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〈第七話〉
しおりを挟むナイトハルトは、途中からあったカルデラ夫妻による忍術という名のサプライズに驚きつつも、リジーと共にピクニックを楽しみ、夕方頃、帰路に着いた。
ナイトハルトが城に帰り、自分の部屋へと着くと、カイオンがナイトハルトに話しかける。
「殿下、ゲオルグ公爵から手紙を預かっています」
「手紙?」
ナイトハルトは、今日会ったのだから口頭で話す機会が幾らでもあったのに、態々手紙にして渡すということは、何かあるのではないかと思い、素早く手紙を開け、中を確認する。
すると――
拝見、ナイトハルト殿下
本日は、カルデラ家のピクニックにお越し頂き、誠にありがとうございました。澄ました顔をしていらっしゃいましたがリジーに会った時に一瞬固まったのを私は見落としませんでしたぞ? それは兎も角、地面に落ちたリジーのサンドイッチを、サッとお召し上がりになるところなど、私、年甲斐も無く感動して涙を流してしまいました。ですが、陛下は、次代の国王となるお方。確かに、可愛い娘の必死に作ったサンドイッチを地面に落とすなどとは、と激昂するお気持ちは、激しく、とても激しくお察しします。しかし、それでも、大事な私の娘の婚約者だからこそ、どんな場面でも従者殿が言った様に毒味を通して頂きたい。ところで、話は変わりますが、私が陛下が食べる食べ物に下剤を仕込むなどとは心外です。確かに、私は娘のことを深く深く愛して止みません。ですが……
ナイトハルトは、途中から中身を読み飛ばし、最後の三行を確認した後、ぱたっと手紙を閉じる。
うん、割と至近距離から覗き見られていたということは分かった……
そして真顔でカイオンに差し出す。
「カイオン、これを暖炉にくべて、塩をまいておけ」
「えっ、暖炉にですか?」
「うん、いつもより火力増し増しで……」
カイオンが、目をパチクリさせる。
「わかりました。読んでみても?」
「あぁ、構わない。私は最後まで読むのを断念した……」
カイオンが、手紙を読み始め、途中から顔を青くする。
――後日、ゲオルグ公爵に会ったカイオンは、ナイトハルトの後ろにそっと隠れるのであった。
※
ナイトハルトが、自分の父親、王とカルデラ家の話で意気投合してから、王は何かにつけてナイトハルトの元を訪れる様になり、又、カルデラ家にも、何かしらのお誘いがあったり、自分から出向いたりして、月に一度程通う様になっていた。
リジーや周囲の人達との関係は良好になっていく中、割とあっというまに時間が過ぎて行く事に危機感を覚えていたナイトハルトは、攻略対象達のことについて考える。
藤堂麗、現ナイトハルトは、攻略対象の内二人、カイオンと、宰相の息子、ニコラスについては攻略を既に終え、其々のバッドエンド、ノーマルエンド、トゥルーエンドを確認している。
しかし、ナイトハルトを含まない残り三人のキャラクターについては、事前情報しか知らない。
ナイトハルトは考える。
どうしたものかなぁ……
というのも、これらの攻略対象全てにかなり癖があり、全員に何かしらの暗い過去があるのだ。
それはナイトハルト然り、カイオン然り。
因みに、カイオンについては、既にその暗い過去についての幾らかのフラグを折ってある。
ナイトハルトは、ある時、王に何人かの子供の中から自分の従者を選べと言われ、その中に居たカイオンを迷わずに選んだ。
その時のカイオンは、他の子供達と違って前に来て話す方ではなかったし、もしもシナリオ道りならば、ここでナイトハルトがカイオンを選ぶことはなかった。
しかし、カイオンのシナリオを全てクリアしているナイトハルトは、カイオンが家で親に暴力を振るわれていること、そして実はとても狡猾な……頭のいいキャラクターであることを知っていた。
だから、カイオンを素早く自分の従者にし、自分の近くに住み仕える様、王に進言したのだ。
王は、滅多にない第一王子の願いを聞き入れ、ナイトハルトの部屋の近くにカイオンの部屋を与えた。
更にナイトハルトは、カイオンに聡明で心優しい家庭教師をつけ、自分に常に付き従う様に仕向けた。
そう、ナイトハルトは、カイオンのピンクの髪の美少女に会う以外のほぼ全てのフラグを、既に折ってあるのだ。
それは、前世の、藤堂麗の推しキャラがカイオンであったということも関連して……いや、恐らく殆どそれが理由である。
そしてカイオンは、ナイトハルトが自分の事情を知っていて、自分を選んだことを知らない。
勿論、側にいて、ナイトハルトに仕える内に自分のことを大事に思ってくれている事に気が付き、恩を感じている。
しかし何処かで、実はナイトハルトが男色家であり、見た目のいい自分を選んだのでは無いかとさえ思っている。
一方のナイトハルトはというと、元のシナリオで、“裏切りの従者”の名を冠しているカイオンが、金の為に最後に自分を裏切る可能性を、頭の何処かで捨て切れずにいる。
そして、ナイトハルトはそれでもいいと思っていた。
仮にも、数あるゲームの中の一つとはいえ、「月が出る夜に恋をして」で彼女が最も愛した推しキャラなのだ。
ただし、そんな気はなく、カイオンが普段のナイトハルトをそれなりにしたっている事に気がつくのは、そして、王宮という場所で最も信頼の置ける、非常に頼りになる自分の右腕となっていくことを知るのは、もう少し先の話である。
そして――
ゲーム上の隠しキャラ、裏ボスの存在に気が付くのは、丁度このすぐ後であった。
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