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第二章 <断罪阻止>
第1話 <入学と宣戦布告>
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ブロッサム学園の入学試験は、至って簡単で、単純。それぞれの机の上に置いてある水晶に手を翳すだけだ。
水晶が光れば合格、光らなければ不合格。
この水晶は、魔力の有無と属性を判断する魔道具である。
入学試験当日、私はアシュガ様と共に会場へ入っていった。
やはりというか、そこにはパーティー等で見知った顔が多かった。
「やはり貴族が多いのですね」
「ああ、魔力は遺伝することが多いからね。時々、突然変異で平民にも魔力が発現することもあるけれど、ほとんどが貴族だろうね。中でも王家やシユリ公爵家は」
「その辺はお妃教育と公爵家の教育で嫌というほど知っていますわ」
「……うん、そうだよね。」
ぐるりと見渡してみると、さらさらとした銀髪が目に入った。
「……ヒロイン……。」
「ん? ……あぁ、オパール・アイの娘だね。」
オパール・アイはやはり珍しいので、他の受験生達もチラチラとヒロインを見ている。
同じ教室なんて、ついてない。
いや……ゲーム補正かな。見た感じ、他の攻略対象も揃っているようだから。
この試験でヒロインはとんでもない成績を叩き出し、攻略対象からは認知され、悪役令嬢からは敵視されるのだ。
「やはり目立っているね」
「アシュガ様もかなり目立っていると思いますよ?」
「私のローズを見ないでほしい」
「ですから、主に目立っているのはアシュガ様かと思いますが……」
その時、扉がガラリと開いて、茶髪の可愛らしい女の人が入ってきた。
「本日教官を務めサセテイタダク、ラベンダー・ダリアデスワ。……おい、そこの二人、モタモタしてないでさっさと席に着け。そして水晶に手を翳せ。」
……人は見た目では判断してはいけないらしい。
物凄い棒読みかと思った瞬間口調が急変した。
「「すみません」」
二人して謝って、小さくなって席に着く。
この先生の登場で、教室は少しざわざわとしている。
「……聞こえなかったのか?それとも、言語が理解できないのか?手を、翳せ。」
ビシリと教卓を指差して、受験生達に指示する女の先生。
その声を聞いて、各々慌てて手を翳しだす。
ローズもドキドキしながら水晶に手を翳した……その時、物凄い光が教室を包む。
「……!?」
思わず目を瞑って、次に目を開けた時には教室がざわざわとしていた。
ローズを含め三つの水晶が特に煌々と光を放っている。
ローズとアシュガ、そしてヒロインの水晶だ。
「白い光……」
中でも異常なのは、もちろんヒロインの水晶だった。
真っ白な光、つまり全属性の凄まじい光が水晶から迸っている。
……試験官すらも目を見開いている。
一方ローズの水晶は、緑の光がとても強く、それに負けず劣らず強く黄色……つまり光属性を示す光が輝いていた。
「ローズ、光属性があるんだね」
光属性はとても珍しい。
特に派生形の聖属性は人を癒し、魔を払う能力を持つため、重宝される。
「そう、みたいですね。アシュガ様はどうですか?」
「私は見ての通り火と水が強いね。あとは風もある」
アシュガ様は瞳が紫で、風魔法を使っていたから、たしかにそうだろう。
「あの娘は、オパール・アイの中でも魔力が強いんだろうね。」
チラとヒロインを見て言うアシュガ様。
と、その時試験官が言った。
「水晶を置いて、帰ってクダサイ」
何かをそのまま読んでいるような棒読みで。
その声で受験生達は慌てて立ち上がる。
「私達は水晶が光ったから合格だね、ローズ。一緒に学園に通えるのが楽しみだよ」
ヒロインの水晶くらい輝く笑顔で言うアシュガ様に、反射的に婚約はしませんからねと言いそうになった私は悪くない。と思いたい。
輝く笑顔を向けられると口説かれている気分になってしまうのだ。
「ええ、私も楽しみですわ」
心の中の失態を隠すように、私は引き攣った笑みを浮かべて言った。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
入学式当日、馬車で学園に向かったアシュガ様と私。
できるだけヒロインから離れた位置に着席したのに、何故かヒロインがこちらにやってきた。
……面倒だ。
とにかく無視を決め込むことにする。
……それにしても、学園長の演説は長かった。
「新入生のみなさん、君たちは水晶に手を翳しただけで入学してきたわけだが、この学校では実力が全てとなる。従ってこの二年間で残るのは君達の半数というところだろう。残りの半数にならないよう、精々努力したまえ。それと、この学校では平民と貴族が一緒になって勉強する。しかし、この学園で重要なのは身分ではなく実力であるから――」
……あくびが出そうになった。
公爵令嬢の意地にかけて、絶対にそれはしないが。
ちらりとヒロインの様子を見てみると、何かに怯えているように見える。
……え、なにに?
