、雪化粧をした針葉樹たちの向こうには、神々しい満月が輝いている。
 こんな月を見るたび、あの時の夢を思い出す。
 満月の夜には、鎮静剤を飲んでいても変身して走り回らねば治まらない。
 ヴァリオの言うとおり、狼の血はそう簡単には屈しないのだろう。

 いつの日かルーディとラヴィの子孫たちは、こんな満月の夜に、同族へ出会うのかもしれない。
 その頃には血はひどく薄まって、変身すらおぼつかなくなるかもしれない。祖先が人狼だなど、知りもしないかもしれない。
 けれどきっと、この大きな満月の下で、狼のコーラスを聞けば、血のたぎりは呼び覚まされる。

 狼たちの歌う、満月綺想曲ルナ・リェーニャ・カプリチオは、どんなに時がたっても変わらないのだから。
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