生贄として転移した死神暗殺者がチートです

ケポリ星人

文字の大きさ
3 / 16
Episode1

【Episode1(1)】

しおりを挟む
 光が収まると同時に、下卑た笑い声が聞こえてきた。

「がははは! 動けないだろう、異世界野郎!」

 唾を飛ばしながら豪快に笑う大男は、腕力担当のバスカだ。バスカは勝利を確信していた。ニヤニヤとしたまま余裕の足取りで律に近づいていく。
 律はピタリとも動かない。
 律の足元には転移用の魔法陣とは、別の魔法陣が展開されている。これは相手の動きを止める為の魔法陣だ。転移してきた異世界人は、全員がレベル1の異世界人。例え優秀なスキルを持っていたとしても、最大レベルの比較的優秀な魔法陣展開スキルの前に、普通は・・・全くなす術がない。
 それは、律の動きを止める為の物だった。
 だったのだが――

「おい、バスカ」

 律にちょっかいをかけようとしていたバスカが振り返る。
 振り返ると、五人の仲間の内一人の頭にナイフがささっていた。
 ナイフが刺さった男はそのまま仰向けに倒れた。

「……何寝てんだ?」

 バスカが首を傾げる。それもその筈、そこに倒れているナイフの刺さった男は、読心術というスキルの使い手、カルネだ。
 いつの間にナイフが刺さったのか、バスカは直ぐには理解できなかった。バスカにさっき声を掛けたのは、紛れもなくこの男、カルネだ。
 バスカが振り返る一瞬の隙を突いて、何処かから・・・・・投げられたナイフは、綺麗にカルネの眉間を貫いていた。
 そして、それは本来、致命傷になる筈のない傷であった。
 カルネは、レベル1の転移者にナイフ一本で倒される様な弱い男ではない。例えナイフが頭に刺さったとしても、スキルとレベルという価値観が絶対的なこの世界で、それが原因だけで死に至るなどという事はあり得ないのだ。
 バスカは、顔をしかめて律の方に振り返た。
 その瞬間、狙っていた様にバスカの両頸動脈を律のナイフが引き裂いた。
 都合の悪い魔法を呪いと呼び、それを打ち消す力のあるスキル、”死神”。
 前代未聞のこのスキルを前にして、動きを止めるなどという単純な魔法に効果はない。回復の魔法も、身体強化の魔法も意味をなさない。
 前かがみに倒れた男バスカは、そのまま首から血を吹き出し、大量出血という名の至極当たり前の、単純な物理法則で命を落とした。

「アイテムボックス」
「やろぉ‼︎ 舐めやがって‼」

 剣を振り上げ、斬りつけようとしてきた男の頭に穴が空く。
 律がバスカの死体の陰から使用した拳銃、それはサイレンサ―付きのコルトパイソンという、リボルバー式の拳銃だ。
 律が二歩下がる、カルネとゾフが倒れた時点で、もうこの部屋に遠距離攻撃が出来る奴はいない。
 但し、転移魔法を使える男を除けば。

「そこま――」

 突然律の真後ろに現れた男のあご下に、あらかじめ用意されていた銃弾がもう一発、間髪入れずに打ちこまれる。
 律はどうやって、どの様に、どの位置で、この転移してきた男ゾフがいつも殺しをやっていたかを事前によく調べていた。女神様に頼み込んで、それはそれは丁寧に、何度も何度も、この男が人を殺すシーンを映像で確認していた。
 律がニィと笑う。
 男の頭頂部が吹っ飛び、律の周りに血の雨が降った。

「後ろを取るのがお好きでしたね」
「ひっ、ひぃぃぃぃ‼」

 前からしてきた悲鳴にハッとした律は、さっと表情を手で隠す。
 最後に残された魔導服を着た男、ゴラアナはその一瞬の表情に只ならぬ悪寒を覚えた。ただでさえ有り得ない状況であるにも関わらず、彼が最も畏怖いふの念を抱いたのは、律の表情だった。
 ゴラアナは尻もちをつき、ガタガタと怯えながら後ろにあとずさる。
 律が、転移・不動の魔法陣を作り出した男の前までゆっくりと歩みを進める。
 その男は有能であった。魔法陣を作り出す能力はこの世界でもとても珍しい。そしてそれらを使い熟すまでには、相当な時間と修練が必要だ。
 普通だったら味方に引き込みたくなる、貴族や喉から手が出るほど欲しいと思う様なその男を、律は思い切り踏みつけた。

「ひぃぃぃぃ! 助け――」

 ぶれることのない狙いとともに、乾いた短い音がした。
 律は跳ね返り、ほほに着いた魔導士の血をぬぐった。

「ステータス、オープン」

 誰もいなくなった召喚用の部屋で、律のステータスが開らかれる。
 そこには、取得可能なスキルの情報が並べられており、律はその中から幾つかのスキルを選び取った。

『読心術Lv.1を取得しました』
『転移Lv.1を取得しました』
『筋力強化Lv.1を取得しました』
『水魔法Lv.1を取得しました』
『魔法陣作成Lv.1を取得しました』

