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シーズン後半
第13話「10番」
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GK片端を除く全選手を少しずつ休ませ、ローテーションを組むように始まったシーズン後半、2巡目の対戦は茨の道だった。
鬼怒川デモニーオ戦から3連敗、そして引き分けを挟んで2連敗を喫すると、一気に順位は6位まで落ちる。
つい先日まで『19戦無敗!』などと煽っていた新聞や雑誌は『泥沼の11戦連続勝ちなし!』と手のひらを返し、成績に比例するように入場者数も5千人程度まで減っていった。
J3第25節。二度目の連敗を喫したこの試合には、初めて多喜城FCの10番を背負う、財満 信行もベンチ入りし、事前の情報でそれを知ったサポーターは期待を持ってゴール裏へと詰めかける。
戦術上の理由で最後まで出場のチャンスはなかったものの、本人も監督も着実に一歩前進したという満足感を覚えている。しかし、連敗中、攻撃の切り札を欲していたサポーターは1点ビハインドの後半に攻撃的な交代をしなかった清川監督に対して、不満を抱く結果となった。
連敗により鬱積した不満は、財満の出場がなかったことをきっかけに爆発した。
試合終了後、ゴール裏に陣取ったコアサポーターは引き上げる気配を見せない。
「清川監督を出せ!」
「納得の行く説明を聞かせろ!」
「ふざけた練習をしている理由を聞かせろ!」
「財満を出場させろ!」
口々に言い募るその言葉は、スタジアムを不法にジャックしているその行為と同じく批判されるべきものだったが、それでもそれは、チームを思う気持ちから出ている言葉だった。
騒ぎを知った清川がピッチに出ようとするのを、多喜城FCの広報部長、伊達 雫が押しとどめる。
「ここは私たちスタッフに任せて下さい。選手や監督を矢面に立たせたのでは、私たちの存在意義がなくなります」
「俺が行かなきゃ収まんねぇだろ」
「いえ、居残りをしているサポーターは、多喜城FC設立時からの古いサポーターたちです。付き合いの長さでは監督にも負けません。私たちにも出来る事は有ります」
押し問答をする清川と雫の背後から、ゆっくりと姿を表したのは相良社長だった。
「おいさまがせで、ロッカーさいってらいん。ちょこっとばり喋ってくっから」
清川と雫の肩をポンと叩き、社長は真っ直ぐにゴール裏へ向かった。
30分ほどして戻って来た相良社長と雫に、サポーターは帰りのバスから清川監督の一言を貰うことで、今回は大人しく帰ると言う約束を取り付けたとの報告を受けた。
「一言ってなんだよ」
「その……、次は勝つとか、がんばりますとか、そういうのでいいんじゃないですか?」
雫の曖昧な返事に、清川はガリガリと頭をかく。
「そんなんで納得するか? 俺なら納得できんぞ。まぁいい、とにかくこいつらのボディケアが優先だ。どんな言葉を言うかはサポの顔を見てから決めよう」
やっと選手たちの乗り込んだバスがスタジアムのスタッフ用スロープから表に出ると、その出入口はサポーターで埋まっていた。
約束通り、清川が窓から顔を出す。
「なんでふざけた練習をしているんだ!」
「なぜ財満を出場させなかった!」
清川にかけられる声は、先ほどスタンドで聞いた言葉と何ら変わらない。
やっぱり納得している訳ではないのだ。清川は溜息をつくと、昇降口を開きバスを降りた。
「選手は次の試合のためのボディケアをしなきゃならん。話は俺がするからよ、こいつらは帰してやってくれ」
ザワつくサポーター集団の中に、もう一人、バスから飛び降りてきたのは財満だった。
「俺も、みんなに話があるから残るよ」
財満が頭を下げながらバスの前を塞ぐサポーターにどいてもらう。
ゆるゆると動き出したバスからの他の選手たちの不安げな視線を浴びて、清川と財満は手を振り、サポーターとともにそれを見送った。
