5 / 14
〈第四話〉
しおりを挟む王は第一王子、“氷雪の貴公子”の思わぬボロに思わず目を丸くする。
王もまさか“氷雪の貴公子”と呼ばれるナイトハルトが、「父上グッジョブ」などと言いかけ、サムズアップをしかけるなどとは、全く思っていなかったのだ。
しかし、そこは幾千の会話という名の闘争を掻い潜ってきた王である。
咳払いを一つすると、すぐにいつもの表じょ……いつもより少し素の表情になり、ナイトハルトに尋ねる。
「して、リリーは……リリー夫人は健在だったか?」
「えっ。ええ、元気そうでした」
「そうか。実はな、リリー夫人は昔、カルデラ公爵と取り合いになった相手なのだ……」
「その話し詳しk……なる程」
言いかけた言葉を飲み込み、腕を組んで興味のなさそうな体を取るナイトハルトに、王は込み上げてくる笑いを堪えながら、こちらも平常心である体を取って話を続ける。
「リリー夫人は、優しそうで、ふんわりした美人であったろう? あれで存外お転婆なのだ」
「それは……そうですね……」
ナイトハルトは、若干遠くを見て、軽い疲労感を浮かばせながら返事をする。
王は笑いを堪えきれず、思わずフフッと笑う。
「随分気に入られた様だな。それで……お前の方はどうだったのだ?」
「どう、とは?」
「カルデラ家はどうだった?」
ナイトハルトは、カルデラ家で起こった出来事、そのあとの行われた手厚い歓迎を思い出してクスッと笑う。
「確かに、かなり変わったご家庭であるとは思いましたが、なかなか賑やかで楽しかった」
王が、目を見開いて固まっている。
何か失敗してしまったのかと不安になるナイトハルトを他所に、王は言った。
「お前が笑っているのを初めて見た」
王は、別にナイトハルトのことを気にかけていなかった訳ではない。
彼なりに愛し、大切には思っていたものの、関わり方が分からず、手をこまねいていたのだ。
そしてナイトハルトも、王が存外、それなりにナイトハルトのことを気に掛けていてくれたのだなということに気が付く。
王が言う。
「お前は、そういう色恋には全く興味が無いかと思ったのだが……」
「ありますよ。私も男ですから」
「勿の論の助けよ……」、正にそんな顔をして堂々と言い放つナイトハルトに、王はニヤリと笑みを浮かべる。
「ほほぅ」
そして話題を転換する。
「ところで、ピンクの髪の美少女とは?」
げっ
ナイトハルトは、若干慌てつつも、しばし黙して考える。
「それは…………ピンクの髪の美少女が、私を嘲笑っている夢を見たので」
ナイトハルトは、間一髪のところで、するりと嘘八百を並べる。
「ほぅ、王族を愚弄するとは……どんな少女だった?」
「一見、無垢そうで、可憐な少女でしたね」
「随分と熱心にカイオンに話していたそうじゃないか」
「なんとなく、嫌な予感がしたので……」
「嫌な予感?」
「ただの勘です。まぁ、そこまで熱心に話すべき事でもなかったかもしれませんね……それにしてもちょっと悔しいですね」
「悔しい、というと?」
「カイオンは私の従者だと思っていたのですが……」
ナイトハルトは、しまったと固まる。
これはカイオンが自分にとって不利益になる様な内容の話を他人に喋るとはと思ったナイトハルトの失言であった。
何故なら本来、王子の従者であるカイオンが、王子がその日に何があったかを、王に報告することに何ら差し障りはない。
特に、”ピンクの髪の美少女“の話など、何処をどうしたらナイトハルトに都合が悪くなるのか分からない様な話を王にしたところで、問題は無い筈だ。
だが、前世の記憶を持ち、それを隠しているナイトハルトからすれば、“ピンクの髪の美少女”の話をされるのは非常に不味い。
ナイトハルトは、そこら辺の事情を考慮して、王に、「まさか自分の不利益になる様な情報を話する何て」という意味で「カイオンは私の従者であると思ったのに」という発言をしてしまったのだ。
王がきょとんとした顔でナイトハルトを見る。
そして、納得した様に自身の髭をさする。
「ふむ、成る程…………男色の趣味もあったということか」
待ちたまえ。
ナイトハルトは一度固まり、慌てて弁解を始める。
「なにかとんでもない誤解をされてしまっているような気がするのですが――」
「いや、いい。好みは人それぞれだ……」
誤解されてるううぅぅぅぅ‼︎
王は、コホンッと咳をすると、若干顔を紅らめ、サムズアップを一度すると、いい笑顔のまま、そそくさとその場を離れる。
一方、誤解されたままのナイトハルトは、なんと言っていいのかわからず、こんなところで口下手を発動し、固まったまま動けなくなる。
そして王は去り際に、ハッとして言い放つ。
「だが妃は、きちんと娶るのだぞ……」
スススス、パタンとドアが閉まる。
オウ、ジーザス……
確かに、前世の記憶のあるナイトハルトは、時々見目麗しい貴族達の間の男同志の熱い友情を想像しない訳では無い。
しかし、前世で悉く男運の悪かったナイトハルトに男色の趣味はない。
一時的に危機を脱する事が出来たとはいえ、何か嫌な予感が払拭出来ないナイトハルトは、うーんと頭を抱えたが、暫くして考えるのを諦め、寝支度を始めたのであった。
※
――ナイトハルトが寝息を立て始めた頃、ナイトハルトの脳内に、機械的な音声が響き渡る。
《シナリオの改善が見られます……》
《シナリオの大幅な改善が見られました》
《ナイトハルトのシナリオの解放条件を満たしました》
《ナイトハルトについての全てのシナリオを解放しますか?》
ナイトハルトは半分寝ぼけながら、返事をする。
「勿の論の助けよ……」
《ナイトハルトについての全てシナリオが解放されます》
0
あなたにおすすめの小説
魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました
由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。
巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。
今日も黙々と床を磨いていたら――
「お前の磨いた床は、よく眠れる」
恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。
見た目は完全にラスボス。
中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。
勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。
光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。
戦争よりも、まず床。
征服よりも、まず対話。
これは、世界最強の存在に溺愛されながら
世界平和を“足元から”始める物語。
甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる