悪役令嬢になりたくないので婚約を阻止しようとしましたが、いつのまにか王子様に溺愛されています。

えるる

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第二章 <断罪阻止>

第6話 <またもやデートは波乱の予感>

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 街へと繰り出したローズとアシュガ。
 主に貴族達が買い物をする街なので、そこかしこに白銀に王家の色の鎧を着た騎士が立っており、治安はとても良い。
 その為、今日は護衛はいない。

「行きたい店があったすぐに言うんだよ。あ、でもその前に行きたい所があるんだ。」
「はい、アシュガ様」

 そして辿り着いた店は、看板に『アザレア魔道具店』と書かれた店だった。

 ……正直、デートに魔道具の店ってどうなのか、と思うが、魔道具には興味がある。
 重厚な扉を開くと、アシュガ様がいつものキラキラオーラを纏って言った。

「好きな物を選んで。遠慮は要らないよ」

 周りを見渡すと、ここは魔道具の店というのりはアクセサリーのお店に見える。
 宝石のついた指輪や、可愛らしい小物が沢山飾られているのだ。
 それに、それらは見るからにとっても良いお値段の商品ばかり。

「あの、でもアシュガ様」
「可愛い婚約者にプレゼントの一つや二つ、あげちゃダメかな?あげるのがダメなら……」

 真っ黒な笑みを浮かべるアシュガ様。
 こ、これは、確実にまずい!!

「いえっ!アシュガ様、喜んでいただきますっ」
「なんだ、残念」

 そこ、本気で残念そうにしない!
 しかしアシュガ様はすぐに残念そうな雰囲気を消し、何かに目を付けたようだ。

「ローズ、これなんてどうかな?」

 そう言って差し出してきたのは、正に王家の色そのものの宝石があしらわれた可愛らしい花の髪飾り。

「この宝石は……」

 どこかでみたことがある気がするのだが、思い出せない。
 少なくとも普段見る物とは明らかに違う。魔力の気配がするから多分魔石だし、きっととんでもなく高いのだろう。

「あぁ、これ?コーンフラワーブルーサファイアと言う魔石の一種だね。ヤグルマの名産だよ。」
「あぁっ、そうでした。すっかり頭から抜け落ちてしまっていましたわ。」

 そうだ、この宝石はお妃教育で学んだ、隣国であるヤグルマ皇国の名産の一種だ。
 そしてこの宝石は産出量が少なく、加工も難しい。おまけに、魔力を付与できる魔石の中でもトップクラスの石ということもあり、物凄く価値が高い。
 それを見ていると、店員らしきの女の人がこちらにやってきた。

「アシュガ殿下、そちらの品は一点物で、とても貴重となっておりますのよ。魔力効率上昇、6回限りですが自動魔法防御壁展開、ダメージ軽減の三つの効果が付与されており、緊急時にも安心できますの。とてもおすすめの一品ですわ。」
「なるほどね、これ、貰うよ」
「え、ちょ、アシュガ様!?」

 いやいやいやいや、恐ろしいくらい高いでしょうこれ!
 そんなもの貰えない!てか怖くて付けてられない!

「ん、私がローズにプレゼントしたいんだ。だからいいよね?」
「いやそういう問題なんですか!?」
「うん。……さっき、いいって言ってたよね?」
「……はい。ソウデシタネ。」

 片言になってしまったのは仕方ないと思う。

「じゃ、これいただくよ」
「はい、ではこちらへ!」

 そうして、恐ろしい値段の髪飾りは大量の金貨と引き換えに(店員さんはほくほく顔だ)アシュガ様の手元に渡った。

「今、私がつけていい?」
「はい。ありがとうございます!」
「いいんだ、可愛いローズが見られるから」
「そっ……そういうこと言わないで下さい」
「いいでしょう?私達は婚約者同士なんだから」

 さらさらと髪が触られ、なんだかくすぐったくてぞわぞわする。
 はぁ、至近距離にアシュガ様の顔がある……。
 何度見ても、ため息をつけるほどの美形だ。

「はい、どうぞ。」

 鏡を見ると、ドレスとマッチしてよく似合っている。

「わぁ……ありがとうございます」
「とっても似合っているよ、可愛い。肌身離さず付けていて?」

 なんて言いながら微笑むのだから、本気で恥ずかしい。
 多分顔が真っ赤だ。
 無意識に左手が髪へ伸びている。

 ――やっぱり、最近のアシュガ様は甘すぎる。

 いや、いつでも甘いからあまり変わらないか。

「さ、そろそろ行こうか」
「は、はいっ!」

 そう言って、アシュガ様と私は店を出た。

「少し暑くなってきたね。」

 ヘルビアナ王国の夏はカラリと乾燥していて、日陰に入ればあまり暑くはない。
 春と夏の境目である今の季節も、日本に居た頃と比べればそれほど暑いわけではないのだが、暑いものは暑い。