「――君達が楽しい学園生活を送れることを切に願う。頑張り給え。」
拍手が起こった。
何に対しての拍手か一瞬わからなくなっていたローズだが、とりあえず拍手することにする。
「では、これからクラス分けに入ります。リボンとネクタイの色で分かれて下さい」
ぱっと胸元のリボンを見てみるが、真っ白だ。
周りを見ても全員真っ白である。
「……あぁ、これでどうでしょう?」
先生がニヤリと笑い、手を上に突き出した。
ふわりと青い光が舞って全員に降り掛かる。
すると、ネクタイとリボンが染まっていく。
「わぁ……」
綺麗な光景に、講堂中に感嘆のため息が漏れた。
素晴らしい演出だと思う。
「ローズもヴィリディなんだね」
アシュガ様が嬉しそうに言った。
「ヴィリディ?……あぁ、青色だから……」
私とアシュガ様のネクタイとリボンは、アシュガ様の髪の色みたいな色……王家の色に染まっていた。
ブロッサム学園には、三つのクラスがある。
ヴィリディ、ローゼア、ライティアの三つだ。
ヴィリディは魔法クラスの中で一番進んだクラスだ。
多分、水晶の光で魔力量が多い人が入る。色は青だ。
ローゼアは魔術クラスの中で、基礎的な生活に役立つ魔法、簡単な攻撃魔法等を学ぶ所だ。色はピンク。
魔力量があまり多くない人が入るらしい。
ライティアは魔法騎士を目指す者のクラス。
攻撃魔法と剣術を同時に学ぶクラスである。色は緑。
ヒロインはもちろんヴィリディ。
攻略対象では、アシュガ様、レン様がヴィリディ、リーゴがライティア、フォルがローゼアだったはずだ。
「ローズ、毎朝寮のホールで待ってるから一緒に登校しようね」
好きな人ににっこりと笑われて、誰が拒否できようか。
「はい!」
そう返事をしたのだが、その瞬間アシュガ様は固まった。
「……ローズが可愛すぎて辛い」
「どうしたのですか突然!?」
最近のアシュガ様はやはりおかしい。
いや、もともとこんな感じだった気もする。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
私達が入学式をしている最中に、寮への引っ越しは済んでいるらしい。
ヴィリディの寮へアシュガ様と向かっていると、何故かヒロインが私の横で倒れた。
「痛っ……」
「あら、貴女、大丈夫?」
ヒロインといえど、私は隣で人が転んで心配しないような人ではない。
そんな事をするのは悪役令嬢くらいしかいな……って、私は悪役令嬢だった。
「だ、大丈夫って……あなたが転ばせてきたんじゃないんですか!?」
……ん?
「私ではないけれど……」
「ひどいですっ……式の時もずっと睨んできてっ……どうしてそんなことするんですか……?」
わぁ、なぜそんなことをするんですかと、私が一番訊きたい。
いや、訊かなくてもいい。理由は明白、これはイベントだ。
自分より目立った平民への、悪役令嬢からの宣戦布告のイベント。しかし、今回の意味はヒロインから私への宣戦布告。
……なんでもいいけど、起こってから思い出すとか勘弁してほしい。
「いえ、ですからしていませ」
「ローズはそんなことをする人じゃないよ。何かの間違いじゃないかい?」
とっても穏やかに言うアシュガ様。
「っ……そう、ですね。何かの間違いかもしれません……」
しかし、これは認めていないのだ。
フラワー・キスでは、ローズがアシュガ様に見えないようにヒロインを脅し、ヒロインは泣き寝入りする。
だが、この時のヒロインの目線はローズに向いていて、なおかつ怯えた表情をするから、アシュガ様がローズへの不信感を持つ……というイベント。
「ローズ、気にしなくていいよ。さぁ行こう」
砂糖を溶かしたような甘い笑みを浮かべるアシュガ様に、顔が真っ赤になった気がする。
とにかく、ヒロインはイベントを起こそうとしていることはわかった。
これから波乱の学園生活が起こる事を予感して、ローズは気合いを入れ直したのだった。
「っ……悪役令嬢のくせに……絶対、許さない」
敵意に満ちたその声は、辺りの喧騒に紛れて誰にも聞こえていなかった。
水晶が光れば合格、光らなければ不合格。
この水晶は、魔力の有無と属性を判断する魔道具である。
入学試験当日、私はアシュガ様と共に会場へ入っていった。
やはりというか、そこにはパーティー等で見知った顔が多かった。
「やはり貴族が多いのですね」
