47 / 76
第四章:新しい街での暮らしが始まる
第47話「楽しい日常の終わりとようじょ」
しおりを挟む
「おっしゃ! りん! ルカ! 行くぞ!」
「おー!」
「はい!」
中庭から子供たちの楽しそうな声が聞こえてくる。
朝食の後、勉強を終えたりんちゃんたちは、本気で構ってくれるエドアルドとの遊びに夢中になっていた。
子供たちと遊ぶのは楽しいけど、やっぱりかなり疲れる。
昨日僕とあんな決闘を繰り広げたはずの彼の体力に、僕は内心舌を巻いた。
「げんきやなぁ」
「だねぇ」
僕の部屋でハーブティを飲みながら、僕らは暖炉の前でくつろいでいる。
こんな寒い日に外に出なくていいのは、ある意味ありがたかった。
それでも、いつもなら「あっくんあそぼー!」と纏わりついてくるはずのりんちゃんが、一度も僕を呼びに来ないのは寂しい。
りんちゃんやルカが夢中になるような遊びってどんなだろうと興味を引かれて、僕は窓を開けて中庭を覗きこんだ。
「とー!」
気合と共に、りんちゃんが木の棒を振り回してエドアルドに襲い掛かる。
エドアルドは少しだけ体をずらして木の棒を受け流し、りんちゃんの背中をぽんと押して彼女を吹き飛ばした。
ごろんごろんと茶色い芝生の上を転がり、りんちゃんは枯葉の山に突っ込む。
「わはは! 俺様に勝とうなど百億光年早いわ!」
僕が頭の中で光年は距離の単位だよとツッコんでいると、後ろからルカが棒を打ち下ろした。
振り返りざまにそれをギリギリで受けたエドアルドは、「ほれ! ほれ!」と言いながらルカに剣戟を浴びせる。
手加減はしているのだろうけど、その結構なスピードの棒を、片手に杖を突きながら、それでもちゃんと全部受けているルカの腕前に僕は目を見張った。
しかし、10合目、エドアルドの棒がルカの棒を跳ね飛ばす。
空中でくるくると回った棒は、ルカの背後の地面に「カラン」と乾いた音を立てて転がった。
「ぐはははは! 相手が悪かったなルカ! 正義の鉄拳をくらえぇぇ!」
エドアルドは悪人丸出しの顔で、両足を肩幅以上に開き、真っ直ぐ上段に構えた棒を思いっきりルカに向かって振り下ろす。
しかしその棒は、ルカの頭に当たることなく、空中でぴたりと止まった。
残忍な笑顔に満ちていたエドアルドの顔が、見る見るうちに泣き顔になり、涙と鼻水と涎を垂らす。
ぷるぷると震える彼の股間には、いつの間にか背後から振り上げられたりんちゃんの棒が、見ているだけで僕が内股になってしまうほど、恐ろしい角度でめり込んでいた。
「り……りん……」
ぐらりと体を揺らし、振り返ったエドアルドの後頭部に、容赦のないルカの杖の一撃が見舞われる。
だらんと垂れていた鼻水を「ぶっ!」と吹き飛ばし、エドアルドは地面に倒れた。
「ルカくん! やったぁー!」
「りんちゃん! やりました!」
抱き合って喜ぶ2人。ぴくぴくと痙攣するエドアルド。慌てて駆け寄り、治癒魔法をかけるルーチェ。
すぐに回復したエドアルドは「がぁ~! ふざけんなコラぁ!」と大声を上げると、りんちゃんとルカを両手に抱え、ぐるんぐるんと振り回した。
「きゃあ~あはははははは!」
「あぁっ! あはははははは!」
上下に振り回されながら、なおかつ横回転。
しばらくそのまま子供たちの楽しそうな悲鳴と共に回っていたエドアルドだったけど、さすがに30秒ほどぐるぐる回ると、フラフラになって3人で枯葉の山に突っ込んでいった。
「きゃ~!」
「あはは!」
「おえぇぇ! 地面てめぇ! ぐるぐる回るんじゃねェ! りん! ルカ! どこだコラァ!」
それでもすかさず立ち上がって、子供たちを捕まえようとするエドアルド。
彼のスタミナは無限か。
きゃあきゃあ言いながら逃げるりんちゃんとルカを追いかけて庭中を駆け回ったエドアルドは、最後にルーチェに木の棒で足をひっかけられ、1人で地面に転がった。
「はいはい。もう危ない遊びはおしまいですよ」
「え~! ルーチェちゃん! りんちゃんもっと遊ぶ~」
「ボクも、もうちょっと……いえ、なんでもありません」
「いいですよ、遊んでても。……でも今日はザクロのジュースとシフォンケーキがあるんですよねぇ」
「え? りんちゃんケーキ食べる!!」
「あ、シフォンケーキ……好きです!」
「はい、食べたい人は手を洗ってくださ~い」
「は~い」
なぜか地面に転がっていたエドアルドまで元気に返事をして、3人は庭の端にある手洗い場で手と足と顔を洗う。
寒空の中、冷たい水で手足を洗うと言うただそれだけのことで、りんちゃんたちはまた楽しそうに笑っていた。
僕は中庭に面した窓を閉じる。
りんちゃんたちの声が遠くなり、ただ見ていただけのはずの僕は、一気に襲ってきた疲れに大きくため息をついた。
「なんや、ルーチェも仲良うやっとるみたいやないか」
ドアの横で待機していたメイドさんにお茶のおかわりをお願いして、チコラは小さなクッキーを頬張る。
僕もついでにお茶をお願いして、ソファに腰を下ろした。
「うん、ルーチェはもともと社交的だからね。ルールを守らない人が嫌いなだけだから、もう大丈夫だと思うよ」
暖かいハーブティーが僕たちの前に置かれる。
ポットにおかわり分のお茶が入ってるのを確認して、僕はメイドさんに下がってもらった。
メイドさんがドアを閉めたのを確認して、僕はソファーに首までずり下がる。
本当はメイドさんに居てもらった方が何かと便利なんだけど、こうやって心の底からのんびりしたい時には、やっぱり家族以外の人がそばにいるのはちょっと苦手だった。
チコラはそんな僕のだらしない態度にも何も言わない。
ただお茶を飲んで、小さくあくびをしただけだった。
コッコッと、小さくノックの音がして、僕はすぐにソファに掛けなおす。
この鋭い感じのノックはファンテだ、
でも、いつもより音の間隔が少しだけ速い様に、僕には感じられた。
「開いとるで」
チコラの返事と同時に、ドアが開く。
予想通りに現れたファンテは、ドアを閉めるのももどかしそうに、僕らに向かってお辞儀をした。
「なんや、そないに慌てて」
「おくつろぎのところ申し訳ありません。クリスティアーノ様から連絡が入っております」
僕とチコラはある種の予感に襲われて、ソファから立ち上がる。
ファンテは、両手を固く握りしめ、僕たちを真っ直ぐに見つめて、それを告げた。
「ポルデローネが、災厄の魔王の眷属に襲われております」
僕は思っていたより落ち着いてその言葉を聞き、壁の死神の鎌を手に取ると、ドアを抜け、階段を駆け下りた。
◇ ◇ ◇ ◇
ついさっきまで子供たちが楽しげな声をあげていた中庭で、グリュプスが翼を広げて空を打つ。
翼が巻き起こした風は、事情を報告するために使いを送ったら見送りに来てくれたアンジェリカのスカートを翻させ、心配げに見つめるジョゼフの髪をなびかせた。
馬車は勢いよく舞い上がり、僕らの家を一瞬で小さな模型のサイズにしてしまう。
床に押し付けられるようなG、そして一瞬の浮遊感。僕らを乗せた馬車は雲の上で動きを止め、りんちゃんの号令と同時に、弾かれたように城塞都市ポルデローネを目指して飛んだ。
