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一章
道のりは長いようです
しおりを挟む「……神力の、同調性?」
「はい。どうやら私はそれが高い体質なんだそうで」
第一棟の東側、その一階に大きく構える食堂でアリアとロゼは昼食を取りながら話していた。この食堂は基本的に第一聖師団員が使用する場所で、昼食休憩中の今は多くの隊員でごった返していた。戦闘員である隊員、特に男性隊員の昼時の食欲は凄まじいものがある。さらにこの大人数分の昼飯となれば相当の量になるはずだが、そんな条件の下でも食堂で働く専属の職員は味を妥協することなく、常に美味しいものを提供してくれている。そのことに感謝しながら、今日もロゼはおいしい昼食を味わって食べていた。
「……同調性、というのはあまり聞かない話ね。そのことはどれくらいの人が知っているのかしら?」
ロゼの隣に座っているアリアが、自身の手前においてあるハムカツを上品に切り分けながらロゼに尋ねる。この問いにロゼは、ソーセージの横に添えられていたコールスローを咀嚼し、喉に流し込んでから口を開いた。
「まず隊員の方の中では、ロードさんとシュデルさんしか知らないかと。隊長や第一聖師団長、副団長に話は通してあるとロードさんは言っていたので……恐らく上層部の方も把握していると思います」
「上層部って……高位神官にまで伝えるほど、大事には思えないけれど」
「……あーまぁ、私もそう思ったんですけどね。どうやらそうではないようで」
頬を人差し指でかりかりと軽くかきながら、はははとから笑いを零すロゼ。ロゼ自身もそんな希少な性質であるとは未だ実感がなく、ただ驚くばかりなのだ。
ロゼはどう説明したものかと考えながらも、先日リデナスに言われたことを思い出していた。
『 同調性の高い人間の数は少ない。希少な性質であるにも関わらず重要視されてこなかったのは、まず一般の者の中に同調性の高い者がいても分からないからだ。加えて生まれ持った神力がそう多くない限りは特に何かの役に立つようなこともこともない。生まれ持って神力を多く持つ神殿の御使い、その限られた数の中でもその性質を持つシュワルツェは異例という訳だ』
ゼルドとの訓練を終えたあの後、ロゼは第一隊隊長であるリデナスに呼ばれ、体調執務室へと赴きリデナスの話を聞いていた。そんな話を聞いてもまだ自身の事として呑み込めないロゼに、リデナスは更に言葉を付け加える。
『 ……まあ、そこら辺はロードに聞くといい。あいつの母方の祖母、つまり聖師長様の奥方だな。その方が同じ性質だったそうだから、色々詳しいだろう』
その言葉を聞いた時、驚きとともに納得もした。ゼルドは同調性について、何らかの知識を持っているように見えたから。お祖母様がそうであったというのであれば納得だ。
『 まあとにかく、これからはロードに教わりなさい』
「…………ぜ、ロゼ?」
「――っえ、あ、すみません。何の話でしたっけ」
つい先日のことを思い出していたロゼは、謝りながら目の前にいるアリアへと聞き返す。
「もう、上の空なんだから。………まあ、無理に話さなくてもいいわよ。簡単に聞いて良いような話には聞こえないもの」
「そう、ですね。確かに。…………――ごめんなさい、何だか自分事のように思えなくて。実感がない、っていうか」
「ふふ、まあ最近分かった事ならそれもしょうがないのではないかしら。次第に慣れてくるのではなくて?」
「そうだといいんですけどね」
無理に尋ねてこないあたり、アリアは本当に気づかい上手で優しい女の子だ。言い方が厳しい時も偶にあるが、言葉を濁さずに苦言を呈してくれるような人もなかなかいないだろう。
それから二人で昼食を食べながら楽しくおしゃべりをしていたのだが……ある時、ふとアリアの顔が強張る。
ロゼの後ろに目線を固定したまま引きつった顔で固まるアリアに、自分の後ろに何かあるのかとロゼは首を傾げる。
「――談笑中に悪いが。昼食休憩の後、隊長室に集まるようにと伝言があった」
座っているロゼの背後からした声に思わず振り返ると、同期のレイ=ノーヴァがロゼの前方、アリアのいる方へと顔を向けながら立っていた。
「分かりました、伝言ありがとうございます。……レイは、もう昼食は済ませたのですか?」
この気まずい雰囲気の中、感謝だけ伝えるのもどうかと思ったロゼは雑談の要領でレイに話しかけることにした。レイとは訓練中、同期ということもあって一緒になる機会が多い。その際に雑談をするほどには、ロゼはレイに打ち解けていた。
「ああ、ディノ先輩とモリ先輩の三人でな。カレーの鶏肉が旨かった」
確かに言われてみれば、レイの斜め後ろにはディノ=ラコッタの姿があった。モリの姿は見当たらないが、恐らくあの熱血先輩のことだから皆より早く訓練を再開しているのだろう、とロゼは考える。
「…………お前も、何を食べていたんだ」
不意に、レイが目線の先にいるアリアへと話を振る。先程レイが此方に話しかけてきてから、アリアは喋る二人に目を向けることなく黙々とハムカツを平らげていた。
「ただのハムカツよ。ロゼ、もう食べ終わったのなら食器片づけてくるわ」
「え、っあ、ありがとう――ってもう行っちゃった」
露骨にレイを避けるように二人分の食器を片しに行ってしまったアリアの背中を見ながら、小さな溜息をつく。
……ただ嫌っているだけなのに、いや嫌っているからか。それでもここまで露骨に行動に表すこともないだろうに。
「……すまん、二人で話していたのに」
「いえ、大丈夫ですよ。…………レイは何故、あそこまで避けられているのですか?」
本当は理由などアリア本人から聞いているのだが、つい魔の指したロゼは、レイがアリアに避けられていることに関してどう思っているのかを探ろうとする。
「いや…………多分、何か気に障ることを言ったのだとは思うが」
―――それは分かるのに、何を言ったのか覚えてないとは。ううん……関係改善の余地はあるのでしょうか。
レイはアリアとの関係改善を望んでいるようだし助言をするべきなのかもしれないが、ロゼがアリアの事、特に本人が気にしている事を勝手に言うのも不味いだろう。ここはレイに自分で言ったことを思い出してもらうしかない。
「ほ、ほら。何かありませんでしたか?例えば身体の特定の部位に関して失礼な事を言ってしまったとか」
……もはや助言ではなく答え合わせになってしまった。だがそこまで言ってもレイは分からないようで、暫し考え込むように腕を組みながら肘をとん、とんと叩いていた。
「…………前に、食べたら腹が出るんだなと言ったことだろうか……それとも寝起きの頭を鶏と言ったことか?いや、それとも」
「ちょちょちょっっと?待ってくださいそれ全部、本当に言ったんですか?アリアに?」
「?ああ。悪気があった訳ではなく、ただ思ったことを言っただけだったんだが」
―――これは、普段の行いのせいですね。嫌われてるのは。
その言葉を言うに至った状況を知りたくはなるが、まあ間違いなくアリアは言われたことに対して怒っただろうと予想できる。
和解まであとどれほどかかるやら。それまで手助けするしかないのかもしれないと、ロゼは内心で苦笑いを浮かべた。
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