「ああ、魔力は遺伝することが多いからね。時々、突然変異で平民にも魔力が発現することもあるけれど、ほとんどが貴族だろうね。中でも王家やシユリ公爵家は」
「その辺はお妃教育と公爵家の教育で嫌というほど知っていますわ」
「……うん、そうだよね。」
ぐるりと見渡してみると、さらさらとした銀髪が目に入った。
「……ヒロイン……。」
「ん? ……あぁ、オパール・アイの娘だね。」
オパール・アイはやはり珍しいので、他の受験生達もチラチラとヒロインを見ている。
同じ教室なんて、ついてない。
いや……ゲーム補正かな。見た感じ、他の攻略対象も揃っているようだから。
この試験でヒロインはとんでもない成績を叩き出し、攻略対象からは認知され、悪役令嬢からは敵視されるのだ。
「やはり目立っているね」
「アシュガ様もかなり目立っていると思いますよ?」
「私のローズを見ないでほしい」
「ですから、主に目立っているのはアシュガ様かと思いますが……」
その時、扉がガラリと開いて、茶髪の可愛らしい女の人が入ってきた。
「本日教官を務めサセテイタダク、ラベンダー・ダリアデスワ。……おい、そこの二人、モタモタしてないでさっさと席に着け。そして水晶に手を翳せ。」
……人は見た目では判断してはいけないらしい。
物凄い棒読みかと思った瞬間口調が急変した。
「「すみません」」
二人して謝って、小さくなって席に着く。
この先生の登場で、教室は少しざわざわとしている。
「……聞こえなかったのか?それとも、言語が理解できないのか?手を、翳せ。」
ビシリと教卓を指差して、受験生達に指示する女の先生。
その声を聞いて、各々慌てて手を翳しだす。
ローズもドキドキしながら水晶に手を翳した……その時、物凄い光が教室を包む。
「……!?」
思わず目を瞑って、次に目を開けた時には教室がざわざわとしていた。
ローズを含め三つの水晶が特に煌々と光を放っている。
ローズとアシュガ、そしてヒロインの水晶だ。
「白い光……」
中でも異常なのは、もちろんヒロインの水晶だった。
真っ白な光、つまり全属性の凄まじい光が水晶から迸っている。
……試験官すらも目を見開いている。
一方ローズの水晶は、緑の光がとても強く、それに負けず劣らず強く黄色……つまり光属性を示す光が輝いていた。
「ローズ、光属性があるんだね」
光属性はとても珍しい。
特に派生形の聖属性は人を癒し、魔を払う能力を持つため、重宝される。
「そう、みたいですね。アシュガ様はどうですか?」
「私は見ての通り火と水が強いね。あとは風もある」
アシュガ様は瞳が紫で、風魔法を使っていたから、たしかにそうだろう。
「あの娘は、オパール・アイの中でも魔力が強いんだろうね。」
チラとヒロインを見て言うアシュガ様。
と、その時試験官が言った。
「水晶を置いて、帰ってクダサイ」
何かをそのまま読んでいるような棒読みで。
その声で受験生達は慌てて立ち上がる。
「私達は水晶が光ったから合格だね、ローズ。一緒に学園に通えるのが楽しみだよ」
ヒロインの水晶くらい輝く笑顔で言うアシュガ様に、反射的に婚約はしませんからねと言いそうになった私は悪くない。と思いたい。
輝く笑顔を向けられると口説かれている気分になってしまうのだ。
「ええ、私も楽しみですわ」
心の中の失態を隠すように、私は引き攣った笑みを浮かべて言った。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
入学式当日、馬車で学園に向かったアシュガ様と私。
できるだけヒロインから離れた位置に着席したのに、何故かヒロインがこちらにやってきた。
……面倒だ。
とにかく無視を決め込むことにする。
……それにしても、学園長の演説は長かった。
「新入生のみなさん、君たちは水晶に手を翳しただけで入学してきたわけだが、この学校では実力が全てとなる。従ってこの二年間で残るのは君達の半数というところだろう。残りの半数にならないよう、精々努力したまえ。それと、この学校では平民と貴族が一緒になって勉強する。しかし、この学園で重要なのは身分ではなく実力であるから――」
……あくびが出そうになった。
公爵令嬢の意地にかけて、絶対にそれはしないが。
ちらりとヒロインの様子を見てみると、何かに怯えているように見える。
……え、なにに?