「そうですね」
「ちょうど良い時間だから、昼食にいこうか。」
「はい、わかりました」

 そうして着いたのは、平民も使う通り沿いにある、サンドイッチの店。
 平民にとっては高級な部類に入るのだろうが、ちらほらと平民らしき人もいる。

「っ……!」

 この店を見た瞬間、ある映像がフラッシュバックする。
 仲睦まじげに話す悪役令嬢とアシュガ様、それを見てショックを受けて、追い打ちをかけるように、陰でネチネチとバカにされる
 実際には仲睦まじいのではなく、悪役令嬢が一方的に話しかけているだけなのだが。

「どうかしたの?」

 アシュガ様が心配そうに私を見つめる。

「……いえ、なんでもありません」

 しかし、もう店に入った後だ。
 腹をくくるしかない。

 まったく、なぜこういつも引き返せなくなった時に重要な事をを思い出すのか……。

「どれがいい?」
「あ……えーと、ポテトサラダのサンドイッチとオレンジジュースがいいですわ」
「ん、わかった。」

 その間のアシュガ様とのおしゃべりは全く上の空で、ほとんど記憶にない。

「ローズ?」
「っはい!なんでしょうか、アシュガ様?」
「サンドイッチ、きたよ」

 テーブルの上には2種類のサンドイッチと、オレンジジュース、グラスに入った紅茶が載っていた。

「わぁ、美味しそうですね」

 その時、扉が開く音がした。
 一瞬、ヒロインが来たかと思ったが、入ってきたのは、休憩中なのだろうか、騎士の制服を着た男だった。
 ……そもそも、このイベントはヒロインが店にいるときに、悪役令嬢とアシュガ様が来るというものではなかったか。

 もしかして、イベントは発生していない?
 こんなイレギュラー、初めてだ。

「いただこうか」
「はい、いただきます。」
「あ、ちょっと待って。水よ、我が意に応えよ。冷却魔法アクア・フリーグス

 紫色の光がオレンジジュースと紅茶を包む。

「わ、ありがとうございます!……あ、毒味致しますね。」
「あぁそっか、ローズがやってくれるんだ。間接キス」
「は、恥ずかしいです!」

 といいつつも、ここでは私がやる必要がある。
 アシュガ様の卵とベーコンのサンドイッチの端をかじり、アイスティーと化した紅茶を一口飲んだ。

「ありがとう」
「はい!」

 そして、二人でサンドイッチを食べる。
 ポテトサラダのサンドイッチと、アシュガ様の魔法によってとても冷えているオレンジジュース。
 どちらもとても美味しい。
 日本に居た頃を思い出して、もぐもぐと頬張っていると、アシュガ様がニヤニヤと笑っていた。

「な、なんですか?」
「ローズが美味しそうに食べるなぁと思って。普段はそんな風に食べないから、新鮮だったよ」
「っ!ごめんなさい、アシュガ様の婚約者として相応しい振る舞いを……」
「んー、郷には入っては郷に従え、って言うからね。良いんじゃないかな?」

 そんなアシュガ様も、素手でサンドイッチを掴んで普通に食べている。
 元々、がっつり平民だった私にとっては違和感は無いに等しいが、王族のアシュガ様が素手で食べるって躊躇しないのかしら……。

 サンドイッチを完食すると、アシュガ様は、

「少し席を外すね」

 と言って席を外した。

 ――うん、やっぱりイベントと同じだ。

 ここで悪役令嬢はヒロインに、この平民上がりが居るなんて、アシュガ様は穢れた空気を吸ってしまうわ。だのなんだのと、ネチネチ嫌味を吐くのだ。
 しかし、ヒロインは来ていない。
 今までの行動からすると絶対に来ると思ったのに……季節の変わり目だから風邪でも引いたのかしら。

 なんて暢気に考えていたその時、首筋にヒヤリとした何かが押し当てられる。同時に、低い男の声がした。

「今すぐ切られたくなければ、俺に従え」

 ――首筋の冷たいものは、ナイフだ。
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