契約時間はとっくに過ぎている。いつまでもスタジアムに居る訳にはいかない。
財満の発案で併設された公園に移動した清川たちは、普段なら犬の散歩をする人くらいしか見かけない土手に腰を下ろした。
30人ほどのコアサポーターたちも、斜面に並んで腰を下ろす。
本当なら清川と財満を取り囲むように集まるのが普通だろうと思われたが、思ったよりも急な斜面だったので3列ほどに横並びに座り、全員が川の方向を向く形になっているのを見回して、清川は小さく笑った。
「……俺が……」
一度は座ったもののすぐに立ち上がり、くるりとサポーターの方を向いた財満が口火を切った。
「俺が怪我ばかりで試合に出られなかったのを、きっちり治るまで焦らず待ってくれたのは、サポーターのみんなとキヨさんだ。今日は右サイドのローテの都合で出番はなかったけど、次こそイケると俺は確信したよ。悪いけど、もう一試合待ってもらえないかな」
財満の口から出たのは、謝罪ではなくお願いだった。いや、感謝の言葉と言ってもいい。
意表を突かれたサポーターたちは口をつぐんだ。
「俺は、多喜城の10番なんだ。これから優勝へ向けて、ふさわしい活躍をする。活躍できるんだ、俺の足、治ったんだよ。やっとみんなに、キヨさんに恩が返せる。だから、このまま……優勝まで一緒に戦って欲しい」
「……優勝できんのかよ」
サポーターの一人が口を開く。
それを皮切りに、他のサポーターも次々と口を開いた。しかし、その言葉は先程までの罵声のようなものではない、自分たちの好きなチームの不振を心の底から心配する、納得の行く答えを探す者達のそれだった。
その質問の一つ一つに、清川は丁寧に答える。
雫と触れ合ううちにいつの間にか覚えた、疑問をわかりやすく説明すると言う言葉の使い方が役に立っていた。
Jリーグの常識を破り、シーズンの頭にコンディションのピークを持ってきたこと、連勝の記録にペースを落とす判断が遅れたこと、そのことによる選手の怪我。練習のペースを替え、やっとコンディションを戻すことに成功し始めたこと。
今日の試合のことも含め、選手交代や戦術指示への質問にも出来る限り答えた。
試合終了からここまで約3時間。すっかり日も暮れた河川敷の公園で、清川とサポーターは固く握手を交わした。
「来週は多喜城の10番の復活を見せてよ」
「待ちに待った俺たちのエースの復活劇だからさ」
サポーターたちのその言葉に、財満も身を震わせて頭を下げる。
三々五々帰ってゆくサポーターを見送り、清川は雫に連絡を入れると、財満と共にタクシーに乗り込んだ。
後部座席に並んで座った二人は、真っ直ぐに正面を見つめたまま黙って車に揺られていた。
サポーターの熱い一言一言を反芻するように考えなおしていたのだ。
ふと、清川が財満へ言葉をかける。
「そう言えばよ、俺ぁ次節もお前をスタメンで出す気はねぇぞ?」
難しい顔で正面を向いたまま、財満は目をつぶる。
「わかってるよキヨさん。……でも出るとしたら10分以上は出場時間が欲しいな」
「謙虚だな。いや、ある意味傲慢か。……たった10分で仕事できんのかよ?」
初めて、二人は顔を向き合わせる。
財満は片方の眉を吊り上げ、さも当然といった表情であごひげをなでた。
「当然だよ。俺は多喜城FCの不動の10番だからね」
ニヤリと笑った二人は、また正面を向いてタクシーの揺れに身を任せる。
タクシーの窓に映る二人の表情は、自信に溢れていた。
次節、アウェイ盛岡で行われるJ3第26節。
遠方にもかかわらず、ビジター席は多喜城FCのチームカラーに染まっていた。
監督と財満を先頭に選手がピッチに挨拶に出ると、5百人以上の多喜城サポーターから、ホーム盛岡の応援をかき消すほどの音量で監督を筆頭に各選手のチャントが流れ出す。
頭を下げ、手を振ってベンチに戻ろうとした選手に向けて、スタンドの一番前に初めて見る長い横断幕が勢い良く広げられた。
『俺達はいつだってここに居る! 共に行こう! 頂上へ!』
