強面さまの溺愛様

こんこん

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一章

懐いているのか、懐かれているのか、です

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「審査員?……ロードさんが、ですか?」
「そのうちの一人だ」

只今ロゼはぜルドと第一訓練場で訓練中の休憩を取っているところだった。土色の葉が落ちてゆく大木の、その横のベンチに座ってぽつりぽつりと言葉少なに話している。まあ座っていても、ロゼは大分上を向いて話さなければならないのだが。
二人で話しているとふと選抜の話になり、ロゼはリデナスの隊、第一聖師団第一隊を希望するつもりだと言ったのだが。
それに対するゼルドの言葉は、「知っている」だった。なんで知ってるのかとビックリするロゼに対して、更に冒頭の言葉が出てきたわけだ。

「えと、まず聞いてもいいですか?希望届けは一律明日提出なので、もちろん私もまだ出していません。周りの人にも数人しか言ってないし……何処で私の希望先を……?」

そう聞いた時、ぜルドの厳つい眉が僅かにぴく、と動いた。

「……………………………………………………………………………………隊長から、聞いた」

――――ため長っ!若干目が泳いでる気もするし、…………嘘をついてるんでしょうか?いえ、ロードさんはそんなことしませんし、第一ここで嘘をつく理由はありませんよね。疑っては失礼です。

観察眼はあるのに、純真な為あっさりと騙されるロゼ。この先が不安である。

「それは失礼しました。――ロードさんが審査員なら、何だか少しは安心できます。……あっ、優遇してくれるからとかそういうことではなくてですね、こう、えと、お父さんが見ている感じといいますか」
「――――お父さんだと?」

あたりの空気が一気に冷えたものになる。

――――言うに事欠いて、お、お父さんて!何言ってるんですか自分!ああほら、ロードさんが不機嫌そうに眉間に皺を寄せてる!

眉間に皺が寄っているのは強面ゼルドのデフォなのだが、…………いつもに増して今は不機嫌そうだ。
普通の人だとちょっとむすっとした感じ、となるのだろうが…………鋭い目を眉をひそめて細め、 彫りの深い顔に更に影を落とすその様は、むすっとした、なんて可愛い表現ではなく、る気に満ちた、という表現の方がふさわしい。

流石にゼルドに慣れてきたロゼも、これは怖かった。謎の危機を回避するため、急いで話題を変えようとする。

「そ、そういえば!ほら、今日は炎槍ファイアランスの援護、教えてくれるって話でしたよね?ね!?」

話題を逸らされたゼルドは、不機嫌面のまま渋々と頷いた。
元々ロゼがゼルドと訓練を共にするようになったのは、ハンスの炎槍ファイアランスの援護が討伐において上手く出来なかったからである。これまでの訓練では、ロゼの実力を測り、伸ばし、弓を教え、そして1週間と少し前くらいから共闘訓練も行ってくれていた。
今日はとうとう、失敗克服の日でもあるのだ。

「お前の報告書を読んだ。直線の風を複数纏わせ、結果として槍を消してしまったと」
「はい」
「方向性が定まり、かつ共闘する2人の息が合わないと実践で用いるのは難しい。そして用いるとしても、直線の風ではなく渦を纏わせた方がいい」
「渦、ですか」
「ああ。ドリルのような状態の灼熱で貫けば、効果は絶大だろう。風使いの技にも、同じようなものがあるだろう?あれの応用だと思えばいい」
「……今の段階では、難しいですか?」

少ししょぼんとしてしまうロゼ。そんなロゼを見たゼルドは、少し背を屈め、小さな頭を不器用にくしゃくしゃと撫でる。
このなでなではゼルドのお気に入りになったらしい。事ある毎に撫でたがるし、最近では顔もむにむにすりすりしてくる。まあ手がでかいので、頭を撫でている際に顔に手が当たってしまうのも致し方ないのではあるが。
前に恥ずかしくなってそれを指摘した時、「触られるのが嫌ではないと言った」と言われ愕然とした。まるで言質は取ってある、とでも言っているようで、してやられた感を感じたロゼは少し悔しかった。

――――でもとても楽しそうだから邪魔できないぃ……。………………というか、ロードさんがこんな風に子供扱いするから私はお父さん、なんて言ってしまったのでは?

剣だこのある、角張った大きな両手で頭をされるがままのロゼは、ゼルドの謎の不機嫌に対して理不尽さを感じていた。

「不測のことが起こらない訓練であれば大丈夫だろう。そんな情けない顔をするな」

むにむにむにむにむにむにむにむにむにむに

「……ひょ、ひょっほ。はなへはへん」

こねこねこねこねこねこねこねこねこね

「はなひへぇ~」

真剣な話なのに、全く集中できない。というかゼルドには真面目に話す気はあるのか。

耳を覆うかたちで小さな頭を支え、ゼルドの方を見上げさせながら親指で頬を撫でる。
更に片手を首に添え顎をくすぐってくるため、ロゼは目を細めながら、くふんと子犬のような声をあげた。

「さ、やるぞ」

その声がけに、心地良さにうっとりとしたままのロゼは、可愛らしげにこくんと頷くのだった。

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