エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬

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44話

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 師匠は帰ってからも特に変わったところはなく、アンジェロと共に過ごせて充実した一日だったとお礼を言われたが、夕食が終わってもあの出来事には一切触れなかった。

「おかしい……師匠にいったい何が……」

「リッツ様、人にはそれぞれ考えというものがあるんですよ」

 ベッドに寝転んだ俺の隣でニエが見つめてくる。

「そういえばニエはなんで師匠がいるってわかったんだ?」

「うふふ、乙女の直感というものです」

 この反応は言えないことがあるってやつだな。最近は冗談を交えるようになってきたが全然隠そうとしないのは変わっていない。

「とりあえず今日はもう寝るか。ニエ、自分のベッドに戻れ」

「……スヤァ」

「何がスヤァだ。起きてんじゃねぇか」

「アンジェロが私のベッドを占領してしまって、リッツ様のベッドしか空いておりません」

「残念だ、俺のベッドは俺が寝るから空きがない。さぁ戻ろうな」

 ニエを抱えベッドへ放り投げる。アンジェロはニエの邪魔にならないよう最初から端に寝ていたから問題はないのだ。

 いったいニエは何を知っているのやら……。

 その日から師匠は忙しそうにどこかへ出掛けることが多くなっていった。







「リッツ、畑のほうはどう?」

「あ、師匠。実は教会から、今度は子供たちに販売だけじゃなくて、作るところからやらせたいってお願いされてるんです。スペースはあるから教会用に場所を作ってあげようかなって」

「あらそうなの。ほかに空いてる部分はどうするつもり?」

「それが今考え中で……師匠はどんなのがいいと思います?」

「あなたの好きなようにしていいのよ。薬だってもう無理に作る必要はないんだから」

「ははっ、それもそうですね。ゆっくり考えてみます」

「時間はたっぷりあるわ。ところで、少しニエちゃんを借りてもいいかしら」

「ニエを? 俺は別にいいですけどちょっと聞いてみますね」

 木の周りでアンジェロと遊んでいるニエを呼ぶ。

「リッツ様、どうしました?」

「師匠がニエに用があるみたいなんだ。大丈夫なら話を聞いてくれないか」

「リッツ様の頼みならば構いませんよ」

「ありがとう。師匠、迷惑をお掛けするかもしれませんがよろしくお願いします」

 二人がどこかへ出掛けると、俺はアンジェロと久しぶりにファーデン家へ向かった。







「ワンワン!」

 アンジェロが馬車に走っていくとティーナとエレナさんが降りてくる。

「あら、アンジェロ! リッツさんも、なんだかお久しぶりのような気がします」

「ちょうど時間が空いてさ、久しぶりにみんなの顔をみたいと思って来てみたんだ」

「ニエさんはいらっしゃらないのですか?」

「師匠が用があるって連れていったよ。たまには俺から離れてもらわないとな」

「そんなこといって、早くお決めになってあげないとニエさんが不憫ですよ」

「おいおい、ニエはともかくとして、俺はあいつのことを何も知らないんだぞ」

 アンジェロを撫でていたエレナさんが立ち上がる。

「リッツさん、何もすべてを知らなければいけないなんていうことはないのですよ。ユリウス様のように己の心、想いに素直に従うということも大事なことです」

「わかったわかった、エレナさんも相変わらずのようで安心したよ」

 エレナさんは勝ったと言わんばかりにいい笑顔をしている。

 なんだか懐かしく感じるが、それくらい俺にも色々あったってことなんだろう。

「っと、こんなところで立ち話もなんですから入ってください。皆さんもお喜びになります」

「ありがとう。それじゃあ少しだけお邪魔しようかな」

 屋敷へ入ると使用人たちから次々に挨拶をされる。中には掃除の途中だったのか箒を手にしたまま来る者もいたが、ティーナは笑顔でそれを見ていた。

 最近のユリウスはというと、みんなが心配するほどの異常な疲労と言動をするときがあるとのこと。しかしそれを見たギルバートさんとメリシャさんは、息子の成長が楽しみだと言って気にしてはいないらしい。

 なんだかんだ言っても『紅蓮の風』のみんなは優しい、きっと大丈夫だろう……たぶん。

「っともうこんな時間か、すっかり長居してしまったな」

「ふふふ、私も久しぶりにゆっくりできた気がします。最近は学ぶことが多くていつも何かに追われていますから」

「お嬢様、逃げるから追われるのです。大人しく諦めてくれれば私にも追われることはないのですよ。おかげで皆様からはファーデン家の令嬢はスパルタ教育を受けて可哀想だなどと噂が広まってしまい――」

「ちょ、ちょっとエレナ! それは言わなくていいでしょ!」

 エレナさんに対しティーナは文句を垂れる。

 すっかり令嬢として板についてきたと思ったが、どうやら中身は変わってないようだ。

「どれ、そろそろいくとしよう。今度はお土産の一つでも持ってくるよ」

「私たちも落ち着きましたら、今度はそちらへお邪魔しますね」

 屋敷を出て家へ戻るが師匠たちはまだ帰っていなかった。
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