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〈第八話〉
しおりを挟む天候に恵まれ空に雲一つ無いこの日、ナイトハルトは、カイオンと腕の立つ騎士二人と共に、行き交う人々で賑わう下町まで、市場調査という名目の買い物に来ていた。
ナイトハルトは、まず差し迫ったリジーの誕生日に何かプレゼントを送りたいと思い、目に付いた女性用品店へと入る。
勿論お忍びであり、深めのフードを被ったナイトハルトとカイオンは、女性向けの髪飾りやアクセサリーが並ぶ店の中で、頭の上の重苦しいフードを外した。
「さて、どれにしようか……」
女性用品店のアクセサリー売り場の前で、美男子二人とガタイのいい男二人が、昼間からしげしげとアクセサリーを眺める姿はなかなかにシュールである。
しかしそれを気にせず、顎に手を当て、真剣な眼差しでプレゼントを見定めるナイトハルトに、カイオンが呆れて苦言を呈する。
「わざわざ街まで足を運ばなくとも、商人を呼べばいいじゃないですか……」
「それは……絶対に吹っかけられるぞ?」
「貴方が、頼めば大体の物は手に入るでしょう」
「うーん、確かにそうなのだが……」
若干言い澱みつつ、それでも全く引く気のないナイトハルトは、かなり興味のなさそうなカイオンをスルーして、ガラスと鉄で出来た桜の簪を手に取る。
簪が、この世界でも売られているんだな……
ナイトハルトは、リジーが簪をさしているところを想像し、リジーにはどちらかというと、リボンなど大きめでふんわりした、髪留めの方が似合うかと思っていたが、これも悪くないなぁ、などと思う。
正直リジーなら何をつけても似合いそうだ……
かなり重度の嫁バカ……婚約者を深く愛して止まないナイトハルトは、店員に簪の梱包を頼む。
そして待っている間にひょいっと、淡く青いガラスの髪留めを手に取ると、カイオンの髪に当てた。
カイオンがギョッとしてから慌てて小声で話す。
「ちょっ! 私に男色家の趣味はありませんよ⁈」
「大丈夫だ、私にもない。ただ、似合うなと……」
思わず……
前世でカイオンのイベントにこんな様な髪留めが登場したな、などと思ってうっかり髪留めをカイオンの髪に当ててしまったナイトハルトは、そっと髪留めを元の場所に戻す。
「全く」
梱包が終わり、代金を支払ったい終えたナイトハルト一向は、女性用品店を後にした。
※
その後、ナイトハルト達は、食料品店、薬草店、武器屋、商業ギルドなど予定時間内で見て回れるところを出来るだけ回った。
途中で、貧困に喘ぐ子供達や違法な商売を見たナイトハルトは、王子としてこう言う物をどうにかしていかなければいけないんだよなと、そっと思う。
そして一行は最後に、王によって押し付……依頼された課題、街の近くの比較的安全な古代遺跡の調査へと向かった。
※
ナイトハルト達が、遺跡の前に辿り着く。
意外と近くに、こんな場所があったんだなぁ……
石造りの巨大な神殿には、そこに昔石柱が何本も立っていたことを思わせる土台と、折れた石柱の破片、大きな門があった。
しかし、誰にも手入れされることが無かったであろうその神殿には、これでもかという程びっしりとツタや苔が蔓延《はびこ》り、更にはあちこちから巨木が顔を覗かせ、最早何処に入り口があるのかすらわからない様な様相を模していた。
ナイトハルトが表門から入れず、神殿へ入ることが出来る場所を探していると、騎士の一人が声をかける。
「殿下、ここから入れます」
ナイトハルト達は、神殿の壁の割れ目に木の根が割れ込み出来た僅かな隙間から、神殿の中へと侵入した。
※
この神殿には既に何人かの人間が調査に入っており、モンスターなどが出ないと知っているナイトハルト達は、比較的安心して神殿の奥に向かって歩く。
「しかし、調査と言っても私達に出来ることは限られている気がするのだが」
「そうですね、どちらかと言えば観光に近い気すらします」
ナイトハルトがカイオンと共に、そんなしょうもない話をしていると、騎士の一人が陽気笑う。
「ハハッ! 二人ともお強い」
「ウチの息子なんて、殿下と同い年なのにまだ夜一人でねられないんですよ? こんなところ絶対来たがらない」
そんなたわいもない話をしながら歩くうち、ナイトハルト達は神殿の最深部の部屋の前まで辿り着いた。
※
騎士の一人が松明に火をつけ、最深部のひときわ大きい部屋へと入る。
二体の精巧な作りの天使と悪魔の石像が飾られ、何かを祀った様な跡が在り、教卓が一つぽつりとある、ガラリとした広い洞窟の壁面には古代文字が一面に羅列されている。
ナイトハルトが古代文字を読む。
「ここに来る者は、死の世界の淵を覗くことになるであろう……?」
「殿下、読めるんですか?」
「まぁな……」
騎士の一人が驚いてナイトハルトに尋ねるが、そこは秀才と呼ばれているだけのことはあって、壁に書かれている文字をスラスラと読んでいく。
決して、古代文字で書かれた男同士の熱い友情が読みたかったという訳では……多少の熱は入ったと思う。
ナイトハルトが文字を読んでいくと、その中に凄く慣れ親しんだ、懐かしい言語が記されていた。
これは……日本語?
何処か懐かしさを覚えたナイトハルトは、昔懐かしい発音のままに、その文書を唱える。
『ここへ招かれた者は幸い』
途端に神殿が揺れ、ガガガガ! という地面を引っ掻いた様な音と共に、教卓の下の床が下がり、地下への階段が現れた。
カイオンが驚いて、ナイトハルトを揺さぶる。
「えっ‼︎ 殿下! 何したんですか?」
「いや、なんとなく唱えてみたら――」
突如、ゴゴゴゴ‼︎ という轟音を立てて優に五メートルはある天使と悪魔の石像が、その目を赤く光らせ、動き出す。
一同唖然とする中、咄嗟の機転と判断で、この石像の大きさならば入ってこれないと判断した騎士の一人が叫ぶ。
「地下へ!」
動く石像の攻撃を躱しつつ、ナイトハルト、カイオン、騎士二名は素早く地下への通路へと潜った。
※
地下の通路は細長く、上の遺跡とは打って変わって埃臭く、蜘蛛の巣がびっしりと蔓延り、僅かに血や腐肉の匂いが漂っている。
そして、この通路の入り口……さっき自分達が入って来た場所からは、ここまで侵入しようとしているのか、石像が地面を無理矢理ほじくり返す轟音が鳴り響いていた。
若干パニックになる脳内をどうにか冷静にし、ナイトハルトは静かに思う。
……どうしよう。
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