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〈第十一話〉
しおりを挟むハーフアップにした淡い金色の髪に、大きめの飾りの付いた硝子の簪一つ。
凛とした大きな瞳が、まるで何か不味いことでもしただろうかと、戸惑いがちにこちらを確認すれば、大丈夫だよと手を握るのも忘れて、微笑ましくその様子を眺めていたくなる。
ナイトハルトがリジーにそっと勧めた、濃過ぎず、薄過ぎない青と空色のドレスは、リジー自身の凛とした雰囲気を引き立たせ、桜の簪が絶妙なアクセントとなり、その存在感を引き出している。
あぁ、絵になるなぁ
勿論露出は少ない。そこはナイトハルトが意地でも譲らなかったところである。
「あらぁ、リジー、素敵じゃない!」
三十代の母とは全く思わせない雰囲気と、それに負けない容姿を合わせ持つリリー夫人が、リジーに声をかける。
リジーが口元を扇子で隠し、こっそりとリリー夫人に伝える。
「ナイトハルト殿下がやってくれたんですのよ?」
「まぁ!」
リリー夫人が大きな目を更に見開いて、ナイトハルトを見る。
少し困った表情をしたナイトハルトに助け船を出したのは、後ろからモーセの如く人の波を割り現れた現国王、ナイトハルトの父親であった。
「ナイトハルト、紹介したい者がいる」
ナイトハルトは、心中で何処かホッとしつつ、今参りますと一言返し、王の後を付いていった。
※
王から色々な人物を紹介され、頭の中で会話をした人物の顔名前、役職を反芻するナイトハルトの目に、ダンスをするリジーが映る。
優雅に踊るその姿に見惚れるつつも、次々とダンスを申し込まれるリジーに、やり過ぎたかぁと心中に出現した黒っぽいものを何処か隠しきれず放出していると、ダンスを誘う相手がギョッとしてリジーの側を離れ、何処からとも無く“氷雪の貴公子”というワードがぼそりと聞こえてきた。
ん?
ナイトハルトは、“氷雪の貴公子”というワードを払拭する為、前世でしばしば多用していた営業スマイ……自然な笑顔を作って会場に乗り込んでいる……つもりであった。
しかし、殆どの時間を課題をこなすことに集中し、教師にも真剣な顔で質問をするナイトハルトの表情筋は前世と比較するとほぼほぼ死んでおり、ナイトハルトが笑顔を作っているつもりであっても、王や、彼をよく知る人物以外は、それがそこそこ頑張って作られた笑顔であるとは気付かなかった。
約一名を除いてはーー
「今晩はナイトハルト殿下。良い夜ですね」
何処か深く、遠くを眺める様な琥珀の瞳、淡い黄色に蝋燭の橙色を混ぜた様な明るい髪、暖かみのある表情。
自身と対照的に、柔和で自然な笑みを浮べるこの少年を、ナイトハルトは知っていた。
クリストファー・マイツェル……
ナイトハルトがかつて攻略し損ねたゲームの主要攻略対象の一人、教皇の息子、クリストファー・マイツェル、通称クリスがナイトハルトに話しかけた。
※
だからといって、何がある訳でも無い。
というのも、ナイトハルトは、クリスのシナリオを何一つ攻略していないのだ。
『いつも優しい彼に隠された秘密とは?』
これがクリスのシナリオ”琥珀色の使者“に使われたキャッチコピーである。
ゲームの課金要素、必要になるアイテム、かかる時間、ゲーム全体の評価等を事前に調べていた藤堂麗でも、ネタバレを含む内容までは見ていない。
クリスとは自然な形で話し始め、割と意気投合し、哲学チックな話で盛り上がり、そして……何事も無かったかの様に別れた。
敢えて言うならば、学園でまた会いましょうねくらいの約束はしたが、相手が王子ならそのくらいの挨拶はするだろう。
確かに、友達になった感じはするが……
もっとこう、色々ありそうな気がして構えていたナイトハルトは、何処か肩透かしを食らった様な感触で、リジーやリリー夫人が控えている控え室へと向かった。
※
「殿下、お疲れ様です」
リリー夫人やリジーの姿を確認し、自然と肩の力が抜けたナイトハルトは、二人の元へと歩みよる。
「ところで、リジーの化粧は殿下がなさったのですよねえ」
頭からすっかりと化粧の話を飛ばしていたナイトハルトは、ぴたっと固まる。
しかし、そんな様子を見たリリー夫人は、少しホッとした表情を浮かべ、いたずらっぽく笑いウィンクをすると――
「私も次の機会に、是非化粧して貰いたいわ」
こっそりとナイトハルトにそう伝えるリリー夫人に、この親子には敵わないなと、自然な笑みを零すナイトハルトは、そっとリリー夫人に尋ね返す。
「リリー夫人は、いつもどんな風に化粧を?」
リリー夫人が、リジーとそっくりな動作で、きょとんとした表情をする。
「化粧って、みんなするものなのかしら?」
嘘ぉぉぉぉぉぉ‼︎
ぽそりと告げられた言葉に、本日この会場で一番の驚きを持って返すナイトハルトであった。
※
リジーが自分も何か渡したいと、自室のクローゼットを開けると、そこには忍者道具が一式ずらりと並んでおり、やっぱりカルデラ家だなぁとナイトハルトは思う。
そして、会場の雰囲気も熱が収まり、カイオンと共に帰りの馬車に乗る直前に、王がこっそりとナイトハルトに尋ねる。
「余の分は?」
ナイトハルトは自称営業スマイルのまま固まり、後日、自分用に買った異国のお茶キッドをそっと王に献上するのであった。
※
ナイトハルトが城に着く頃には、もうすっかり日が暮れ、前世で言うところの良い子の寝る時間はとっくに過ぎていた。従者と別れ、自室に戻り、貴族や王族の生活、付き合いとはこんなものなのかと少々疲れた様子で、それでも自分日誌を書く為、椅子に座ろうとすると――
「待ちくたびれたぞ、転生者」
黒い髪、黒い瞳、何処か懐かしの日本人を思わせる小さな魔王が、堂々とナイトハルトの席を占拠していた。
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