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第九話

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 このお話は私、永井公子が大学生のころに経験した恐怖の心霊体験です。それは昭和五十三年の秋のある夜のこと、私はいつものようにベッドに横になりながら本を読んでいました。すると突然、天井から「ジー」という音が聞こえてきたのです。
何の音だろうと思いましたが、私の部屋は二階でしたので、その音は上の階から伝わってくるものだと思いました。しかし、それきり何も聞こえてきません。気になって仕方がなかった私は、部屋の電気を点けて窓の外を見てみました。ところが外には人影もなく、家の中で起きている気配もありません。
でも、確かにあの音は上の階の方から聞こえたような気がする……そう思ったとき、また同じ音がしてきました。今度はさっきよりもハッキリと聞こえます。しかも、先ほどよりも大きくなっています。どうやら音はこちらに向かって近づいてくるようです。私は怖くなってベッドの中に潜り込みました。そして目を閉じて必死に耳を澄ませているうちに、ようやく音の源が何なのか分かりました。それは電話機のベルだったのです。
電話機には留守番機能が付いていて、ベルが鳴ると自動的に録音が始まります。つまり、誰かが電話をかけてきて、それを録音しているということなのです。しかし、こんな時間にいったい誰が? 私が考えている間にもベルは鳴り続けています。このままでは眠れないと思った私は、思い切って受話器を取ってみました。すると、案の定、知らない男性の声が流れてきました。
「永井さんですね?」
「はい……どちらさまでしょうか?」
「ぼくですよ、佐藤君彦です」
佐藤君彦というのは私の同級生の名前です。彼は中学のときからの友達でしたが、高校を卒業してからは一度も会っていませんでした。でも、なぜ彼が私の家に電話をかけてきたのか不思議でなりません。
「実は、今あなたの後ろにいるんですけど……」
一瞬、背筋に冷たいものが走りました。まさかとは思っていましたが、本当に後ろにいるなんて……。私は恐る恐る後ろを振り返りました。そこには誰も立ってはいません。ただ、カーテンの隙間から漏れてくる月明かりだけが、ぼんやりと床を照らしていました。
「もう大丈夫です。安心してください」
声の主の姿は見えませんが、間違いなく彼の声でした。そこでもう一度振り返ると、部屋の隅に人影が見えました。思わず悲鳴を上げそうになった瞬間、人影はスッと消えてしまいました。その後、何度振り向いても彼を見つけることはできませんでした。でも、今でもはっきりと覚えているのは、彼がこう言ったことです。
「また来ますね」
あれ以来、佐藤君は姿を見せていません。でも、もしかすると今もどこかにいるかもしれません。なぜなら、私の家の近所にある古い病院に幽霊が出るという噂があるからです。
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