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〈第六話〉
しおりを挟む二週間ぶりか……
散歩日和と言わんばかりの快晴の下、ナイトハルトはカイオンと共にカルデラ邸へと向かう。
さらりと流した銀髪を肩の上に乗せ、紫色の瞳で物憂う気に外に向けながら、揺れる馬車の窓枠に肘をつき、頬を赤く染めた、可愛らしい自分の婚約者の事を思い浮かべる。
あれは、反則だった……
”可愛い“を超えて”反則“がしっくりくる、正にそんな感じだったと、ナイトハルトは思う。
今、リジーに嫌いと言われたら、きっと心臓が止まる……
これを一目惚れというのだろう。
藤堂麗は元々、凄く惚れっぽい人間であった。
好きと思えば一直線にその人にアタックし、やり過ぎて振られる……又は遊ばれる。
前世では、そんな恋人関係を繰り返していた。
自分の婚約者に、そんな自分と同じ様な悲しい思いをさせたくない。
それもあって、今世で出会ったリジーという自分の伴侶を、大事にしようと心に決めていた。
今度は、プレゼントの一つでも買ってからカルデラ家にお邪魔しよう……
そう考えていたところで馬車が止まり、御者が馬車のドアを開けた。
※
ナイトハルトが、カルデラ邸の前で馬車から降りる。
カルデラ邸は、公爵の家だけあって、軽くピクニックが出来る位には広い。
今回のピクニックも、カルデラ邸の屋敷から少し離れた庭の一角で行われる手筈となっていた。
ナイトハルトは、降りて直ぐに暖かく出迎えてくれたゲオルグ公爵と軽く挨拶を交わし、カイオンと共にリジーが待っている庭の一角へと向かった。
※
ナイトハルト達が、待ち合わせ場所へとたどり着く。
「待たせてすまない、リ……」
ハーフアップで、緩やかにカールのかかっ た、先端に行く程カールがきつくなっているブロンドの髪がふわりと舞う。
リジーの目がナイトハルトを捉えると、頬を緩ませ、花の様な笑顔を作った。
「お久しぶりです、ナイトハルト殿下」
丁寧に裾を掴んでお辞儀をするリジーを見て、ナイトハルトは思う。
天使だ……
実はナイトハルトは、前回会った時に、結局きちんと髪を整えたリジーを見ることは無く、リジーのきちっとした姿を一度も見たことがない。
だからこその二度目の衝撃であり、ナイトハルトは暫くリジーに見惚れた。
リジーが、木で出来た長椅子の、丁度ナイトハルトの向かい側に置いてある蓋つきのバケットを手に取り、おずおずと差し出す。
「あの、これ……」
ナイトハルトがバケットをそっと受け取り、蓋を開けると、中には色とりどりのサンドイッチが入っていた。
そして、リジーの手をよく見ると、指には小さい布が巻かれている。
リジーは、ナイトハルトが自分の指を見ている事に気付いたのか、若干顔を赤くし、サッと自分の指を後ろに隠した。
ナイトハルトがニコッと笑う。
「ありがとう。頂くよ」
ナイトハルトは、早速サンドイッチを一つ取って食べようとするが――
「パシッ!」
カイオンが、ナイトハルトの手に持っていたサンドイッチを払い、サンドイッチが一つ、草の上へと転がる。
「いけません殿下、こういう物は先に従者が毒味をしなくては」
カイオンが、神妙な面持ちで言う。
しかし、ナイトハルトは気にせず、落ちたサンドイッチを拾って、ふっと息を吹きかけて砂を少し払うと、パクッとサンドイッチを一口で食べてしまった。
「あーーっ‼︎」
カイオンが声をあげ、リジーも目を見開いて固まる。
カイオンがナイトハルトに掴みかかる。
「惚れ薬でも入っていたらどうするつもりですか⁈」
「えっ、いや、いいんじゃない、惚れ薬くらい、婚約者なんだし…………それよりも、ゲオルグ公爵が、下剤でも入れていないかの方が心配だ」
彼ならばやりかねない……
神妙な面持ちかつ割と本気でそんなことを言い出すナイトハルトは、僅かに出てしまった素の自分も気にせず、サンドイッチをもぐもぐと頬張る。
その様子を見ていたリジーが、意を決した様で言う。
「だ……ダメですわ! 殿下!」
ナイトハルトとカイオンが、ギョッとしてリジーの方を見る。
「将来王となられるお方が、落ちた物を拾って食べるなんてはしたない事をしてはいけませんわ!」
ナイトハルトはポカンとして暫くリジーを見つめるが、やがてふふっと笑って、リジーに言った。
「心配してくれてありがとう。でも、可愛い婚約者が一生懸命作ってくれた食べ物を粗末にすることは、私には出来ないよ」
ナイトハルトが、リジーの頭をポンポンと撫でると、リジーは真っ赤になった顔を両手で覆う。
ナイトハルトは、そんなリジーを微笑ましく見つめた後、少しため息を吐いてからカイオンの方に向き直った。
「仕方ない。カイオンにも一口食べさせてやるか……」
「仕方ないって……」
「わかってるよ、私の従者の言っていることの方が正しい」
素が出ていることに殆ど気が付いていないナイトハルトは、サンドイッチを一つとってカイオンの方に差し向ける。
「ほら、カイオン、あーん」
カイオンがナイトハルトを二度見する。
そして、渋々立ち上がって、少し逡巡しながら、テーブル越しに僅かに首を伸ばして、少し顔を赤くして口を開ける。
ん? まてよ、こういうのって恋人同士でやるんじゃ……
ナイトハルトがハッと我に帰り、しまったと思ってリジーの方を見ると、リジーが顔を赤くし、顔を覆った指の隙間からじっと二人を見つめて言う。
「これも、ありだと思いますわ……ハッ! でも、ナイトハルト殿下は私の婚約者ですわよっ‼︎」
リジーが、パッとナイトハルトの元に駆け寄り、ギュッとナイトハルトに抱きつく。
ナイトハルトは、顔を赤くして、サッと目を逸らすのであった。
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