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〈第十二話〉
しおりを挟むリジーに次はどんなドレスを着て貰おうだとか、リリー夫人にはどんな風に化粧しようだとか、クリスが抱えている秘密って何なのだろうだとかその辺りの情報が一変にスコーン! と頭から抜け落ちる程の衝撃がナイトハルトを駆け巡る。
蛇に睨まれた蛙の如くその場に固まるナイトハルトの脳は先程感じていた倦怠感など忘れ急ピッチでフル稼動していた。
ちょっと待った何で今来た⁈
フフフ、魔王に腕っ節で勝てば……勝てるかっ‼︎
剣の師匠にお前なら剣豪になれるというお墨付きを貰うナイトハルトでも、4、5メートルある石像を一撃で吹っ飛ばす奴を相手にして勝てるとは思わない。
そして、そんなナイトハルトの脳内を察してか、それとも単純にフリーズしてしまっているナイトハルトに呆れてか、椅子の上に立ち、へりに片腕で頬杖をつき、魔王がこの部屋を訪れた理由を話し始めた。
「あの時、お主が切った我の足元の鎖、あれは我を彼処に縛り付けておった忌々しい呪いの一種でな。何故お主があの鎖を容易く切る事が出来たのかは分からぬが、あれで私を縛っていた封印が解けたのだ」
ナイトハルトがポカンとしているのを尻目に、魔王が目を真紅に光らせニヤッと笑う。
「封印を解かれたのは良い。感謝しておる。だがタイミングが早過ぎた。力を蓄える前に封印を解かれ、まだ完全に魔力が戻らぬ。子供の姿なのもそういう理由だ。これではご家老しゅ……強力な魔物に襲われるかもしれないと安心して眠る事も出来ぬ。というわけで――」
魔王が、くりっとした大きな黒い瞳に戻り、ナイトハルトの顔を覗き込む。
「我を養えっ」
ふぁっ⁈
「……というのは冗談だ。だが、安心して眠れる場所が欲しい。幸いにも城や王子の部屋にはそれなりに魔除けの結界が貼られている。まさか他の魔物供も我がこの場にいるとは思うまい。夜の間この場所を借りる」
4、5メートルある石像を一瞬で吹っ飛ばす魔王が手に負えない様な相手に対し、王子の部屋などというパッとしない対抗策が通じるのかいなかという何処か平和呆けした疑問を無視して、多少ぎこちない動作でよっこらせと大きな椅子から降り、トテトテと歩き、甘えた顔一杯に、むぎゅっと自分を抱き締める魔王に、ナイトハルトの思考は停止する。
クソ可愛ええっ‼︎
正に魔性。
ナイトハルトは、魔王の甘えるというある種効果的面の攻撃にノックアウトするのであった。
※
勿論、可愛いというだけでナイトハルトが魔王を自分の部屋に置くことを決意した訳では無い。
ナイトハルトが今、個人で魔王に反発して戦ったとしても魔王には勝てない。完全に力を取り戻してはいないとはいえ、この城の中に魔王を相手にして勝てる様な戦力があるとは思えず、下手に断るのは危険である。更に、一週間前に見た夢を鑑みるに、この魔王がそこまで悪い奴とは思えない。
多少、大爆発する可能性を孕んだ爆弾を抱えている様な気分にはなるものの、魔王がヒロインという危険分子に付け込まれる可能性を考慮すれば、下手に知らない場所で動かれるよりも自分の目の届く範囲で行動してくれる方がリスクが少なく、遥かにマシ……とも取れる。
という訳で、今、魔王エリュシオンは絶賛ナイトハルトのお膝の上に乗って、ナイトハルトが日記を書くところを覗き込んでいる。
書きづらいと思いつつも、小さな美少年が自分の膝の上に乗っていると何処かほくほくとした気分を拭い切れないナイトハルトは、少し格好つけながら日記を書き綴った。
「良いのか? がっつり覗かれておるぞ?」
「そこまで大層なことは書いていない。問題無い」
やはり緊張しているとどうしても口下手になてしまうナイトハルトは、ぶっきらぼうにそう答える。
そして、今日の深夜の出来事、魔王エリュシオンについて書いている時に、ふと、思い浮かんだことをそのまま言った。
「エリュシオンってちょっと長いな……」
「むっ?」
ぱしぱしと大きな瞳で瞬きをする魔王を置いてけぼりに、ナイトハルトは考える。
「エリュシオン、シオンは、ちょっと違うな。エリュー、エリー……うん。エリーだ」
ナイトハルトがエリュシオンをじっと見る。
呆気に取られている魔王は、なんでしょうと瞬きを繰り返す。
「駄目か?」
「むっ……良いのでは無いか?」
一泊置いて、魔王に無事お許しを貰ったナイトハルトは、少しホッとした表情でエリュシオンこと、エリーに向かって言う。
「宜しくな、エリー」
「ふむ、宜しく頼む」
ナイトハルトは、エリュシオンこと、エリーのその小さな手と握手をした。
※
無駄にだだっ広いベットの左側で、エリーがスヤスヤと寝息を立てている。小さい魔王と王子といういわば対局にある者同士が同じベッドで寝そべっているというなんとも言えない……更に睫毛の長い美少年のあどけない寝顔というシャッターチャンスの多いシュチュエーションに、ナイトハルトの頭はギンギンに冴えていた。
全く寝られない……
寝られない王子ナイトハルトは、仕方なく眠るのを諦め、横で寝入っているエリーのことについて考える。
エリーは、私の心を読んでいるのでは無さそうだ。もしエリーが私の心を常時読めるのなら、あんな風に驚いた表情はしないだろうし、魔力を使うことによって、つまりエリーの目が紅くなっている時に相手の考えていることを読んでいるのなら、もっと最初から、頻繁に読心術を使いそうなものだ。
だが、だとしたら、何故私が転生者であると分かったのか。
最初はあのエリーの足についていた鎖を切れるのが転生者だけだからだと思っていたのだが……どうやらそういう訳でもなさそうだ。だとすると、それ以外の方法で私の情報を断片的に得る方法がある、そう考えるのが筋だ。断片的な情報とは何か。例えば、HP・MPそれに称号。それが何処かしらに書かれていると考えるならば……。
たぶん、これが使える筈だ。
ナイトハルトが上に向けて手を翳し、ぽそっと呟いた。
「ステータス、オープン」
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