ハルカのエピローグ春花のプロローグ

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ハルカのエピローグ春花のプロローグ

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入学式に合わせるように蕾は一斉に開き、薄いピンク色の花を咲かせていた。
花の付いた枝はアーチ状になり新入生を歓迎しているようにも見えた。
青山春花は杉並区に新しく赴任した小学校教諭だ。
首元には真珠のネックレスをしている。
春花は四季を巡り、毎年新しい花を咲かせる桜の花に自分の大学生活を重ね合わせていた。
毎年おんなじように見えるこの花びらも去年とは違う花で
桜の木自体は長い年月をかけて成長しているんだと思うと
私も厳しい寒さや、炎天下の暑さを乗り越えた桜の木のように成長してやっと春を迎えたんだと思った。


「春花、3月でこの仕事を辞めて
自分の行く道を歩いて欲しい、もう春花にはオレの助けが邪魔になるだけだ」
春花は大学の一年生の時ホストクラブで借金を作り、彼が仕切っているデリバリーヘルスで働き2年が経っていた。
春花には彼が全てだった。
「私は隆さんがいてくれたから、なんとか諦めずに生きてこれた、隆さんお願い…」
「春花、アメリカに留学したかったんだろ?
オレとは別れて、春花のなりたいものを目指して、頑張れ」春花は彼の言葉を遮り、胸にしがみついて、彼がこれ以上話すのを嫌がった。
彼は春花を引き離し、春花の涙を拭うと微笑んだ。
「春花、初めて会った2年前よりすごく綺麗になったな
何年かしてもっと綺麗になってオレを驚かせてな」
と言うと彼はベットから立ち上がり
「さよなら、春花」と言って部屋を出ていった。



春花は大学三年生をアメリカに留学して過ごし、四年生になると日本に戻り教師を目指した。
そして春から小学校の教師になった。
彼に2年前より綺麗になったと褒めて欲しい
頑張ったんだねと彼に言って欲しいと思った。
しかし、アメリカにいたとき何度も読み返した彼がくれた手紙を思い出した。



「春花が大学一年生でつまづいたときオレが手を差し伸べた。
それは特別な事じゃないんだ。
春花は学校の先生になるのが夢だよな
だからこれから起きる事が特別な事なんだ。
新しい出会いがあって
新しい自分を見つけて、特別な事がたくさんあるはずだよ。
だから今度はつまづいても自分で起き上がれるように、強くなれ。
春花、この手紙で連絡は最後にする。
オレの事を忘れるぐらい自分の人生を大事にしてな。
春花の事ずっと好きだったよ、さよなら」


一緒にいた時は一度も言ってくれなかった言葉が最後に書いてあった。
彼の声を思い出して、その言葉を言う彼の姿を想像して、自然に涙が溢れた。
でも、私がいつまでも想い続けて連絡をすれば、きっと彼もその想いに引きずられて元に戻りたくなる。
それを彼は望んでいない。
自分から離れなければ私がずっと立ち止まって
自分で前に進もうとしないから。
春花はアメリカにいた時も日本に戻ってからも、何か不安になるとその手紙の言葉のように
「強くなれ、大丈夫」と自分に言い聞かせてきた。   



春花は新一年生の待っている教室の扉を開ける。
私にも子供達にも新しい世界。
でも私は知っている。
今は芽も葉も出ていないけど、桜の木のように花が咲く時が来る事を。
「いっぱい陽の光を浴びて強く根を張り
たくさん枝を伸ばしていけば大丈夫」
首元の真珠のネックレスを触ると
彼がそう言ってるような気がした。
あの手紙と一緒に入っていたから。


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