【完結済み】私達はあなたを決して許しません

asami

文字の大きさ
30 / 82

30

しおりを挟む
 私の名前はマリア。裕福な家に生まれ、何不自由ない生活を送ってきた。だが、私の人生はある日、突如として暗転した。それは、婚約者であるレックスからの婚約破棄の知らせだった。彼は私に向かって冷たい目を向け、「君との未来は考えられない」と告げた。その言葉はまるで刃物のように、私の心を深く切り裂いた。



「どうして…私が何をしたというの?」私は涙をこらえながら問い詰めたが、レックスはただ視線を逸らすだけだった。彼の背中は、私の心の奥底に渦巻く絶望の象徴のように見えた。彼が私を捨てた理由は、同じ貴族の娘リリアナに心を奪われたからだと、後に知ることとなる。



その瞬間から、私の心に復讐の炎が燃え上がった。私は、ただ悲しむだけの令嬢ではなかった。恨みを抱えた私の心は、次第に闇に飲み込まれていく。







数日後、私は自宅の庭で一人静かに考えていた。周囲の美しい花々が、私の心情とは裏腹に色とりどりに咲き誇る。だがその美しさも、私にとってはただの仮面であり、心の底からは何も感じられなかった。



「どうすれば、彼らに痛みを与えられるのか…」私は独り言を呟く。ふと、庭の奥にある古びた小屋が目に入った。子供の頃、そこにはいくつかの伝説があった。その中には、「恨みを抱く者の願いを叶える呪いの書」と呼ばれるものが存在すると聞いていた。



その夜、月明かりの中、私はその小屋へ向かった。扉は古びて重く、開けるのが難しかったが、私は意を決して中へと足を踏み入れた。暗闇の中、埃まみれの本が並ぶ棚が目に入る。私はその中から、一冊の古い本を取り出した。



「この本が、私の手助けをしてくれるはず…」






本を読み進めるうちに、私は復讐の儀式が必要だということを理解した。心の中に渦巻く憎しみを具現化するためには、特別な材料が必要だった。それは、かつて愛した者の痛みを引き出すためのもの。私は、レックスとリリアナの血を集めることを決意した。



数日後、私は彼らの動きを観察するため、街の中に姿を隠していた。二人は仲良く笑い合いながら、街を歩いていた。その光景は、私の心にさらなる絶望をもたらした。彼らの幸せを壊すためには、何としても計画を実行しなければならない。



ある晩、私は彼らの家の近くで待ち伏せをした。月明かりに照らされた通りは静まり返り、時折風の音が聞こえてくる。レックスとリリアナが現れたとき、心臓が高鳴る。彼らの姿を見た瞬間、復讐の決意がさらに強くなった。



「今だ…」



私は急いで彼らに近づき、背後から襲いかかった。驚愕の表情を浮かべる二人。しかし、私の手には黒い水晶が握られていた。それが、私の復讐の象徴だった。







レックスとリリアナをさらなる闇へと引き込むため、私は彼らを小屋へと連れ込んだ。彼らの目には恐れが浮かんでいた。私は呪文を唱え、彼らの血を一滴ずつ集める儀式を始めた。



「これが私の復讐だ。あなたたちに味わわせてあげる…私の痛みを。」



その瞬間、空気が凍りついた。血が黒い水晶に吸い込まれ、異様な光を放った。その光は、私の周りを取り囲み、次第に二人の顔を歪ませていく。



「やめろ、マリア!」レックスの叫びが虚しく響く。私はその声を無視し、呪文を続けた。



すると、彼らの姿が次第にぼやけ、影のようになっていく。その瞬間、私は自分の心に潜む恐ろしい感情に気づいた。復讐を果たすことで、私は自分自身をも失うかもしれない。



「これで本当に良かったのか…?」



その思いが頭をよぎった瞬間、光は消え、静寂が戻った。目の前には何もなく、ただ私一人が取り残されていた。復讐の果てに、私が求めていたものは何だったのか。






その後、私は小屋を後にした。心の中に広がる虚無感に襲われ、自分の行いの意味を考え続けた。復讐によって何かを得られると思っていた。しかし、実際には、失ったものの大きさに気づかされた。



私自身が闇に飲み込まれたのだ。復讐の果てに待っていたのは、孤独だけだった。かつて愛した者たちを憎むことで、私は自分をも愛せなくなってしまった。



「私は何をしてしまったのか…」



その思いが心に棲みつき、私を苛む。婚約破棄の痛みを乗り越えようとした結果、私が選んだ道は、果たして正しかったのだろうか。闇に消えたレックスとリリアナの影を思い出し、私は一人、静かな夜の中に佇んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』

しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。 どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。 しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、 「女は馬鹿なくらいがいい」 という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。 出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない―― そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、 さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。 王太子は無能さを露呈し、 第二王子は野心のために手段を選ばない。 そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。 ならば―― 関わらないために、関わるしかない。 アヴェンタドールは王国を救うため、 政治の最前線に立つことを選ぶ。 だがそれは、権力を欲したからではない。 国を“賢く”して、 自分がいなくても回るようにするため。 有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、 ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、 静かな勝利だった。 ---

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

私の事を婚約破棄した後、すぐに破滅してしまわれた元旦那様のお話

睡蓮
恋愛
サーシャとの婚約関係を、彼女の事を思っての事だと言って破棄することを宣言したクライン。うれしそうな雰囲気で婚約破棄を実現した彼であったものの、その先で結ばれた新たな婚約者との関係は全くうまく行かず、ある理由からすぐに破滅を迎えてしまう事に…。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

モブは転生ヒロインを許さない

成行任世
恋愛
死亡ルートを辿った攻略対象者の妹(モブ)が転生ヒロインを断罪します。 .

【短編】その婚約破棄、本当に大丈夫ですか?

佐倉穂波
恋愛
「僕は“真実の愛”を見つけたんだ。意地悪をするような君との婚約は破棄する!」  テンプレートのような婚約破棄のセリフを聞いたフェリスの反応は?  よくある「婚約破棄」のお話。  勢いのまま書いた短い物語です。  カテゴリーを児童書にしていたのですが、投稿ガイドラインを確認したら「婚約破棄」はカテゴリーエラーと記載されていたので、恋愛に変更しました。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

9時から5時まで悪役令嬢

西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」 婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。 ならば私は願い通りに動くのをやめよう。 学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで 昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。 さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。 どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。 卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ? なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか? 嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。 今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。 冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。 ☆別サイトにも掲載しています。 ※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。 これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。

処理中です...