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Episode1
【Episode1(10)】
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師匠と話し込んだ後、手動で充電する携帯の充電器で携帯を充電し、弾薬を補充し終えた律は、ノアのお腹の辺りに顔をうずめて爆睡し始める。
急に眠ってしまった律の頭を前足でてしてしとはたいたものの、一度眠ってしまうと簡単には起きない律の性質に諦めがついたのか、ノアも律の頭の周りで体を丸め、寝息を立て始めた。
翌朝、全く覚醒していない律と割と早起きな筈のノアを叩き起こしたのは、領主の館の人間が全員死んだという知らせでも、宿の宿泊時間を大幅に超えてしまったという知らせでもない。
一人の女性が、人攫いに捕まったというニュースだった。
まだ朝日が差し込み始めたばかりで薄暗い早朝に、律とノアが泊っている部屋のドアが豪快にノックされる。耳をピンと伸ばして目を覚ましたノアに起こされた律は、扉の外からする聞き覚えのある声に、扉の外にいる人が知り合いであることを確信した。
律が、未だ薄ぼんやりとした意識の中、扉に手を掛ける。
すると、小さな影が、自分の元に飛び込んできた。
「助けて……助けて! 律お兄ちゃん!!」
ばっと自分に飛びついてきたのは、件の発狂村で人質になっていた少女だ。
どこかから逃げてきたのだろう、彼女は裸足であり、手は傷だらけだ。
律は、心配そうな顔をする宿屋の亭主にお礼を言い、部屋のドアを閉めると、手持ちの救急キットで傷の手当てをしながら少女の話を聞いた。
「お、お母さんが……」
「落ち着いて。ゆっくりでいいから時間を追って、順に話して」
「律、読心術のスキルを使え」
後ろで座っている狼姿のノアにぎょっとする少女を横目に、律が読心術のスキルを使う。
読心術のスキルは、相手がどれだけ心を開いているかで、どれだけ相手の心が読めるかが変わる。おおよそ律に心を開いている少女にあった出来事を律が理解するのに、そう時間はかからなかった。
「よく無事で逃げて来たね」
律が、そっと少女の頭をなでる。
「鍵開けをするタイミングも、森での逃げ方も、よく守ってる」
ぼろぼろと泣き出す少女の頬に手を当てると、彼女の額にキスを一つ落とした。
驚いて目を見開き、瞬きをする少女に、律がやさしく微笑む。
「さて、ご依頼内容の確認です」
「えっ?」
「ご依頼内容は、母親の救出、村までの帰路に現れる障害の排除ですね?」
「え、お兄ちゃん……」
「報酬は、額のキス一つという事で」
見開いた目をきらきらと輝かせ、ぱっと頬を赤くする少女に、律は微笑み返す。
ノアが、不貞腐れた様にそっぽを向いた。
「けっ! やってられるか!」
「ノア。一緒に来てくれるか?」
“どこまでも”、と後につきそうな勢いでくるりと振り向き、結婚式のレッドカーペットの上を歩く新郎の様にノアに手を差し出す律は、楽しげに笑っている。
その笑みが、少女の額にキスをした高揚感によるものでない事に、流石のノアも察しがついていた。
律が、殺人鬼でなく、暗殺者を名乗った理由。
依頼を受けなければ人を殺さない律と、その笑顔の裏に隠された歪さに、薄々勘付き始めたノアは、仕方がないなと静観したまま伸びをする。
「厄介ごとを次々引き込みおって。手伝うこっちの身にもなれっ!」
ノアが狼から人型へと変化する。
言葉こそ渋っているが、口の端をにっと上げたその表情は、ノリノリだった。
地下に円形のドームがあり、そこには人買い達が集まっていた。
魔獣や、珍品、そして人間を扱うオークションに参加する人物達は皆、仮面をつけている。
そんな表舞台の裏、魔獣の檻が並ぶ一角に、人だけが大勢集められた檻が一つ用意されていた。
「律よ、見えたか?」
「ばっちり」
千里眼のスキルを使い周囲の様子を一通り見せるノアと、読心術のスキルを使って流れる映像の様にそれを確認した律は、今、オークション会場の客席側にいる。
ここに来るまでの道中で、街道を通りかかったそれらしき馬車を一台襲ったノアと律は、招待状と仮面を奪い、招待客に扮してオークションに紛れ込んだ。
「思ったよりも退屈な依頼になりそうだな」
ノアが、大きなあくびを一つする。