太鼓がより一層大きく強くなり響き、「多喜城FC!」のチームチャントが続く。
横断幕の向こう側に、久々に「Mr.多喜城 10 財満」のゲートフラッグも高々と掲げられていた。
「キヨさん、俺! ……俺!」
涙が零れないように歯を食いしばりながら、財満が清川に言葉をかける。
清川は選手たちを呼び寄せると円陣を組み、静かに語りだした。
「俺らのとこの最高のサポーターは、ウチのエースをご所望だ。だが、まだキツい場面では出したくねぇ。後半30分、そこまでに勝ち越しておけ。そこで10番を出す」
「おうっ!」
重なりあった選手の声は、獣の咆哮のようにピッチに響く。
コーチ陣の日々の奮闘によりコンディションを回復し始めた選手たちは、いつも以上の気合を持ってピッチへ散った。
後半34分。
ピッチ脇に掲げられたのは『9:10』の掲示板。
一瞬のざわつきの後、多喜城サポーターから絶叫にも近い歓声が上がる。
今日2得点を叩き出したアリオスに替わり、右足からピッチに入ったのは、かつて「天才」と言う二つ名を欲しいままにした多喜城FCのエース、財満 信行。
彼は自身のチャントに迎えられ、1年8ヶ月ぶりにピッチに立った。
「どうだ、膝は」
勝利の余韻にひたる静かなチームバス。ロードノイズだけが聴こえる多喜城市へと戻る高速道路上で、清川は財満に声をかけた。
「快調だよ。今からもう一試合だって出来る」
放心したような、満足気な表情で椅子にもたれていた財満が、長い吐息とともに答える。
「そりゃあ良かった」
清川も静かにそう返す。
出場時間14分。ノーゴール・ノーアシスト。そんな数字しか残っていない試合は、財満にとって、サポーターにとって、多喜城FCにとって濃厚で有意義な時間だった。
「まぁ頼むわ。残り14試合で、お前には1シーズン分の働きをしてもらわなきゃならんからな」
トレーナーに言われた通り膝をアイシングしながら、財満は「まかせてよ」とつぶやいた。
40試合中26試合を終えて多喜城FCの順位は5位。当初の勢いは無くなったものの、それは十分優勝を狙える位置だった。
鬼怒川デモニーオ戦から3連敗、そして引き分けを挟んで2連敗を喫すると、一気に順位は6位まで落ちる。
つい先日まで『19戦無敗!』などと煽っていた新聞や雑誌は『泥沼の11戦連続勝ちなし!』と手のひらを返し、成績に比例するように入場者数も5千人程度まで減っていった。
J3第25節。二度目の連敗を喫したこの試合には、初めて多喜城FCの10番を背負う、財満 信行もベンチ入りし、事前の情報でそれを知ったサポーターは期待を持ってゴール裏へと詰めかける。
戦術上の理由で最後まで出場のチャンスはなかったものの、本人も監督も着実に一歩前進したという満足感を覚えている。しかし、連敗中、攻撃の切り札を欲していたサポーターは1点ビハインドの後半に攻撃的な交代をしなかった清川監督に対して、不満を抱く結果となった。
連敗により鬱積した不満は、財満の出場がなかったことをきっかけに爆発した。
試合終了後、ゴール裏に陣取ったコアサポーターは引き上げる気配を見せない。
「清川監督を出せ!」
「納得の行く説明を聞かせろ!」
「ふざけた練習をしている理由を聞かせろ!」
「財満を出場させろ!」
口々に言い募るその言葉は、スタジアムを不法にジャックしているその行為と同じく批判されるべきものだったが、それでもそれは、チームを思う気持ちから出ている言葉だった。
騒ぎを知った清川がピッチに出ようとするのを、多喜城FCの広報部長、伊達 雫が押しとどめる。
「ここは私たちスタッフに任せて下さい。選手や監督を矢面に立たせたのでは、私たちの存在意義がなくなります」
「俺が行かなきゃ収まんねぇだろ」
「いえ、居残りをしているサポーターは、多喜城FC設立時からの古いサポーターたちです。付き合いの長さでは監督にも負けません。私たちにも出来る事は有ります」
