4 / 14
〈第三話〉
しおりを挟む※
ナイトハルトが去った後のカルデラ家では――
先程の賑やかさとは打って変わって、すっかり静かになった庭を眺めながら、リリー夫人が夜のテラスで紅茶を嗜む。
淡い金髪を三つ編みをして、優しい目で星空を見上げるリリー夫人の後ろに、ゲオルグ公爵が何処からとも無く現れ、音もなく歩み寄る。
「優しいお兄ちゃんの様な人だったわね」
リリー夫人はいつものことと特別気にする様子もなく、又、気付かないという事もなく、星空を眺めたままゲオルグ公爵に語りかける。
「普段他人と話すことのない氷雪の貴公子などと聞いた時は、一体どんな冷たい奴が現れるか思ったが……」
ゲオルグ公爵も、別段それを気にする事も無くリジー夫人に語りかける。
実は、ゲオルグ公爵は現王アダム・セフィラスとはリリー夫人を取りあった仲であり、今回の縁談も思惑云々というよりは、王が半ば悔し紛れに無理矢理漕ぎ付けた縁談であった。
王の思惑により、縁談を断り切れなかったゲオルグ公爵は、断腸の思いでナイトハルトと対面することとなったのだが……
リジーが、ほんのりと頰を紅くし、何処を見るとも無く、空を眺める。
「リジー……」
リリー夫人が声を掛けるが、リジーからの反応は無い。
「やぁねぇ。貴方、恋煩いかしら……」
リリー夫人が、そうゲオルグ公爵にそう言った途端、リジーがハッと我に帰って振り向き、顔を真っ赤にして否定する。
「ちちちち違いましてよ!」
何処からどう見ても、「違う」などということの無いリジーの反応に、ゲオルグ公爵とリリー夫人はほくそ笑む。
「もう! 違うって言ってますのよ!」
リジーがぷんすかと頰を丸くし、足早にその場を去る。
リジーの姿が見えなくなった後、リリー夫人は、ふと、心の何処かに引っかかっていたことを話し始めた。
「確かに、優しいお兄さんの様だったけれど、年の割に子供らしさがあまり見えなかった気がするわ……」
「君もそうだったじゃないか」
ゲオルグ公爵は、遠くを見る様に、リリー夫人と出会ったときのことを思い出す。
「まだ密偵として半人前だった私が、君に見惚れて手を滑らせ、木の上から君の上に落ちたとき、君は慌てるでも悲鳴を上げるでも無く、ただ一言、「お怪我はありませんか?」と言ったのを覚えているかい?」
リリー夫人が「まぁっ」と言って、楽しそうに笑い、ゲオルグ公爵は空を見つめたままそっとリリー夫人の手に自分の手を重ねる。
「きっと大丈夫だよ」
その日の夜空を、流れ星が一筋駆けていった。
※
ナイトハルトが、郊外から三時間半の馬車に揺られて帰って来る頃には、もう大分遅い時間帯になっていた。
ナイトハルトはカイオンと別れ、自室に戻り、深く椅子に腰掛けて、今日のことを振り返る。
そして旧ナイトハルト、ゲーム内でのナイトハルトと、今の自分について比較する。
“氷雪の貴公子”
そのあだ名は、ゲーム内のナイトハルトにも適応されていた物だった。
ナイトハルトは、物心付く前に自分の母親を失い、今の正妃に酷く敬遠されていた。
次期国王に、自身の息子である第二王子を付けたい今の正妃は、第一王子に負けない様に必死に教育マ……第二王子に付きっ切りで勉強を教え、色々な家庭教師を付けて鍛えていた。
ナイトハルトは、そんな第二王子、継母から自分の地位を守る為、ほぼ一人でここまで戦って来なくてはならなかった。
加えて、信頼していたナイトハルト付きのメイドに裏切られ、完全に心を閉ざす様になったナイトハルトは、”氷雪の貴公子“と呼ばれる様になっていったのだ。
実はこの下り、ナイトハルトの継母とメイドの話を、藤堂麗は知らなかった。
彼女は、そこまでゲームを攻略してはいなかったのだ。
ただ、時代背景を知り、元々そこまで他人に依存するスタイルを取らない藤堂麗、現ナイトハルトは、継母や第二王子に関しては「誰が負けるか‼︎ フハハハハ! これが真の転生チートじゃあ!」メイドに関しては「うわ、びびった! あのメイドさんなんかきな臭いと思ってたけど、まじか。めっちゃ怖かったわぁ……」くらいにしか思っておらず、そこまでダメージを受けていない。
確かに、今のナイトハルトもあまり喋る方では無い。
だがそれは、元々藤堂麗がプライベートで人とよく話す性格ではなかったことと、うっかり普段通りに話して万が一にも前世の記憶を語ってしまうと危険だと感じたこと、そして何をしても神童神童と褒めそやされ、調子に乗り、課題をこなすことにそれなりに夢中になってしまったことが原因であった。
そうやって冷静に考えていくと、旧ナイトハルトにも多少の同情の余地があるなと、現ナイトハルトは思う。
そして、色んな物を一人で背負って、誰も当てにすることが出来なかった旧ナイトハルト、”氷雪の貴公子“が少しだけ切ない人間に思えた。
父上を頼りにする訳にも行かなかっただろうしな……
そんなことを考えていると、ナイトハルトの部屋のドアがノックされる。
「殿下、国王陛下がいらっしゃいました」
王は、本日二回目の訪問に、相変わらず仰々しく重そうな服を着て部屋に入り、徐に人払いをすると、ナイトハルトに話しかけた。
「して、どうだった」
「父上グッジョ……とても可愛らしい女性だと思いました」
おっと、既にボロが出そうである。
0
あなたにおすすめの小説
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました
由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。
巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。
今日も黙々と床を磨いていたら――
「お前の磨いた床は、よく眠れる」
恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。
見た目は完全にラスボス。
中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。
勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。
光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。
戦争よりも、まず床。
征服よりも、まず対話。
これは、世界最強の存在に溺愛されながら
世界平和を“足元から”始める物語。
甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる