悪役令嬢になりたくないので婚約を阻止しようとしましたが、いつのまにか王子様に溺愛されています。

えるる

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第一章 <婚約阻止>

第6話 <出会いイベント発生>

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「シラーは、大丈夫なのでしょうか……」
「大丈夫だ……大丈夫でございます。破落戸に負けるようなお方ではありません」

 その瞬間、頭に浮かんだのは、あるスチル。
 少し前に見た夢の内容が、今、はっきりとフラッシュバックする。
 破落戸に襲われた時、颯爽と駆け付けるアシュガ様。安心させるように背に回されたその腕の中にいたのは……銀髪にオパール・アイの少女、ヒロインだった。

「い……いやっ……!」
「ローズ嬢っ!?」

 気が付いたらアシュガが居るであろう方向に駆けだしていた。

「大丈夫か?」
「大丈夫ですっ……、助けていただいてありがとうございま……って、王子さま……!?」
「あ、あぁ、とにかく」
「ほんとにかっこいいですねっ!まるで、絵本の中にいる白馬の王子さまみたいです」

 アシュガのもとにたどり着いたローズ。
 そこで見たのは、頬を染めてアシュガに何かを言う、銀髪の少女。
 最悪で最も可能性のある予想は、やはり当たっていたようだ。アシュガの胸にいる彼女は、紛れもなくアシュガの運命の人ヒロインだった。

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

 なんだかよくわからない、銀髪の少女に接近されているこの状況。
 俺を王子とわかっているくせにここまで近付くその度胸は褒めてやりたいが、下手すると捕らえられても文句は言えない状況だぞ?
 ……というか、この変装を一発で見破られるのは少し悲しい。どう見ても庶民にしか見えないだろうに……。

「あ、あぁ、とにかく」

 離れてくれないか、と続けようとするけれど。

「ほんとにかっこいいですねっ!まるで、おとぎ話の白馬の王子さまみたいです」

 と、被せてくる。しかも、上目遣い付きだ。この目つきはもう見飽きた。……ローズがこの目をしていたら、いくらでも見ていられるが。
 ……まて、オパール・アイ? 平民の中にオパール・アイがいたとは。あとで父上に報告しなければ。
 そんなことを考えていると、焦ったような足音が聞こえてくる。
 そして現れたのは……

「ローズ!?」
「アシュ……シラー。…………お怪我はございませんか?」

 左手の人さし指を頬辺りまで持ってきて、くるりと1回転させている。
 ローズの癖なんだろう。今日は髪を結んでいるから、1回転させた指は空を切ったが。
 ゆらゆらと揺れている翡翠の目。
 ……本当に、ローズは可愛い。

「ローズ? リコラスと一緒に居てくれと……」

 ここまで言って、現状を思い出す。
 不安げに揺れている翡翠の瞳、その持ち主を不安にさせているのは……俺か?
 ……これはもしかして脈があると自惚れてもいいのか?

「違う、ローズ、その、は……」

 あーっ、上手く言えない!!

「とにかく、そろそろ離れてくれないか?私には婚約者がいるんだ」

 そう、オパール・アイの少女に言う。

「えっ?」

 きょとんとした目でこっちをみるオパールの瞳。
 ……いや、こっちが『えっ?』なんだが。

「アシュガ様……い、いいのです。その娘は可愛いのですし、私達は婚約していないのですし、その、あれ、私は何を……?」

 ……今、俺にこの娘を薦めた……?
 なぜこの状況でその思考に至ったのかはわからないけれど……なるほどね。これは、もっとちゃんと可愛がって理解らせてあげないとね?ローズ?