押し問答をする清川と雫の背後から、ゆっくりと姿を表したのは相良社長だった。
「おいさまがせで、ロッカーさいってらいん。ちょこっとばり喋ってくっから」
清川と雫の肩をポンと叩き、社長は真っ直ぐにゴール裏へ向かった。
30分ほどして戻って来た相良社長と雫に、サポーターは帰りのバスから清川監督の一言を貰うことで、今回は大人しく帰ると言う約束を取り付けたとの報告を受けた。
「一言ってなんだよ」
「その……、次は勝つとか、がんばりますとか、そういうのでいいんじゃないですか?」
雫の曖昧な返事に、清川はガリガリと頭をかく。
「そんなんで納得するか? 俺なら納得できんぞ。まぁいい、とにかくこいつらのボディケアが優先だ。どんな言葉を言うかはサポの顔を見てから決めよう」
やっと選手たちの乗り込んだバスがスタジアムのスタッフ用スロープから表に出ると、その出入口はサポーターで埋まっていた。
約束通り、清川が窓から顔を出す。
「なんでふざけた練習をしているんだ!」
「なぜ財満を出場させなかった!」
清川にかけられる声は、先ほどスタンドで聞いた言葉と何ら変わらない。
やっぱり納得している訳ではないのだ。清川は溜息をつくと、昇降口を開きバスを降りた。
「選手は次の試合のためのボディケアをしなきゃならん。話は俺がするからよ、こいつらは帰してやってくれ」
ザワつくサポーター集団の中に、もう一人、バスから飛び降りてきたのは財満だった。
「俺も、みんなに話があるから残るよ」
財満が頭を下げながらバスの前を塞ぐサポーターにどいてもらう。
ゆるゆると動き出したバスからの他の選手たちの不安げな視線を浴びて、清川と財満は手を振り、サポーターとともにそれを見送った。
契約時間はとっくに過ぎている。いつまでもスタジアムに居る訳にはいかない。
財満の発案で併設された公園に移動した清川たちは、普段なら犬の散歩をする人くらいしか見かけない土手に腰を下ろした。
30人ほどのコアサポーターたちも、斜面に並んで腰を下ろす。
本当なら清川と財満を取り囲むように集まるのが普通だろうと思われたが、思ったよりも急な斜面だったので3列ほどに横並びに座り、全員が川の方向を向く形になっているのを見回して、清川は小さく笑った。
「……俺が……」
一度は座ったもののすぐに立ち上がり、くるりとサポーターの方を向いた財満が口火を切った。
「俺が怪我ばかりで試合に出られなかったのを、きっちり治るまで焦らず待ってくれたのは、サポーターのみんなとキヨさんだ。今日は右サイドのローテの都合で出番はなかったけど、次こそイケると俺は確信したよ。悪いけど、もう一試合待ってもらえないかな」
財満の口から出たのは、謝罪ではなくお願いだった。いや、感謝の言葉と言ってもいい。
意表を突かれたサポーターたちは口をつぐんだ。
「俺は、多喜城の10番なんだ。これから優勝へ向けて、ふさわしい活躍をする。活躍できるんだ、俺の足、治ったんだよ。やっとみんなに、キヨさんに恩が返せる。だから、このまま……優勝まで一緒に戦って欲しい」
「……優勝できんのかよ」
サポーターの一人が口を開く。
それを皮切りに、他のサポーターも次々と口を開いた。しかし、その言葉は先程までの罵声のようなものではない、自分たちの好きなチームの不振を心の底から心配する、納得の行く答えを探す者達のそれだった。
その質問の一つ一つに、清川は丁寧に答える。
雫と触れ合ううちにいつの間にか覚えた、疑問をわかりやすく説明すると言う言葉の使い方が役に立っていた。
Jリーグの常識を破り、シーズンの頭にコンディションのピークを持ってきたこと、連勝の記録にペースを落とす判断が遅れたこと、そのことによる選手の怪我。練習のペースを替え、やっとコンディションを戻すことに成功し始めたこと。
今日の試合のことも含め、選手交代や戦術指示への質問にも出来る限り答えた。
試合終了からここまで約3時間。すっかり日も暮れた河川敷の公園で、清川とサポーターは固く握手を交わした。
