転生したら王子だった〜元腐女子が悪役令嬢を溺愛する話〜

ケポリ星人

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〈第四話〉

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 王は第一王子、“氷雪の貴公子”の思わぬボロに思わず目を丸くする。
 王もまさか“氷雪の貴公子”と呼ばれるナイトハルトが、「父上グッジョブ」などと言いかけ、サムズアップをしかけるなどとは、全く思っていなかったのだ。

 しかし、そこは幾千の会話という名の闘争を掻い潜ってきた王である。
 咳払いを一つすると、すぐにいつもの表じょ……いつもより少し素の表情になり、ナイトハルトに尋ねる。

「して、リリーは……リリー夫人は健在だったか?」

「えっ。ええ、元気そうでした」

「そうか。実はな、リリー夫人は昔、カルデラ公爵と取り合いになった相手なのだ……」

「その話し詳しk……なる程」

 言いかけた言葉を飲み込み、腕を組んで興味のなさそうなていを取るナイトハルトに、王は込み上げてくる笑いをこらえながら、こちらも平常心であるていを取って話を続ける。

「リリー夫人は、優しそうで、ふんわりした美人であったろう? あれで存外お転婆なのだ」

「それは……そうですね……」

 ナイトハルトは、若干遠くを見て、軽い疲労感を浮かばせながら返事をする。
 王は笑いを堪えきれず、思わずフフッと笑う。

「随分気に入られた様だな。それで……お前の方はどうだったのだ?」

「どう、とは?」

「カルデラ家はどうだった?」

 ナイトハルトは、カルデラ家で起こった出来事、そのあとの行われた手厚い歓迎を思い出してクスッと笑う。

「確かに、かなり変わったご家庭であるとは思いましたが、なかなか賑やかで楽しかった」

 王が、目を見開いて固まっている。
 何か失敗してしまったのかと不安になるナイトハルトを他所に、王は言った。

「お前が笑っているのを初めて見た」

 王は、別にナイトハルトのことを気にかけていなかった訳ではない。
 彼なりに愛し、大切には思っていたものの、関わり方が分からず、手をこまねいていたのだ。
 そしてナイトハルトも、王が存外、それなりにナイトハルトのことを気に掛けていてくれたのだなということに気が付く。
 王が言う。

「お前は、そういう色恋には全く興味が無いかと思ったのだが……」

「ありますよ。私も男ですから」

もちろんすけけよ……」、正にそんな顔をして堂々と言い放つナイトハルトに、王はニヤリと笑みを浮かべる。

「ほほぅ」

 そして話題を転換する。

「ところで、ピンクの髪の美少女とは?」

 げっ

 ナイトハルトは、若干慌てつつも、しばし黙して考える。

「それは…………ピンクの髪の美少女が、私を嘲笑っている夢を見たので」

 ナイトハルトは、間一髪のところで、するりと嘘八百を並べる。

「ほぅ、王族を愚弄するとは……どんな少女だった?」

「一見、無垢そうで、可憐な少女でしたね」

「随分と熱心にカイオンに話していたそうじゃないか」

「なんとなく、嫌な予感がしたので……」

「嫌な予感?」

「ただの勘です。まぁ、そこまで熱心に話すべき事でもなかったかもしれませんね……それにしてもちょっと悔しいですね」

「悔しい、というと?」

「カイオンは私の従者だと思っていたのですが……」

 ナイトハルトは、しまったと固まる。
 これはカイオンが自分にとって不利益になる様な内容の話を他人に喋るとはと思ったナイトハルトの失言であった。 
 何故なら本来、王子の従者であるカイオンが、王子がその日に何があったかを、王に報告することに何ら差し障りはない。
 特に、”ピンクの髪の美少女“の話など、何処をどうしたらナイトハルトに都合が悪くなるのか分からない様な話を王にしたところで、問題は無い筈だ。
 だが、前世の記憶を持ち、それを隠しているナイトハルトからすれば、“ピンクの髪の美少女”の話をされるのは非常に不味い。
 ナイトハルトは、そこら辺の事情を考慮して、王に、「まさか自分の不利益になる様な情報を話する何て」という意味で「カイオンは私の従者であると思ったのに」という発言をしてしまったのだ。

 王がきょとんとした顔でナイトハルトを見る。
 そして、納得した様に自身の髭をさする。

「ふむ、成る程…………男色の趣味もあったということか」

 待ちたまえ。

 ナイトハルトは一度固まり、慌てて弁解を始める。

「なにかとんでもない誤解をされてしまっているような気がするのですが――」

「いや、いい。好みは人それぞれだ……」

 誤解されてるううぅぅぅぅ‼︎

 王は、コホンッと咳をすると、若干顔を紅らめ、サムズアップを一度すると、いい笑顔のまま、そそくさとその場を離れる。
 一方、誤解されたままのナイトハルトは、なんと言っていいのかわからず、こんなところで口下手を発動し、固まったまま動けなくなる。

 そして王は去り際に、ハッとして言い放つ。

「だが妃は、きちんと娶るのだぞ……」

 スススス、パタンとドアが閉まる。

 オウ、ジーザス……

 確かに、前世の記憶のあるナイトハルトは、時々見目麗しい貴族達の間の男同志の熱い友情を想像しない訳では無い。
 しかし、前世でことごとくく男運の悪かったナイトハルトに男色の趣味はない。

 一時的に危機を脱する事が出来たとはいえ、何か嫌な予感が払拭出来ないナイトハルトは、うーんと頭を抱えたが、暫くして考えるのを諦め、寝支度を始めたのであった。








 ※

――ナイトハルトが寝息を立て始めた頃、ナイトハルトの脳内に、機械的な音声が響き渡る。

《シナリオの改善が見られます……》
《シナリオの大幅な改善が見られました》
《ナイトハルトのシナリオの解放条件を満たしました》
《ナイトハルトについての全てのシナリオを解放しますか?》

 ナイトハルトは半分寝ぼけながら、返事をする。

もちろんすけけよ……」

《ナイトハルトについての全てシナリオが解放されます》
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