正体不明

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正体不明

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あの頃に戻れるなら、おまえを離さない

昨夜、寝る前に流れていた曲の歌詞が耳に残っていた。
窓際のカーテンを見ると裾の下からは朝の光が漏れ始めていた。
30代も後半になると男の朝は目が覚めるより先に下半身が告げているとは限らないのだ。

私はカーテンを開けるために起き上がろうとしたが、身動きが自由に出来なかった。
私の手はバンザイしたような形で手錠されているのだ。
ふと、まさか何か厄介な事に巻き込まれ捕らわれてしまったのだろうか?とも思ったが
横で寝ている妻に気づきそれは違う事が分かった。

しかし私には妻の様子がいつもと違うように感じられた。
まるで別人なのだ。
妻と結婚する前に付き合っていた女性だった。


さすがに結婚して十年になるのに妻を見間違えたりはしないはずだ。
最近、Netflixでブラックリストを見過ぎていたせいか私は目に見えるものが全て正しいとは限らないな、、と思った。

私は横で寝ている正体不明の女性に近づき、首筋の匂いを嗅いでみた。
やはりこの匂いは妻ではなく以前付き合っていた女性の匂いだった。


私は二つの可能性を考えてみた。
一つは妻が以前付き合っていた彼女と結託して仕組んだ罠ではないか?

もう一つは現実ではないのではないか?

二つ目の可能性を確認するには携帯電話を見れば分かるのではないかと思ったが、手錠のせいで寝ている間に充電されている携帯電話まで辿り着けそうもなかった。

一つ目の可能性を確認するには正体不明の女性を起こす必要があるが何と名前を呼んでいいか分からなかった。
迂闊に名前を呼んで間違えてしまうと手錠されている私には危険が増してしまうからだ。

私は意を決してなんとか体を起こし、正体不明の女性にいたずらしてみようと思った。
例えば服を脱がすとかそんなことだ。

不自由な手と口を使い私は正体不明の女性の上半身を裸にする事に成功した。
私は不可解な状況にかかわらずも興奮してきている自分を止めることが出来なかった。

私はそれでも露わになった乳房に目の見えるものに騙されたりしないぞと思い、乳首に口を付けた。
その瞬間、正体不明の女性が目を覚まして
昨日の夜言ったでしょ、、今日は大人しく寝てよねって
だからパパに手錠したんでしょ!


声も匂いも顔もおっぱいも以前付き合っていた彼女だった。

けど、パパ?
私は彼女と結婚して子供がいるのだろうか?

ねぇ、とりあえず手錠外してよ

私が言うと彼女は
手錠には目もくれず、私のパジャマの下を脱がし
おはよっ!と言ってキスをしながら私の固くなった物を握った。
彼女は私を十分に弄ぶと上に跨り、行為に集中するかのように目を閉じていた。

手錠を外してくれたのはお互いが汗やその他の分泌液を放出した後だった。

それから私は携帯電話を手にして画面を確認すると、Wi-Fiを通じて昨夜O.Sがアップロードされていた。

私は彼女の背中にキスするとシャワーに向かった。

あの頃に戻れるなら、おまえを離さない
私は自然と口ずさんでいた。
浴室の窓をふと見るとシャワーから出た湯気が、外に出て行こうとしている。 

私の意識もどこかに消えようとしているのだ。





私はベッドで口にはチューブを繋ぎ、腕には点滴が刺してあり身体は自由に動きそうもなかった。
せめて目を開けて確かめたい、そう思ったが
声も聞こえず匂いも分からなかった。

ただ指先に触れている感覚があり、温かさがロウソクの明かりのように灯っていた。
そして、その触れている少し荒れた指はそれが妻の物である事が分かった。

私の頬には温かい水滴が落ちてきた。
誰のものであっても私はもういいと思った。
頬を濡らした水滴は胸の中まで染み込みように感じられたから。

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