というのも、先日大虐殺を行った領主様のお屋敷から奪ってきた金銭により、魔王時代に稼ぎまくったノアだけでなく、律もそれなりの金額を懐に入れている。
件の少女……名をセシルというのだが、セシルの母親がオークションに出たとしても、それを買うだけの持ち合わせが彼らにはあった。
律が首をかしげる。
一瞬しか覗けなかったが、人が沢山集まる集団の中に、セシルの母親がいた様に思えない。
がやがやと人の喧騒が濃くなり、オークションが始まる。
オークションが始まると、隣で常に鑑定を発動させているノアが、商品の細かい説明を律にした。
最初の方は、珍しい短剣や宝石、中盤からアーティファクトと呼ばれる古代の遺産なんかもあったが、それらは全て偽物だった。
途中途中に、枯れない水の水筒、魔力を通すだけで暖まるフライパンなど、律も少し欲しいと思える様な物品が並んだが、律は終始黙ってステージを睨んでいた。
「律よ。あれは割ととんでもない商品だぞ」
ノアが、こっそりと律に話しかける。
律は、静かにノアの話を聞いた。
「あれ程呪われている短剣は他に見たことがない。元になった牙はドラゴンの物か。見ろ、持った瞬間呪い殺されるぞ」
実際に、その通りだった。
短剣の真っ白な刃は、呪をはらんでいるとは思えない程に美しく、表面にある微かなきめの粗さが光を乱反射し、きらきらと輝いている。
当然、その見た目とドラゴンの短剣という名前に惹かれて高値が付く。
だが、買った人間の奴隷が布越しに商品に触れた瞬間。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
断末魔と共にみるみるやせ細り息絶えた奴隷に、買った商人が激怒する。
結局、誰にも触れることが出来ないその商品を誰かが買うことはなく、オークションは続行された。
律が、干からびた奴隷に目を落とす。
ここではよくあることですよとばかりに片付けられていく、元は人間だった体を、人間扱いする奴はもういない。
オークションは進んでいく。
珍品部門の出品が終わり、魔物や獣人といった、動物達の販売にフェーズが移る。
そこに、微妙に見覚えのある商品が並んだ。
「世にも珍しい人魚が、生きたまま手に入りました!」
ステージ上に水槽に手枷を嵌められたまま出品されていたのは、他の誰でもない。
セシルの母親であった。
「ふむ。あの小娘も、上手いこと化けていたものだ」
ノアの一言に、知っていたのなら教えて欲しいという顔をする律。
“不老不死のスキルが手に入る”と声高に叫ぶ商人に、人魚の値が吊り上がる。
実際には、そんな物手に入らないと囁くノアを横目に、律は法外な値段を叩きつけた。
「金貨千枚」
百数枚で、相手の出方をみながら競り合っていた会場にどよめきが走る。
「千と百枚」という声に、律が「二千枚」と返したところで、誰も何も言わなくなった。
商人達が、荒事専門の大男を引き連れて駆け寄る。
律の周囲の人が、さっと円形に割れた。
「お兄さん、いたずらにそんな事言うんなら出て行って貰いますよ?」
大方、こんなひょろい若造が、金貨二千枚なんて持っている訳がないと考えたのだろう。
律は、無表情のまま右手を横に出した。
「アイテムボックス」
律の手の平の上から、じゃらじゃらと金貨が流れ出す。
商人たちが、目を丸くする。
金貨の数が優に千枚を超えた辺りから、商人たちに張り付いていた笑みが本物になり、手もみをし始めた。
二千枚でピタリと金貨の流れが止まると、律が言った。
「商品を頂いても?」
はっと我に返る商人は、慌てて返事をする。
「えぇ! もちろんです、旦那様!」
商人が、慌てて周りに指示を出す。
水槽の中の人魚が、律の顔を見て目を大きく見開く。
それを見た律が、人差し指を口の前に立てた。
律が壇上に上がる。
棒で人魚を動かそうとする商人を、手で牽制すると、水槽の上から人魚に話しかけた。
「セシルが待ってます」
水槽の水が抜かれる。
緑や赤に乱反射していた鱗が溶けて、人魚の肌が、人間の肌へと変わる。
律が終始黙って驚いているセシルの母親に布を掛け、「何もしなくて結構です」と、周りの商人達に言うと、筋力強化のスキルを使ってそのまま彼女を持ちあげた。
会場は、その一連の光景に息を飲んでいた。
人魚の肌が人間に変わる様もさることながら、舞台のワンシーンさながらの出来事に、頰を赤らめる女性もいる。
律が、そのまま会場を後にしようとする。