「……何度も言うけど、戦うのは僕とチコラ、あとファンテだけだからね」
小一時間もかからずに、馬車はポルデローネに到着するだろう。
僕は少しイライラした声で、みんなに確認を取った。
「俺様も戦った方がいいんじゃねぇか?」
「エドアルドにも手伝ってほしいのはやまやまだけど、今回はりんちゃんたちを守ってほしい。それに今は転移者が増えたことを千年王国側には知られない方が良いと思う」
「せやな。クリスティアーノの立場が揺らいどる今は、お前さんは出んほうがええ」
馬車には僕、チコラ、りんちゃん、ルーチェ、ルカ、マリアステラ、ファンテ……そしてエドアルド、つまり家族が全員乗っていた。
最初は僕とチコラ、そして連絡要員としてのファンテだけが討伐に向かうつもりだった。
でも、グリュプスはりんちゃんの命令しか聞いてくれない。
仕方なくりんちゃんが帯同することになり、必然的にりんちゃんを守ることが出来る人物も一緒に行くことになる。
僕とチコラを除いて、今眷属に対抗できそうなのは、エドアルドしか居なかった。
エドアルドとりんちゃんを2人だけにすることを不安に思ったマリアステラが同行を申し出る。
それを承認すると、今度は戦闘が長引いた場合に、マリアステラがエドアルドと夜に2人きりになる可能性が出て、僕は慌ててルーチェにも同行を頼むことになった。
そうなると、結局残るのはルカ一人になる。
戦闘になれば一番役に立たないのは自分だと言う自覚があるルカは、歯を食いしばって「留守を守ります」と言ってくれたけど、僕はりんちゃんから離れないことを条件に、ルカの帯同も認めることにした。
あんな悲しそうな顔を見せられたら、1人だけ置いていくなんて言えない。
それは僕が決めた事だったけど、馬車の中の雰囲気が「みんなで眷属を倒そう!」と言う方向に盛り上がり始めたのを見て、慌てて諌める形になったのだ。
「……そういうことだから、僕とチコラだけが戦う。みんなは僕らを下ろしたら眷属の手が届かない上空で待機してて」
「眷属って、お前らだけで倒せんのかよ?」
「……前回は、僕とチコラだけで倒すことが出来たよ。転移者とまではいかなくても、ファンテを含めて56枚の小アルカナの兵士が助力をしてくれる手はずになってるんだ。大丈夫だよ。だから、エドアルド、馬車の中のみんなのことはキミに任せる」
「あぁ、……あっくんがそういうならよ、まぁ任せとけ」
前回の眷属を僕たち2人だけで倒せたのは嘘じゃない。でもあれは言ってみれば捨て身の攻撃による相撃ちに近い。
それはみんな分かっていたけど、今は僕の言葉を信じて従ってくれていた。
「アクナレート様。ポルデローネが見えました」
「りんちゃん、ぐりりんに地上に降りるよう言ったってや」
りんちゃんの号令で、馬車が滑るように街道へと降りる。
一部に炎が上がっているものの、思ったより静かなポルデローネを眺めつつ、僕とファンテは同時に地面に降り立ち、デスサイズを構え直した僕の頭にはチコラがふわりと着地した。
「負けんじゃねぇぞ!」
「うん、ありがとう」
エドアルドの激に答えて、振り向いた僕は差し出された拳に自分の拳をぶつける。
にやりと笑って「よっしゃ! 待機だ!」と叫ぶエドアルドの後ろから、りんちゃんがひょいっと顔を出した。
一度口を開きかけ、唇をかんだりんちゃんは、にぱっといつもの笑顔をくれる。
「あっくん! おしごとがんばってね!」
りんちゃんの笑顔に力をもらった僕は、羽ばたくグリュプスの馬車に背を向け「いってきます!」と駆け出した。