「来週は多喜城の10番の復活を見せてよ」
「待ちに待った俺たちのエースの復活劇だからさ」
サポーターたちのその言葉に、財満も身を震わせて頭を下げる。
三々五々帰ってゆくサポーターを見送り、清川は雫に連絡を入れると、財満と共にタクシーに乗り込んだ。
後部座席に並んで座った二人は、真っ直ぐに正面を見つめたまま黙って車に揺られていた。
サポーターの熱い一言一言を反芻するように考えなおしていたのだ。
ふと、清川が財満へ言葉をかける。
「そう言えばよ、俺ぁ次節もお前をスタメンで出す気はねぇぞ?」
難しい顔で正面を向いたまま、財満は目をつぶる。
「わかってるよキヨさん。……でも出るとしたら10分以上は出場時間が欲しいな」
「謙虚だな。いや、ある意味傲慢か。……たった10分で仕事できんのかよ?」
初めて、二人は顔を向き合わせる。
財満は片方の眉を吊り上げ、さも当然といった表情であごひげをなでた。
「当然だよ。俺は多喜城FCの不動の10番だからね」
ニヤリと笑った二人は、また正面を向いてタクシーの揺れに身を任せる。
タクシーの窓に映る二人の表情は、自信に溢れていた。
次節、アウェイ盛岡で行われるJ3第26節。
遠方にもかかわらず、ビジター席は多喜城FCのチームカラーに染まっていた。
監督と財満を先頭に選手がピッチに挨拶に出ると、5百人以上の多喜城サポーターから、ホーム盛岡の応援をかき消すほどの音量で監督を筆頭に各選手のチャントが流れ出す。
頭を下げ、手を振ってベンチに戻ろうとした選手に向けて、スタンドの一番前に初めて見る長い横断幕が勢い良く広げられた。
『俺達はいつだってここに居る! 共に行こう! 頂上へ!』
太鼓がより一層大きく強くなり響き、「多喜城FC!」のチームチャントが続く。
横断幕の向こう側に、久々に「Mr.多喜城 10 財満」のゲートフラッグも高々と掲げられていた。
「キヨさん、俺! ……俺!」
涙が零れないように歯を食いしばりながら、財満が清川に言葉をかける。
清川は選手たちを呼び寄せると円陣を組み、静かに語りだした。
「俺らのとこの最高のサポーターは、ウチのエースをご所望だ。だが、まだキツい場面では出したくねぇ。後半30分、そこまでに勝ち越しておけ。そこで10番を出す」
「おうっ!」
重なりあった選手の声は、獣の咆哮のようにピッチに響く。
コーチ陣の日々の奮闘によりコンディションを回復し始めた選手たちは、いつも以上の気合を持ってピッチへ散った。
後半34分。
ピッチ脇に掲げられたのは『9:10』の掲示板。
一瞬のざわつきの後、多喜城サポーターから絶叫にも近い歓声が上がる。
今日2得点を叩き出したアリオスに替わり、右足からピッチに入ったのは、かつて「天才」と言う二つ名を欲しいままにした多喜城FCのエース、財満 信行。
彼は自身のチャントに迎えられ、1年8ヶ月ぶりにピッチに立った。
「どうだ、膝は」
勝利の余韻にひたる静かなチームバス。ロードノイズだけが聴こえる多喜城市へと戻る高速道路上で、清川は財満に声をかけた。
「快調だよ。今からもう一試合だって出来る」
放心したような、満足気な表情で椅子にもたれていた財満が、長い吐息とともに答える。
「そりゃあ良かった」
清川も静かにそう返す。
出場時間14分。ノーゴール・ノーアシスト。そんな数字しか残っていない試合は、財満にとって、サポーターにとって、多喜城FCにとって濃厚で有意義な時間だった。
「まぁ頼むわ。残り14試合で、お前には1シーズン分の働きをしてもらわなきゃならんからな」
トレーナーに言われた通り膝をアイシングしながら、財満は「まかせてよ」とつぶやいた。
40試合中26試合を終えて多喜城FCの順位は5位。当初の勢いは無くなったものの、それは十分優勝を狙える位置だった。
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