「アシュガ……じゃなくてシラー! ローズ嬢が……あぁ、よかった、ここにいらしたのですか、ローズ嬢。……ってアシュガ?お前なにやってんだ?」
「おい、ここ外だぞ、口調。あと呼び方。」
「あっ……し、失礼しました!」

 未だ離れようとしない少女から半ば無理矢理離れ、リコラスに言う。

「リコラス、この娘を街まで連れて行ってくれ。……あと、名前を尋ねておいてくれるか?」

 小声でそう問うと、リコラスはあからさまに驚いた。
 しかし、その事について何も言わずに、

「承知しました」

 と言って、少女を連れていった。
 去り際に少女が言った『……なん……展開……違…………』という微かな声は、アシュガには聞こえていなかった。

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

 狭い路地の中で、ローズは酷く混乱していた。
 まさかここで出会いイベントが起こるなんて思ってもみなかったし、出会いイベントの内容が若干違っているし、何より、アシュガを奪われそうになったことに対する恐怖を感じたことに混乱している。

 ――奪われたら殺されるから、そりゃ怖いよ。

 いや、私はまだ虐めてなどいない。アシュガ様がヒロインに恋をしても問題はないし、そもそも婚約する気もない……。
 ここまで考えたところで、私の胸はなぜかツキンと痛む。
 この感情は何……?

「ローズ、君が好きだ」
「ふぁっ!?」

 突然過ぎる。アシュガ様、心臓に悪いです!!

「え、えーと? 何故突然そんなことを……」
「ローズが、不安そうにしてたから。」

 アシュガ様はこの場を支配する者の目だ。主導権は自分にある、というオーラを放っている。

「ねぇ、ローズ」

 迫ってくるアシュガ様に、直感が離れろと警鐘を鳴らしている。
 その言葉に従って後退っていたローズだが、残念な事にここは狭い路地の中だった。
 ローズの抵抗も虚しく、あっという間に壁に追い詰められた。

「私はね」

 その時、バァン!と音を立てて、アシュガ様が壁に手を突いて、私を閉じ込める。
 ……痛くないのかな。なんて現実逃避は意味を成さないようだ。
 アシュガ様、怒ってる……?
 だめだ、目が。目が怖い。笑ってるけど笑ってない目だ!

「私は、今怒っているんだ」
「ご、ごめんなさい」
「うん、ローズ、謝らなくていいから……私の目を見て?」

 無理無理無理です怖いです超こわぁぁい!!
 タスケテ神様……

「目を見てくれないなら今すぐキスするよ?」
「ひぁっ!」

 それはダメ!ダメです!それこそ問答無用で婚約者にさせられてしまいます!!
 目を合わせるしか方法が無い……のか。
 あ~っ、顔が近いぃ……

「ローズ、いい子だね」
「おっ……同い年ですっ!」
「ふふっ、可愛い」
「っ~~!!」

 きっと、顔は真っ赤になっているに違いない。
 ……ゲーム期間が始まる前に心臓破裂で命を落としそうです。今世まで早死とか勘弁してー!

「ねぇ、ローズ、何故私が怒っているかわかる?」
「……ゎ、わかりません」
「それはね、ローズ、君があの娘を私に薦めたからだよ。私が君を好きだと、婚約して欲しいと言っているのに、示しているのに、君は私に他の娘を薦める。」

 その時、ほんの、ほんの一瞬だけ、アシュガ様は悲しそうに見えた。
 しかしすぐに笑みを浮かべる。

「ね、キスしていい?」
「ダメです!!」
「チッ……」

 今舌打ちした!?なんでそこで舌打ち!?

「シラー、本当にダメですからね。婚約者でもない女性にキスなんてしたら本当に」
「大丈夫、ローズの立場公爵令嬢なら問答無用で婚約者に据えておしまいだから」
「それが嫌だと言っているのですっっ!」

 悲しげに目を伏せられ、アシュガ様が「ローズは――」と何か言いかけた時、後ろから声が聞こえてくる。

「アシュ……殿……違う、シラー!」
「ああ、リコラス。私たちは無事だぞ」

 ここに私達がいることに安心したような表情を見せたリコラスだが、その表情は一瞬で凍りついた。

「……アシュガ、こんな所で無理矢理というのは……」
「いや、違う。」
「違います!」

 何を勘違いしたのか、(まぁ勘違いしても仕方ないけれど)リコラスが見当違いの発言をしたため私達は同時に否定の声をあげた。

「キスしようとしただけだ。」

 ……前言撤回。見当違いではありませんでした、リコラス正解でした!!

「……ローズ嬢、もう俺の手には負えません……申し訳ない……」

 今、アシュガ様の一番近くにいる人から、生贄に差し出されたような気がする。
 これは、気のせいだろうか。いや、気のせいであってほしい。
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