彼女の涙が降り止んだら

はるみちる

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一章 きみと雨

5話

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「え、と……あ、プリント、届けに……」

 歯切れ悪く答える僕に、そっけない返事がかえってきた。

「そう。先生に押しつけられたんだ」
「お、押しつけられたとかじゃないよ!」
「…………」

 彼女はなにも言わなかったのに、〝本当に?〟と、とげとげした声が聞こえてくるようで――。

「あ、えっと、具合、大丈夫?」

 取りつくろうように尋ねる。

「あなたも、友達いないの?」
「えっ?」

 突然なんなんだ。面食らう僕に、やっぱり彼女は冷ややかだった。

「わたしが休んでる理由、本当に知らないわけ?」
「……それは」
「知ってるんでしょ? だったら、もう帰ってくれる?」

 ぴしゃりとシャッターを下ろすように、彼女は僕を拒絶した。
 彼女の事情はわからない。でも、もう誰とも関わりたくないと思うような、辛い思いをしたんだろうってことくらい、僕にもわかる。
 春江さんのことを可哀想だと思う。
 だけど、その一方で、僕にはなにも関係ないのに……とも思う。
 僕はいじめに加担したわけじゃない。春江さんの不登校とは、まったくの無関係だ。彼女は僕の名前すら知らない。それなのに、どうして八つ当たりされなきゃいけないんだろう。
 あぁ、僕だって本当は早く帰りたいのに。

「どうせ、早く帰りてーとか思ってるくせに」

 春江さんの声に、心臓が止まりそうになる。
 図星だった。

「そんなこと……思ってないよ」

 焦りながら否定したが、無駄だった。

「思ってるでしょ!」

 僕の体をナイフで切り刻むような、鋭い声。

「思ってない」

 再び否定したものの、説得力なんてまったくなくて。

「思ってる!」

 彼女の声はさらに鋭さを増していく。

「思ってないって!」

 思わず声を荒らげてしまって、でもその瞬間、

「嘘つき!」

 僕の心の深いところに、ぐさりと彼女の言葉が刺さる。
 それでもとどめを刺すように、春江さんの大きな声が廊下中に響いた。

「わたし、あなたみたいな人、大嫌い!」
「な――!」

 なんでそこまで言われなきゃならないんだよ!
 さすがにその言葉は、どうにかのみこんだ。
 冷静になれ、と自分に言い聞かせる。

 今まで友達になにを言われても、笑ってやり過ごしてきた。いちいち本気で怒るなんて、面倒くさくて、相手を白けさせるだけで、いいことなんてひとつもない。
 それなのに、僕はどうして――友達でもなんでもない初対面の女の子に、こんなにも心を乱されているんだろう。
 こんなの、らしくない。

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