「――君達が楽しい学園生活を送れることを切に願う。頑張り給え。」
拍手が起こった。
何に対しての拍手か一瞬わからなくなっていたローズだが、とりあえず拍手することにする。
「では、これからクラス分けに入ります。リボンとネクタイの色で分かれて下さい」
ぱっと胸元のリボンを見てみるが、真っ白だ。
周りを見ても全員真っ白である。
「……あぁ、これでどうでしょう?」
先生がニヤリと笑い、手を上に突き出した。
ふわりと青い光が舞って全員に降り掛かる。
すると、ネクタイとリボンが染まっていく。
「わぁ……」
綺麗な光景に、講堂中に感嘆のため息が漏れた。
素晴らしい演出だと思う。
「ローズもヴィリディなんだね」
アシュガ様が嬉しそうに言った。
「ヴィリディ?……あぁ、青色だから……」
私とアシュガ様のネクタイとリボンは、アシュガ様の髪の色みたいな色……王家の色に染まっていた。
ブロッサム学園には、三つのクラスがある。
ヴィリディ、ローゼア、ライティアの三つだ。
ヴィリディは魔法クラスの中で一番進んだクラスだ。
多分、水晶の光で魔力量が多い人が入る。色は青だ。
ローゼアは魔術クラスの中で、基礎的な生活に役立つ魔法、簡単な攻撃魔法等を学ぶ所だ。色はピンク。
魔力量があまり多くない人が入るらしい。
ライティアは魔法騎士を目指す者のクラス。
攻撃魔法と剣術を同時に学ぶクラスである。色は緑。
ヒロインはもちろんヴィリディ。
攻略対象では、アシュガ様、レン様がヴィリディ、リーゴがライティア、フォルがローゼアだったはずだ。
「ローズ、毎朝寮のホールで待ってるから一緒に登校しようね」
好きな人ににっこりと笑われて、誰が拒否できようか。
「はい!」
そう返事をしたのだが、その瞬間アシュガ様は固まった。
「……ローズが可愛すぎて辛い」
「どうしたのですか突然!?」
最近のアシュガ様はやはりおかしい。
いや、もともとこんな感じだった気もする。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
私達が入学式をしている最中に、寮への引っ越しは済んでいるらしい。
ヴィリディの寮へアシュガ様と向かっていると、何故かヒロインが私の横で倒れた。
「痛っ……」
「あら、貴女、大丈夫?」
ヒロインといえど、私は隣で人が転んで心配しないような人ではない。
そんな事をするのは悪役令嬢くらいしかいな……って、私は悪役令嬢だった。
「だ、大丈夫って……あなたが転ばせてきたんじゃないんですか!?」
……ん?
「私ではないけれど……」
「ひどいですっ……式の時もずっと睨んできてっ……どうしてそんなことするんですか……?」
わぁ、なぜそんなことをするんですかと、私が一番訊きたい。
いや、訊かなくてもいい。理由は明白、これはイベントだ。
自分より目立った平民への、悪役令嬢からの宣戦布告のイベント。しかし、今回の意味はヒロインから私への宣戦布告。
……なんでもいいけど、起こってから思い出すとか勘弁してほしい。
「いえ、ですからしていませ」
「ローズはそんなことをする人じゃないよ。何かの間違いじゃないかい?」
とっても穏やかに言うアシュガ様。
「っ……そう、ですね。何かの間違いかもしれません……」
しかし、これは認めていないのだ。
フラワー・キスでは、ローズがアシュガ様に見えないようにヒロインを脅し、ヒロインは泣き寝入りする。
だが、この時のヒロインの目線はローズに向いていて、なおかつ怯えた表情をするから、アシュガ様がローズへの不信感を持つ……というイベント。
「ローズ、気にしなくていいよ。さぁ行こう」
砂糖を溶かしたような甘い笑みを浮かべるアシュガ様に、顔が真っ赤になった気がする。
とにかく、ヒロインはイベントを起こそうとしていることはわかった。
これから波乱の学園生活が起こる事を予感して、ローズは気合いを入れ直したのだった。
「っ……悪役令嬢のくせに……絶対、許さない」
敵意に満ちたその声は、辺りの喧騒に紛れて誰にも聞こえていなかった。
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