彼女の涙が降り止んだら

はるみちる

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一章 きみと雨

4話

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「よかったら凛に会っていってくれない?」

 彼女があまりにも和やかな笑顔で提案するものだから、先生に頼まれた時のように警戒することもなく、流されるように「……はい」と答えていた。

 そして、春江さんの家に上がり、自分の家とは違う匂いにどきどきしているうちに、彼女の部屋の前に立っていた。
 春江さんのお母さんが、部屋のドアをノックする。


「凛ー! 凛のクラスのお友達が来てくれたわよー!」

 だから友達じゃないんだけど……と、誰にも聞こえない言い訳を心の中でする。

「聞いてるのー、凛ー?」

 しばらく彼女は呼びかけていたが、春江さんからの返事はない。

 春江さんのお母さんは、「困ったわねぇ」と、まったく困った感じがしないのんびりした口調で言った。
 なんて言ったらいいのかわからなくて、「そう、ですね」としか言えなかった。

 でも、僕は少し安心していた。

 たぶん春江さんが返事をすることはない。そうしたら、お母さんは「ごめんなさい。凛、今日はちょっと無理みたい。せっかく来てくれたのに、悪いわね」って申し訳なさそうに謝ってくるはずだ。そして、僕も「いやいや、大丈夫です。こちらこそ、押しかけちゃってごめんなさい」って謝って、プリントを渡して、ようやく任務を終えられる。

「……じゃあ、あとは頼んだわね」
「いやいや、だいじょ……って、え?」


 春江さんのお母さんは笑顔を浮かべたあと、僕の返事も待たずに階段を降りていってしまった。
 なにこれ。嘘だろ。
 残された僕は、唖然として部屋の前に立ちつくす。

 普通、ここで僕を残すか?
 春江さんのお母さんは、ちょっと、いや、かなり変わっていると思う。自分の娘が不登校だなんて、母親としてはけっこうな大事件のはずなのに、あまりにのんびりしすぎているんじゃないか。

 というか、どうすればいいんだろう。とりあえずノックしてみるか?
 大きく息を吐いて、握った手をドアに近づけた瞬間、

「……なんの用?」

 小さな――けれどはっきりと僕を拒絶する冷たい声が聞こえてきて、僕の全身は石になったように固まってしまった。

「わたしに友達なんていないはずなんだけど」

 春江さんのお母さんの雰囲気に流されてしまって、楽観的な気持ちになっていた僕の目の前に現実が突きつけられて、うろたえる。

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