「おー!」
「はい!」
中庭から子供たちの楽しそうな声が聞こえてくる。
朝食の後、勉強を終えたりんちゃんたちは、本気で構ってくれるエドアルドとの遊びに夢中になっていた。
子供たちと遊ぶのは楽しいけど、やっぱりかなり疲れる。
昨日僕とあんな決闘を繰り広げたはずの彼の体力に、僕は内心舌を巻いた。
「げんきやなぁ」
「だねぇ」
僕の部屋でハーブティを飲みながら、僕らは暖炉の前でくつろいでいる。
こんな寒い日に外に出なくていいのは、ある意味ありがたかった。
それでも、いつもなら「あっくんあそぼー!」と纏わりついてくるはずのりんちゃんが、一度も僕を呼びに来ないのは寂しい。
りんちゃんやルカが夢中になるような遊びってどんなだろうと興味を引かれて、僕は窓を開けて中庭を覗きこんだ。
「とー!」
気合と共に、りんちゃんが木の棒を振り回してエドアルドに襲い掛かる。
エドアルドは少しだけ体をずらして木の棒を受け流し、りんちゃんの背中をぽんと押して彼女を吹き飛ばした。
ごろんごろんと茶色い芝生の上を転がり、りんちゃんは枯葉の山に突っ込む。
「わはは! 俺様に勝とうなど百億光年早いわ!」
僕が頭の中で光年は距離の単位だよとツッコんでいると、後ろからルカが棒を打ち下ろした。
振り返りざまにそれをギリギリで受けたエドアルドは、「ほれ! ほれ!」と言いながらルカに剣戟を浴びせる。
手加減はしているのだろうけど、その結構なスピードの棒を、片手に杖を突きながら、それでもちゃんと全部受けているルカの腕前に僕は目を見張った。
しかし、10合目、エドアルドの棒がルカの棒を跳ね飛ばす。
空中でくるくると回った棒は、ルカの背後の地面に「カラン」と乾いた音を立てて転がった。
「ぐはははは! 相手が悪かったなルカ! 正義の鉄拳をくらえぇぇ!」
エドアルドは悪人丸出しの顔で、両足を肩幅以上に開き、真っ直ぐ上段に構えた棒を思いっきりルカに向かって振り下ろす。
しかしその棒は、ルカの頭に当たることなく、空中でぴたりと止まった。
残忍な笑顔に満ちていたエドアルドの顔が、見る見るうちに泣き顔になり、涙と鼻水と涎を垂らす。
ぷるぷると震える彼の股間には、いつの間にか背後から振り上げられたりんちゃんの棒が、見ているだけで僕が内股になってしまうほど、恐ろしい角度でめり込んでいた。
「り……りん……」
ぐらりと体を揺らし、振り返ったエドアルドの後頭部に、容赦のないルカの杖の一撃が見舞われる。
だらんと垂れていた鼻水を「ぶっ!」と吹き飛ばし、エドアルドは地面に倒れた。
「ルカくん! やったぁー!」
「りんちゃん! やりました!」
抱き合って喜ぶ2人。ぴくぴくと痙攣するエドアルド。慌てて駆け寄り、治癒魔法をかけるルーチェ。
すぐに回復したエドアルドは「がぁ~! ふざけんなコラぁ!」と大声を上げると、りんちゃんとルカを両手に抱え、ぐるんぐるんと振り回した。
「きゃあ~あはははははは!」
「あぁっ! あはははははは!」
上下に振り回されながら、なおかつ横回転。
しばらくそのまま子供たちの楽しそうな悲鳴と共に回っていたエドアルドだったけど、さすがに30秒ほどぐるぐる回ると、フラフラになって3人で枯葉の山に突っ込んでいった。
「きゃ~!」
「あはは!」
「おえぇぇ! 地面てめぇ! ぐるぐる回るんじゃねェ! りん! ルカ! どこだコラァ!」
それでもすかさず立ち上がって、子供たちを捕まえようとするエドアルド。
彼のスタミナは無限か。
