悪役令嬢になりたくないので婚約を阻止しようとしましたが、いつのまにか王子様に溺愛されています。

えるる

文字の大きさ
5 / 44
第一章 <婚約阻止>

第4話 <悪役令嬢が無駄にハイスペックだった件>

しおりを挟む
 この世界では、初めて魔力が発現するときに何かしらの魔法が発動する。
 それは属性により異なるのだが、風属性の場合、カップが浮くだとか、吹き飛ばされるだとか、水属性なら水が動き出すとか、雫が出現するとか。その程度の可愛いもののはずだ。
 ……しかし、私はなぜか嵐を呼んでしまったのだ。

「なーんーでー!!」
「ローズ様、淑女としてあるまじき行動だと思いますよ」

 昼間だというのに部屋に帰った途端ベッドに飛び込み、枕に顔を埋めてジタバタしながら喚く主に、リリーは呆れかえった。

「だって! このままじゃあなにがなんでもアシュガ様の婚約者にされちゃうのよ……!!!」

 魔力が発現する時に発動する魔法の規模は、平たく言うと〝魔法の才能〟に直結する。
 〝魔法の才能〟とは、魔力量、魔力のコントロールのセンス、魔力の質……等を諸々考慮したものである。
 いや、そういえばなんで悪役令嬢のスペックがやたら高いの。美人だし、魔力もあるし、地位もある。こんなにハイスペックだったら、ヒロインを虐めていなければ幸せになれたというのに、何やってるんだローズ。
 ……まぁ、そういう完璧で性格が悪い女を蹴落として幸せになるっていうのがスカッとするのかもしれない。

「どうして、殿下と婚約したくないのですか」

 リリーがまるで不可解だ、とでも言いたいような表情をして聞く。
 とは言っても表情の変化はほとんどないが。
 アシュガ様と婚約したくないのは、もちろん、死にたくないっていうのが大きいけれど……

「王族になりたくないから……かしら?」

 まず、私は処刑されるから悪役令嬢になりたくない。つまり、アシュガ様と婚約はしたくない。
 でも、これが没落や国外追放なら悪役令嬢を演じ、アシュガ様と婚約しただろうか?
 答えは、否。
 前世でド平民だった私が、公爵令嬢ですら荷が重いと思うのに、その上王太子の婚約者になるなんて、ますます覚悟が決められない。

「……リリー、クッキーと紅茶もってきてちょうだい。」

 なんとなく気分が重くなってきた。こんな時は、クッキーと紅茶に限る。

「わかりました」

 そういえば、悪役令嬢のステータスはどうなっていたか。
 今考える限り、かなりハイスペックだと思う。
 魔法に関してはかなり上、見た目は、小動物のような可愛さは無いものの、かなりの美形だと思う。地位も充分、能力は……多分、大丈夫。少なくとも礼儀は欠けていないと思いたい。
 問題は性格にあるが、それはゲームの悪役令嬢の話。今の私は……まぁ、一般的?
 とにかく、ヒロインや攻略対象達に関わらなければ大丈夫。そう思いたい。

「ローズ様、お待たせ致しました」

 一方で、ヒロインのステータスは?
 魔法はたしか、全属性使えたはず。その中でも特に秀でているのが光属性。ただでさえ少ない光属性の派生である聖属性すら使いこなせていた。それ故に学園を卒業すると聖女と呼ばれることになる。

「……ローズ様」

 見た目はもちろん可愛らしい。なんとも庇護欲をそそる小動物系の見た目だったはずだ。たしか、銀髪に見る角度によって色が変わる、綺麗な瞳オパール・アイ
 地位は平民、どの攻略対象とも、この身分の壁が立ちはだかる。能力は……懸命に努力して全てを追い抜かすタイプ。これがまた健気。でも弱気になったりもして、攻略対象達の庇護欲をそそる。性格は言うまでもなく、健気に正義を貫いて、どんな困難にも負けず、明るい性格だ。つまり最高。

「…………ローズ様」

 ……うん、地位以外はヒロインが遥かに上回ってるね。
 じゃあ安心だ、周囲も彼女を認めるだろう。
 彼女とアシュガ様が結婚することが認められば、私はアシュガ様と結婚しろと言われなくて済む。
 他の攻略対象を狙う可能性もあるが、多分大丈夫だろう。他の攻略対象のルートに入った時点で、悪役令嬢はその攻略対象の婚約者になる。
 今回はアシュガ様との婚約になりそうだから、ヒロインはアシュガ様ルートに入るのだろう。
 ……ということは、ヒロインとアシュガ様は、出会いイベントは終えたということ?
 いつ?どこで?
 入学前の出会いイベントがあったのは覚えているけれど、内容が思い出せない……!