すると、明らかに高そうな服を着た男が一人、話しかけてきた。
「まぁまぁ少し待つといい。この後も見物だぞ?」
明らかに腹に一物ありそうな顔をした男が、律を引き留めた。
急に眠ってしまった律の頭を前足でてしてしとはたいたものの、一度眠ってしまうと簡単には起きない律の性質に諦めがついたのか、ノアも律の頭の周りで体を丸め、寝息を立て始めた。
翌朝、全く覚醒していない律と割と早起きな筈のノアを叩き起こしたのは、領主の館の人間が全員死んだという知らせでも、宿の宿泊時間を大幅に超えてしまったという知らせでもない。
一人の女性が、人攫いに捕まったというニュースだった。
まだ朝日が差し込み始めたばかりで薄暗い早朝に、律とノアが泊っている部屋のドアが豪快にノックされる。耳をピンと伸ばして目を覚ましたノアに起こされた律は、扉の外からする聞き覚えのある声に、扉の外にいる人が知り合いであることを確信した。
律が、未だ薄ぼんやりとした意識の中、扉に手を掛ける。
すると、小さな影が、自分の元に飛び込んできた。
「助けて……助けて! 律お兄ちゃん!!」
ばっと自分に飛びついてきたのは、件の発狂村で人質になっていた少女だ。
どこかから逃げてきたのだろう、彼女は裸足であり、手は傷だらけだ。
律は、心配そうな顔をする宿屋の亭主にお礼を言い、部屋のドアを閉めると、手持ちの救急キットで傷の手当てをしながら少女の話を聞いた。
「お、お母さんが……」
「落ち着いて。ゆっくりでいいから時間を追って、順に話して」
「律、読心術のスキルを使え」
後ろで座っている狼姿のノアにぎょっとする少女を横目に、律が読心術のスキルを使う。
読心術のスキルは、相手がどれだけ心を開いているかで、どれだけ相手の心が読めるかが変わる。おおよそ律に心を開いている少女にあった出来事を律が理解するのに、そう時間はかからなかった。
「よく無事で逃げて来たね」
律が、そっと少女の頭をなでる。
「鍵開けをするタイミングも、森での逃げ方も、よく守ってる」
ぼろぼろと泣き出す少女の頬に手を当てると、彼女の額にキスを一つ落とした。
驚いて目を見開き、瞬きをする少女に、律がやさしく微笑む。
「さて、ご依頼内容の確認です」
「えっ?」
「ご依頼内容は、母親の救出、村までの帰路に現れる障害の排除ですね?」
「え、お兄ちゃん……」
「報酬は、額のキス一つという事で」
見開いた目をきらきらと輝かせ、ぱっと頬を赤くする少女に、律は微笑み返す。
ノアが、不貞腐れた様にそっぽを向いた。
「けっ! やってられるか!」
「ノア。一緒に来てくれるか?」
“どこまでも”、と後につきそうな勢いでくるりと振り向き、結婚式のレッドカーペットの上を歩く新郎の様にノアに手を差し出す律は、楽しげに笑っている。
その笑みが、少女の額にキスをした高揚感によるものでない事に、流石のノアも察しがついていた。
律が、殺人鬼でなく、暗殺者を名乗った理由。
依頼を受けなければ人を殺さない律と、その笑顔の裏に隠された歪さに、薄々勘付き始めたノアは、仕方がないなと静観したまま伸びをする。
「厄介ごとを次々引き込みおって。手伝うこっちの身にもなれっ!」
ノアが狼から人型へと変化する。
言葉こそ渋っているが、口の端をにっと上げたその表情は、ノリノリだった。
地下に円形のドームがあり、そこには人買い達が集まっていた。
魔獣や、珍品、そして人間を扱うオークションに参加する人物達は皆、仮面をつけている。
そんな表舞台の裏、魔獣の檻が並ぶ一角に、人だけが大勢集められた檻が一つ用意されていた。
「律よ、見えたか?」
「ばっちり」
千里眼のスキルを使い周囲の様子を一通り見せるノアと、読心術のスキルを使って流れる映像の様にそれを確認した律は、今、オークション会場の客席側にいる。
ここに来るまでの道中で、街道を通りかかったそれらしき馬車を一台襲ったノアと律は、招待状と仮面を奪い、招待客に扮してオークションに紛れ込んだ。
「思ったよりも退屈な依頼になりそうだな」
ノアが、大きなあくびを一つする。
というのも、先日大虐殺を行った領主様のお屋敷から奪ってきた金銭により、魔王時代に稼ぎまくったノアだけでなく、律もそれなりの金額を懐に入れている。
件の少女……名をセシルというのだが、セシルの母親がオークションに出たとしても、それを買うだけの持ち合わせが彼らにはあった。
律が首をかしげる。