きゃあきゃあ言いながら逃げるりんちゃんとルカを追いかけて庭中を駆け回ったエドアルドは、最後にルーチェに木の棒で足をひっかけられ、1人で地面に転がった。
「はいはい。もう危ない遊びはおしまいですよ」
「え~! ルーチェちゃん! りんちゃんもっと遊ぶ~」
「ボクも、もうちょっと……いえ、なんでもありません」
「いいですよ、遊んでても。……でも今日はザクロのジュースとシフォンケーキがあるんですよねぇ」
「え? りんちゃんケーキ食べる!!」
「あ、シフォンケーキ……好きです!」
「はい、食べたい人は手を洗ってくださ~い」
「は~い」
なぜか地面に転がっていたエドアルドまで元気に返事をして、3人は庭の端にある手洗い場で手と足と顔を洗う。
寒空の中、冷たい水で手足を洗うと言うただそれだけのことで、りんちゃんたちはまた楽しそうに笑っていた。
僕は中庭に面した窓を閉じる。
りんちゃんたちの声が遠くなり、ただ見ていただけのはずの僕は、一気に襲ってきた疲れに大きくため息をついた。
「なんや、ルーチェも仲良うやっとるみたいやないか」
ドアの横で待機していたメイドさんにお茶のおかわりをお願いして、チコラは小さなクッキーを頬張る。
僕もついでにお茶をお願いして、ソファに腰を下ろした。
「うん、ルーチェはもともと社交的だからね。ルールを守らない人が嫌いなだけだから、もう大丈夫だと思うよ」
暖かいハーブティーが僕たちの前に置かれる。
ポットにおかわり分のお茶が入ってるのを確認して、僕はメイドさんに下がってもらった。
メイドさんがドアを閉めたのを確認して、僕はソファーに首までずり下がる。
本当はメイドさんに居てもらった方が何かと便利なんだけど、こうやって心の底からのんびりしたい時には、やっぱり家族以外の人がそばにいるのはちょっと苦手だった。
チコラはそんな僕のだらしない態度にも何も言わない。
ただお茶を飲んで、小さくあくびをしただけだった。
コッコッと、小さくノックの音がして、僕はすぐにソファに掛けなおす。
この鋭い感じのノックはファンテだ、
でも、いつもより音の間隔が少しだけ速い様に、僕には感じられた。
「開いとるで」
チコラの返事と同時に、ドアが開く。
予想通りに現れたファンテは、ドアを閉めるのももどかしそうに、僕らに向かってお辞儀をした。
「なんや、そないに慌てて」
「おくつろぎのところ申し訳ありません。クリスティアーノ様から連絡が入っております」
僕とチコラはある種の予感に襲われて、ソファから立ち上がる。
ファンテは、両手を固く握りしめ、僕たちを真っ直ぐに見つめて、それを告げた。
「ポルデローネが、災厄の魔王の眷属に襲われております」
僕は思っていたより落ち着いてその言葉を聞き、壁の死神の鎌を手に取ると、ドアを抜け、階段を駆け下りた。
◇ ◇ ◇ ◇
ついさっきまで子供たちが楽しげな声をあげていた中庭で、グリュプスが翼を広げて空を打つ。
翼が巻き起こした風は、事情を報告するために使いを送ったら見送りに来てくれたアンジェリカのスカートを翻させ、心配げに見つめるジョゼフの髪をなびかせた。
馬車は勢いよく舞い上がり、僕らの家を一瞬で小さな模型のサイズにしてしまう。
床に押し付けられるようなG、そして一瞬の浮遊感。僕らを乗せた馬車は雲の上で動きを止め、りんちゃんの号令と同時に、弾かれたように城塞都市ポルデローネを目指して飛んだ。
「……何度も言うけど、戦うのは僕とチコラ、あとファンテだけだからね」
小一時間もかからずに、馬車はポルデローネに到着するだろう。