 こんなものか。

 律は、自分のアイテムボックスの中から幾つかの武器を選び、準備を整える。

 厄介なスキルを持つ七人の内、五人が消えた。
 残り二人、その他を入れて十三人。

 律は、魔導士の服をはぎ取り、魔導書を手に取る。
 魔導書を真っ二つにし、ビリビリに破くと、ライターで火を付けた。

 これでもう誰かが呼ばれることはない。

 律は、そのままその部屋を出た。



 部屋の前で、監視二人が酒を飲んでいる。
 二人とも顔を真っ赤にし、一人は酔いつぶれて眠っている。

「あ、ゴラァナ様。お疲れ様れぇぇす!」

 酔った監視員が声をかける。
 フードの深い、ゴラァナと呼ばれる魔導士の服を着た男が、起きている方の監視員に近づく。

「ゴラァナさ――」

 一人の頭が吹き飛ぶ。
 律が、音が出ないように片手で倒れかける体を支えると、その横のもう一つの頭に向かって発砲した。

 後、十一人。

 隣の部屋から、張りのある男の声がする。

「我々は魔王を復活させ、世界に再び混沌という名の安寧をもたらしめるのだ‼」

 どんな理屈だ。

 中で歓声が上がる。

 ……ここは、頭のおかしい連中の巣窟の様だ。

 律は部屋の外の壁にコンポジションC-4という、アメリカ産の遠隔操作型プラスチック爆弾を一つずつセットしていく。
 胸ポケットから煙草を一本取り出すと、歩きながら火を付けた。

「ふぅー……」

 カチッ、という音と共に、耳を裂くような爆発音。
 後ろでオレンジ色の火が上がり、ごうごうと音を立てて燃え始めた。

 残り、五人。

「アイテムボックス」

 律は、コルトパイソンを腰に差し、銃をもう一丁取り出す。
 それは、律が持っている中で最も珍しく高価な銃。
 折り畳み式の小銃、二式小銃だ。
 第二次世界大戦の真只中に日本軍によって開発されたこの銃は、数が少なく、折り畳み式かつ狙撃にも使用できるという点から、マニア達の間では高値で取引されている。

 このうち三人は、山に向かって逃げるんだっけ?

 律が構える。
 スコープの中に映る三人の男達の頭を順番にそして的確に、一人づつ撃ち抜く。

 あと、二人。

 狙撃用の銃をアイテムボックスにしまい、コルトパイソンを引き抜く。律は向かい側の小屋へ向かって歩いた。



 律が、向かい側の小屋の前で寝たふりを決め込んでいる老人の方へ、ゆっくりと歩く。

「やぁ、はじめまして! 異世界から転移してきた者なんですが」

 一瞬震えた老人が、冷や汗をかいて狸寝入りを決め込む。

「残念ながら、貴方のお仲間はみんな死んでしまいましたよ? そこでどうです? 取引しませんか?」
「と、取引?」

 老人が目を開ける。
 律は老人に向かって同じ歩調で歩く。

「えぇ、取引です。この世界のことについて色々教えてくれませんか? 通貨に、言語に、食べ物に、病気。そういうのを教えてくれる人が必要で――」

 老人の目の前まで歩いた律が、老人の頬に向かって伸ばしていた手を急に翻し、デコピンをした。

「何をする。わしが必要なんじゃぁ……」

 顔を真っ青にし、くるくると目を回し始めた老人が、泡を吹いて倒れる。
 律は、ステータスを開いた。

「ステータス、オープン」

 律が、取得できるスキルの一覧が並ぶ。

 カリスマ、向かない。
 調理、出来る。
 模写、いらない。
 見つけた、索敵。この老人が持っていたスキルは、これと……。

 律が、スキルリストの中から、寝ずの番というスキルを見つけ、じっと見つめる。
 寝ずの番とは、寝なくても疲労しない、眠くならないという効果を持っている、MPを消費しないの常時発動型スキルだ。
 この老人はこのスキルを持っていたから、ねむらずとも生きてこられた、いや、眠るという習慣を持いなかった。
 だが、人間の体を単純な物理法則に当てはめるならば、眠らないという事はそのまま死へと直結する。
 もしも、突然そのスキルの効果を無効化され、単純な物理法則に従うような体にされてしまったのならば、老人は数か月、場合によっては数年間分の不眠という呪いによって、死んでしまう。
 律が、デコピン一つで老人を殺すことが出来たのはそういう訳だった。

 寝ずの番……いらない。

 律は、欲しいスキルを選択する。

『索敵Lv.1を取得しました』

 律が、小屋のドアを開ける。

「ひっ!」
「いやぁ……」

 小屋の中で、他の村から生贄として集められた人達が、肩を寄せ合っていた。

 何人いる?

 律が数を数える。
 思ったよりも大規模に行われていた生贄計画に、少し驚く。

「あの、この子だけは……どうかこの子だけは‼」

 母親にせがまれるままになっている律は、そのまま人質の顔を一人一人確認していく。

 違う、違う、違う、違う……あ。

「いたいた」

 男に向かって銃を向ける。
 木を隠すなら森の中。生贄のフリをしていた男が、雄叫びを上げながら律に飛びついた。

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ” ‼︎」

 カシュッ。
 短く軽い音が鳴る。
 腕に軽い負荷のかかるその一発で、男の頭が吹き飛んだ。

 生贄に集められた人達が、一斉に叫び声をあげる。

「いやぁぁぁぁ‼︎」
「た、助けてくれっ‼︎ まだ死にたくないっ‼︎」

 …………どうしよう。

 律はカリスマのスキルを取っておかなかったことを、少し後悔した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

処理中です...