転生したら王子だった〜元腐女子が悪役令嬢を溺愛する話〜

ケポリ星人

文字の大きさ
8 / 14

〈第七話〉

しおりを挟む
 






 ナイトハルトは、途中からあったカルデラ夫妻による忍術という名のサプライズに驚きつつも、リジーと共にピクニックを楽しみ、夕方頃、帰路に着いた。
 ナイトハルトが城に帰り、自分の部屋へと着くと、カイオンがナイトハルトに話しかける。

「殿下、ゲオルグ公爵から手紙を預かっています」

「手紙?」

 ナイトハルトは、今日会ったのだから口頭で話す機会が幾らでもあったのに、態々わざわざ手紙にして渡すということは、何かあるのではないかと思い、素早く手紙を開け、中を確認する。
 すると――


 拝見、ナイトハルト殿下

 本日は、カルデラ家のピクニックにお越し頂き、誠にありがとうございました。澄ました顔をしていらっしゃいましたがリジーに会った時に一瞬固まったのを私は見落としませんでしたぞ? それは兎も角、地面に落ちたリジーのサンドイッチを、サッとお召し上がりになるところなど、私、年甲斐も無く感動して涙を流してしまいました。ですが、陛下は、次代の国王となるお方。確かに、可愛い娘の必死に作ったサンドイッチを地面に落とすなどとは、と激昂するお気持ちは、激しく、とても激しくお察しします。しかし、それでも、大事な私の娘の婚約者だからこそ、どんな場面でも従者殿が言った様に毒味を通して頂きたい。ところで、話は変わりますが、私が陛下が食べる食べ物に下剤を仕込むなどとは心外です。確かに、私は娘のことを深く深く愛して止みません。ですが……


 ナイトハルトは、途中から中身を読み飛ばし、最後の三行を確認した後、ぱたっと手紙を閉じる。

 うん、割と至近距離から覗き見られていたということは分かった……

 そして真顔でカイオンに差し出す。

「カイオン、これを暖炉にくべて、塩をまいておけ」

「えっ、暖炉にですか?」

「うん、いつもより火力増し増しで……」

 カイオンが、目をパチクリさせる。

「わかりました。読んでみても?」

「あぁ、構わない。私は最後まで読むのを断念した……」

 カイオンが、手紙を読み始め、途中から顔を青くする。

 ――後日、ゲオルグ公爵に会ったカイオンは、ナイトハルトの後ろにそっと隠れるのであった。






 ※

 ナイトハルトが、自分の父親、王とカルデラ家の話で意気投合してから、王は何かにつけてナイトハルトの元を訪れる様になり、又、カルデラ家にも、何かしらのお誘いがあったり、自分から出向いたりして、月に一度程通う様になっていた。
 リジーや周囲の人達との関係は良好になっていく中、割とあっというまに時間が過ぎて行く事に危機感を覚えていたナイトハルトは、攻略対象達のことについて考える。

 藤堂麗、現ナイトハルトは、攻略対象の内二人、カイオンと、宰相の息子、ニコラスについては攻略を既に終え、其々それぞれのバッドエンド、ノーマルエンド、トゥルーエンドを確認している。

 しかし、ナイトハルトを含まない残り三人のキャラクターについては、事前情報しか知らない。
 ナイトハルトは考える。

 どうしたものかなぁ……

 というのも、これらの攻略対象全てにかなり癖があり、全員に何かしらの暗い過去があるのだ。

 それはナイトハルト然り、カイオン然り。

 因みに、カイオンについては、既にその暗い過去についての幾らかのフラグを折ってある。

 ナイトハルトは、ある時、王に何人かの子供の中から自分の従者を選べと言われ、その中に居たカイオンを迷わずに選んだ。
 その時のカイオンは、他の子供達と違って前に来て話す方ではなかったし、もしもシナリオ道りならば、ここでナイトハルトがカイオンを選ぶことはなかった。
 しかし、カイオンのシナリオを全てクリアしているナイトハルトは、カイオンが家で親に暴力を振るわれていること、そして実はとても狡猾な……頭のいいキャラクターであることを知っていた。
 だから、カイオンを素早く自分の従者にし、自分の近くに住み仕える様、王に進言したのだ。
 王は、滅多にない第一王子の願いを聞き入れ、ナイトハルトの部屋の近くにカイオンの部屋を与えた。
 更にナイトハルトは、カイオンに聡明で心優しい家庭教師をつけ、自分に常に付き従う様に仕向けた。

 そう、ナイトハルトは、カイオンのピンクの髪の美少女に会う以外のほぼ全てのフラグを、既に折ってあるのだ。

 それは、前世の、藤堂麗の推しキャラがカイオンであったということも関連して……いや、恐らく殆どそれが理由である。

 そしてカイオンは、ナイトハルトが自分の事情を知っていて、自分を選んだことを知らない。
 勿論、側にいて、ナイトハルトに仕える内に自分のことを大事に思ってくれている事に気が付き、恩を感じている。
 しかし何処かで、実はナイトハルトが男色家であり、見た目のいい自分を選んだのでは無いかとさえ思っている。

 一方のナイトハルトはというと、元のシナリオで、“裏切りの従者”の名を冠しているカイオンが、金の為に最後に自分を裏切る可能性を、頭の何処かで捨て切れずにいる。
 そして、ナイトハルトはそれでもいいと思っていた。
 仮にも、数あるゲームの中の一つとはいえ、「月が出る夜に恋をして」で彼女が最も愛した推しキャラなのだ。

 ただし、そんな気はなく、カイオンが普段のナイトハルトをそれなりにしたっている事に気がつくのは、そして、王宮という場所で最も信頼の置ける、非常に頼りになる自分の右腕となっていくことを知るのは、もう少し先の話である。
 そして――


 ゲーム上の隠しキャラ、裏ボスの存在に気が付くのは、丁度このすぐ後であった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~

紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。 「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。 だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。 誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。 愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

処理中です...