「ローズ様、クッキー、全部食べてしまっていいんですね」
「え? ダメよ!!」

 クッキーときいてようやく我に返ったローズに、リリーは冷めた目をする。

「三回もお呼びしました。……紅茶が冷めてしまいましたよ。淹れ直してきます」

 そう言って紅茶を取り上げたリリーに、ローズはふと思う。

 ローズは、何属性を持ってたっけ。
 幾つかの属性の魔法が使える場合、魔力が発現する時の魔法は、一番適性のある属性の魔法が発動するはずだ。つまり、私の場合は風属性。しかし、そもそも二つ以上の属性を使えるのかも、使えたとして何の属性が使えるのかも、まだわからない。

「あ、ちょっとだけ待って。」
「ローズ様、これは冷めて……」

 困惑するリリーに、ローズは言った。

「いいの、だからちょっと待ってちょうだい」

 カップに手を翳し、魔力を手に集中させる。
 ……何も感じない。むしろ、紅茶に手を突っ込んだほうが……
 悲鳴を上げるリリーを無視して、ローズは紅茶に魔法をかけようとした。
 しかし、一向に魔法がかかる気配はない。

「むぅ、水属性はないのか……」
「何をなさるのですかぁぁぁ!?」

 その時、扉がバーンと開かれた。

「どうしたっ!?」
「ちょ……おまっ、はやすぎんだろ……。ってかおい、お前、ノックくらいしろよっ!?」

 その向こうにはアシュガ様と、肩で息をしているリコラスが立っていた。
 どうやら、二人とも全力疾走してきたらしい。……それにしてはアシュガ様が息一つ乱していないのは何故かしら……。
 そんなことを考えながらも紅茶のカップに手を突っ込んだままのローズはアシュガを見る。

「あの、アシュガ様……?」
「ろ、ローズ、いや……侍女の悲鳴が……その、済まなかった、突然部屋に押し入って……」

 どうやら、今更女性の部屋に押し入ったことに気付いたらしい。ゆらゆらと視線を彷徨わせている。

「というか、本当にどうした? 何故カップに手を……?」

 心底訳がわからなそうに言うアシュガ様。

「えぇと、私は水属性の魔法も使えるのかなと思いまして」

 当然の事のように言うローズ。

「「ぶっ……」」

 リコラスとアシュガが同時に吹くのを見て、ローズは涙目になって言う。

「ちょっ……どうして笑うのですか!」
「いやぁ、まさかローズが紅茶に手を突っ込むとは思って無くて……ふはっ……」

 涙が出るほど笑っているアシュガにもう一言くらい文句を言ってやろうと思った時、リコラスが言った。

「いや、アシュ……殿下、もう時間ないですって。今度こそ帰りますよ。」
「あぁ。じゃ、ローズ、またね。」

 そう言った時、私の頭をすっと一撫でして去っていく。

「っ~!!」

 顔を真っ赤にして何も言えないでいるローズを一瞬だけ見て、アシュガはウインクをした。

 ――その後、ローズが枕に顔をボフっと埋めたことは、言うまでもない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約が白紙になりました。あとは自由に生きていきます~攻略対象たちの様子が何やらおかしいですが、悪役令嬢には無関係です~

Na20
恋愛
乙女ゲーム"この花束を君に"、通称『ハナキミ』の世界に転生してしまった。 しかも悪役令嬢に。 シナリオどおりヒロインをいじめて、断罪からのラスボス化なんてお断り! 私は自由に生きていきます。 ※この作品は以前投稿した『空気にされた青の令嬢は、自由を志す』を加筆・修正したものになります。以前の作品は投稿始め次第、取り下げ予定です。 ※改稿でき次第投稿するので、不定期更新になります。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

何やってんのヒロイン

ネコフク
恋愛
前世の記憶を持っている侯爵令嬢のマユリカは第二王子であるサリエルの婚約者。 自分が知ってる乙女ゲームの世界に転生しているときづいたのは幼少期。悪役令嬢だなーでもまあいっか、とのんきに過ごしつつヒロインを監視。 始めは何事もなかったのに学園に入る半年前から怪しくなってきて・・・ それに婚約者の王子がおかんにジョブチェンジ。めっちゃ甲斐甲斐しくお世話されてるんですけど。どうしてこうなった。 そんな中とうとうヒロインが入学する年に。 ・・・え、ヒロイン何してくれてんの? ※本編・番外編完結。小話待ち。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

処理中です...