僕は少しイライラした声で、みんなに確認を取った。
「俺様も戦った方がいいんじゃねぇか?」
「エドアルドにも手伝ってほしいのはやまやまだけど、今回はりんちゃんたちを守ってほしい。それに今は転移者が増えたことを千年王国側には知られない方が良いと思う」
「せやな。クリスティアーノの立場が揺らいどる今は、お前さんは出んほうがええ」
馬車には僕、チコラ、りんちゃん、ルーチェ、ルカ、マリアステラ、ファンテ……そしてエドアルド、つまり家族が全員乗っていた。
最初は僕とチコラ、そして連絡要員としてのファンテだけが討伐に向かうつもりだった。
でも、グリュプスはりんちゃんの命令しか聞いてくれない。
仕方なくりんちゃんが帯同することになり、必然的にりんちゃんを守ることが出来る人物も一緒に行くことになる。
僕とチコラを除いて、今眷属に対抗できそうなのは、エドアルドしか居なかった。
エドアルドとりんちゃんを2人だけにすることを不安に思ったマリアステラが同行を申し出る。
それを承認すると、今度は戦闘が長引いた場合に、マリアステラがエドアルドと夜に2人きりになる可能性が出て、僕は慌ててルーチェにも同行を頼むことになった。
そうなると、結局残るのはルカ一人になる。
戦闘になれば一番役に立たないのは自分だと言う自覚があるルカは、歯を食いしばって「留守を守ります」と言ってくれたけど、僕はりんちゃんから離れないことを条件に、ルカの帯同も認めることにした。
あんな悲しそうな顔を見せられたら、1人だけ置いていくなんて言えない。
それは僕が決めた事だったけど、馬車の中の雰囲気が「みんなで眷属を倒そう!」と言う方向に盛り上がり始めたのを見て、慌てて諌める形になったのだ。
「……そういうことだから、僕とチコラだけが戦う。みんなは僕らを下ろしたら眷属の手が届かない上空で待機してて」
「眷属って、お前らだけで倒せんのかよ?」
「……前回は、僕とチコラだけで倒すことが出来たよ。転移者とまではいかなくても、ファンテを含めて56枚の小アルカナの兵士が助力をしてくれる手はずになってるんだ。大丈夫だよ。だから、エドアルド、馬車の中のみんなのことはキミに任せる」
「あぁ、……あっくんがそういうならよ、まぁ任せとけ」
前回の眷属を僕たち2人だけで倒せたのは嘘じゃない。でもあれは言ってみれば捨て身の攻撃による相撃ちに近い。
それはみんな分かっていたけど、今は僕の言葉を信じて従ってくれていた。
「アクナレート様。ポルデローネが見えました」
「りんちゃん、ぐりりんに地上に降りるよう言ったってや」
りんちゃんの号令で、馬車が滑るように街道へと降りる。
一部に炎が上がっているものの、思ったより静かなポルデローネを眺めつつ、僕とファンテは同時に地面に降り立ち、デスサイズを構え直した僕の頭にはチコラがふわりと着地した。
「負けんじゃねぇぞ!」
「うん、ありがとう」
エドアルドの激に答えて、振り向いた僕は差し出された拳に自分の拳をぶつける。
にやりと笑って「よっしゃ! 待機だ!」と叫ぶエドアルドの後ろから、りんちゃんがひょいっと顔を出した。
一度口を開きかけ、唇をかんだりんちゃんは、にぱっといつもの笑顔をくれる。
「あっくん! おしごとがんばってね!」
りんちゃんの笑顔に力をもらった僕は、羽ばたくグリュプスの馬車に背を向け「いってきます!」と駆け出した。
0
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる