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〈プロローグ〉
しおりを挟むかわいい……
コルテノ国の第一王子、ナイトハルトは、ちょこんと座っている婚約者、リジー・カルデラをまじまじと見つめる。
少しつり上がり、くりっとしたスカイブルーの瞳、くるくると巻かれている金髪の縦ロールは、ひらひらとしたドレスと相まって、本物のお人形の様である。
しかし、ナイトハルトは一言言いたい。
その容姿にピンクのスカートは似合わない……と。
といっても、恐らくリジー自身に悪気がある訳ではなく、リジーは、単純に今流行っているピンクのドレスを選んできただけであり、おそらく親バ……娘が可愛くて可愛くて仕方がないリ彼女の両親が、そんな彼女に素直に忠告が出来なかった為に、あまりよく似合わないピンクのドレスのまま私に会いに来させてしまったのが原因だろうと予想は出来るのだが。
何故だ……何故濃いブルーか、淡いグリーンのドレスを着て来ないっ!
これは決して、ピンクを着て来た彼女を責めたい訳ではなく、どちらかというと是非見たい、是非彼女の濃いブルーを着たキリリとした容姿が見たいという願望からくる心の叫びであった。
無論、淡いグリーンを着た夏の爽やかな風に似合う様な彼女の容姿も捨てがたい。
更に言うなら、赤でもいい。
そう思いながらも、そんなことは全く表に出さず、ナイトハルトは爽やかに自分の婚約者に声を掛ける。
「おはようリジー」
「おはようございます。ナイトハルト殿下」
少し恥じらいながら、慌てた様子でお辞儀をする彼女を見て、ナイトハルトは思う。
こんな可愛い婚約者を振る王子はどうかしている……と。
※
藤堂麗は、学業優秀・眉目秀麗な女性。
いわゆるキャリアウーマンである。
彼女は、そのキリッとした出で立ちと、スキのなさ、仕事の速さから、会社の中では「仕事の鬼」などと呼ばれ、自身の男運の無さも相まってすっかり婚期を逃していた。
高校時代に、バスケボール部のキャプテンを務めていた彼女は、男性に若干忌避される一方で、女性からは大変人気があり、「キャーー!!麗様ーー!!」などと呼ばれ大変人気を博していた。
彼女は思う。
男性だったらモテただろうに……
カリスマ性と、キリッとした容姿を従えた、恐ろしく格好の良い女性、藤堂麗。
しかし、そんな彼女の趣味は、荒稼ぎしたお金を乙女ゲームにつぎ込み、コンプリートすること。
彼女は帰りがてら、イヤホンを片手に、今やっている乙女ゲーム「月が出る夜に恋をして」を攻略する。
そしてこの乙女ゲームのメインターゲット、ナイトハルトに対して、若干の憤りを覚える。
というのも、彼の婚約者、リジー・カルデラは、確かに多少ヒロインに対して嫌がらせはするものの、それは何というか……かなり可愛いらしい範囲のものであり、また、ナイトハルトの婚約者に対する扱い方も、全くなっていない様に思えたからだ。
寧ろよく、リジーがナイトハルトを嫌にならないよなぁ……
そうとさえ思える様な接し方を、ナイトハルトはしていた。
リジーと一緒にお茶を飲むこともなければ、手紙は読まない、顔も合わせない、彼女がダンスに誘おうとすれば手さえ払った。
いくら、親に決められた婚約者だからってこんな接し方って……
逆に、だからこそヒロインにとって、ナイトハルトはちょろい……攻略しやすい攻略者であり、藤堂麗は、なるべくこの胸糞悪いシナリオを早くクリアしようと躍起になった。
だから彼女は気が付かなかった。
目の前に走ってくるトラックの運転手が居眠り運転をしていることに、
そしてそのトラックが、自分のいる側の歩道に突っ込んでくることに……
キキーーーー!!ガシャーン!!
手から離れたスマホを目で探しながら、朧げになる意識の中、彼女は思う。
くそぅ、せめてイベントのアイテムコンプリートしたかったーー
※
ナイトハルトが、藤堂麗であった頃の記憶を取り戻したのは、彼が3歳になったとき。
風邪をひいて高熱を出し、寝込んだ時だった。
そして自分や、周囲の人の容姿と、名前を思い出して気が付く。
これは、あのコンプリートし損ねた乙女ゲーム「月が出る夜に恋をして」の世界で、自分が攻略対象の一人、メインターゲットの第一王子、ナイトハルトであることにーー
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