満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ)

小桜けい

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本編

エピローグ 秘密が多い家の子どもたち

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 アンジェリーナとロルフは、共に今年で七歳になる、ラインダース家の男女の双子だ。

 髪の色は二人とも黒。
 アンジェリーナの瞳は、ルーディパパ似の琥珀色。背は小さいが活発で、一日中だって表を走り回る。
 ロルフの瞳は、フラヴィアーナママ似の紫色。背はスラリと高く、「しゃんとしてればカッコイイのに」と言われるが、今ひとつ気が小さく、よく失敗する。

 イスパニラ王都には、国営の学校がいくつもある。
 上流階級の子は家庭教師に習うが、二人は学校に毎日通い、そして夏の休暇を心待ちにしている。
 何しろ夏には毎年、一家でバーグレイ商会の隊商に混ざって、フロッケンベルクの王都まで行くのだ。
 学校の誰一人だって、隊商と旅をするなんて素敵な休暇を過ごす子はいない。
 そして、ああ……考えただけで二人とも、足がむずむずする。
 フロッケンベルクの山奥を、狼に変身して、パパと思い切り駆け回るのだ。
 それから狩りの仕方や、危険な場所の避け方、遠吠えの仕方まで色々教わる。

 二人が初めて変身したのは、三年前だ。
 ここではむやみに変身しちゃいけない事や、友達にも内緒にしなきゃいけない事。なぜだかわからない「大人の事情」がいっぱいある。
 言いつけを聞かず、アンジェリーナが変身して夜の街を駆け回り、もう少しで動物園に入れられそうになった事件は、忘れられない。
 その時にはロルフが大活躍で助けてくれ、情けないと思っていた兄を、アンジェリーナは見直した。
 
「ママ!支度できた!?」

「シャルへのお土産も、忘れないで!」

 家に駆け込むなり、石版と鞄を戸棚に放り込んで、二人は荷造りの様子を覗き込む。

「さぁ? 自分で確かめなさい」

 大好きなママが、悪戯っぽく笑って答えた。
 二人は頷きあい、旅行かばんに突進する。
 
 フロッケンベルクに行くのは、パパにとっては、お仕事も兼ねてらしい。
 でも二人にとっては、明日から二ヶ月の楽しい休暇。心が躍る。
 隊商の皆とも早く会いたいし、フロッケンベルク王都に住む友人、シャルに会うのも、待ちきれない。

「シャル、今年はどんな発明品を見せてくれるかな?」

「手紙には、空を飛べる機械を作りたいって書いてあったけど……」

 シャルロッティ・エーベルハルトは、一歳年下の女の子だ。白銀の髪で、瞳はとても変わってる。右目は氷河みたいなアイスブルー。左目は真紅の炎色だ。
 中身も負けず劣らず変わっている。
 壁画の天使みたいに綺麗な顔で、一見おしとやかなのに、考えているのは朝から晩まで、奇妙な発明品を試すことばかり。
 シャルは天才だから、作るものはどれもこれも奇想天外ですごいものだ。ただし、失敗してとんでもない事になる事も多い。
 ヘルマンおじさんとサーフィおばさんがシャルのパパとママでなかったら、フロッケンベルクの王都はとっくに吹き飛ばされてただろう。
 でも、二人はシャルが大好きだ。シャルには二人のパパが人狼だって隠さなくていい事も含めて、全部。
 それから、「お忍び」で来る、フロッケンベルクの王さまにも会える!
 
 ラインダース家には、少々秘密が多いんだって、パパは言う。
 確かにそう。
 二人は人狼のパパと人間のママから産まれた子どもたち。
 パパはフリーの錬金術師だけど、それもちょっと怪しいぞと、最近二人は思い始めた。
 シャルも、同じ事を言っていた。
 エーベルハルト家にも、秘密が多いんだって。しかも、とんでもない秘密があるらしい。
 だから三人は、いつもこの結論にたどり着く。

『他と変わっていても、それが何?パパとママは愛し合ってるし、私たちの事も愛してる』

 バーグレイ商会のアイリーンおばちゃんは、パパたちに内緒で約束してくれた。
 もう少し三人が大きくなったら、とびっきり不思議で素敵なお話を『二つ』してあげようと。

 アンジェリーナ、ロルフ、シャルロッティは、その日を楽しみにまっている。

 一つはきっと、愛を知らない不老不死の魔人と、愛に飢えた吸血姫のお話。
 そしてもう一つは……変わり者の人狼と、最高に幸運な星の下に生まれた娘のお話。

 甘く切なく、時に泣きたくなるほど残酷な……数奇な運命の糸で紡がれた、奇跡の愛の物語たち。

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