一瞬しか覗けなかったが、人が沢山集まる集団の中に、セシルの母親がいた様に思えない。
がやがやと人の喧騒が濃くなり、オークションが始まる。
オークションが始まると、隣で常に鑑定を発動させているノアが、商品の細かい説明を律にした。
最初の方は、珍しい短剣や宝石、中盤からアーティファクトと呼ばれる古代の遺産なんかもあったが、それらは全て偽物だった。
途中途中に、枯れない水の水筒、魔力を通すだけで暖まるフライパンなど、律も少し欲しいと思える様な物品が並んだが、律は終始黙ってステージを睨んでいた。
「律よ。あれは割ととんでもない商品だぞ」
ノアが、こっそりと律に話しかける。
律は、静かにノアの話を聞いた。
「あれ程呪われている短剣は他に見たことがない。元になった牙はドラゴンの物か。見ろ、持った瞬間呪い殺されるぞ」
実際に、その通りだった。
短剣の真っ白な刃は、呪をはらんでいるとは思えない程に美しく、表面にある微かなきめの粗さが光を乱反射し、きらきらと輝いている。
当然、その見た目とドラゴンの短剣という名前に惹かれて高値が付く。
だが、買った人間の奴隷が布越しに商品に触れた瞬間。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
断末魔と共にみるみるやせ細り息絶えた奴隷に、買った商人が激怒する。
結局、誰にも触れることが出来ないその商品を誰かが買うことはなく、オークションは続行された。
律が、干からびた奴隷に目を落とす。
ここではよくあることですよとばかりに片付けられていく、元は人間だった体を、人間扱いする奴はもういない。
オークションは進んでいく。
珍品部門の出品が終わり、魔物や獣人といった、動物達の販売にフェーズが移る。
そこに、微妙に見覚えのある商品が並んだ。
「世にも珍しい人魚が、生きたまま手に入りました!」
ステージ上に水槽に手枷を嵌められたまま出品されていたのは、他の誰でもない。
セシルの母親であった。
「ふむ。あの小娘も、上手いこと化けていたものだ」
ノアの一言に、知っていたのなら教えて欲しいという顔をする律。
“不老不死のスキルが手に入る”と声高に叫ぶ商人に、人魚の値が吊り上がる。
実際には、そんな物手に入らないと囁くノアを横目に、律は法外な値段を叩きつけた。
「金貨千枚」
百数枚で、相手の出方をみながら競り合っていた会場にどよめきが走る。
「千と百枚」という声に、律が「二千枚」と返したところで、誰も何も言わなくなった。
商人達が、荒事専門の大男を引き連れて駆け寄る。
律の周囲の人が、さっと円形に割れた。
「お兄さん、いたずらにそんな事言うんなら出て行って貰いますよ?」
大方、こんなひょろい若造が、金貨二千枚なんて持っている訳がないと考えたのだろう。
律は、無表情のまま右手を横に出した。
「アイテムボックス」
律の手の平の上から、じゃらじゃらと金貨が流れ出す。
商人たちが、目を丸くする。
金貨の数が優に千枚を超えた辺りから、商人たちに張り付いていた笑みが本物になり、手もみをし始めた。
二千枚でピタリと金貨の流れが止まると、律が言った。
「商品を頂いても?」
はっと我に返る商人は、慌てて返事をする。
「えぇ! もちろんです、旦那様!」
商人が、慌てて周りに指示を出す。
水槽の中の人魚が、律の顔を見て目を大きく見開く。
それを見た律が、人差し指を口の前に立てた。
律が壇上に上がる。
棒で人魚を動かそうとする商人を、手で牽制すると、水槽の上から人魚に話しかけた。
「セシルが待ってます」
水槽の水が抜かれる。
緑や赤に乱反射していた鱗が溶けて、人魚の肌が、人間の肌へと変わる。
律が終始黙って驚いているセシルの母親に布を掛け、「何もしなくて結構です」と、周りの商人達に言うと、筋力強化のスキルを使ってそのまま彼女を持ちあげた。
会場は、その一連の光景に息を飲んでいた。
人魚の肌が人間に変わる様もさることながら、舞台のワンシーンさながらの出来事に、頰を赤らめる女性もいる。
律が、そのまま会場を後にしようとする。
すると、明らかに高そうな服を着た男が一人、話しかけてきた。
「まぁまぁ少し待つといい。この後も見物だぞ?」
明らかに腹に一物ありそうな顔をした男が、律を引き留めた。
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