悪役令嬢になりたくないので婚約を阻止しようとしましたが、いつのまにか王子様に溺愛されています。

えるる

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第二章 <断罪阻止>

第12話 <悪夢>

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 一通りの仕事が終わり、俺は椅子の背もたれに思いっきりもたれて、ぐぅっと伸びた。

「リコラス、なんか俺忙しすぎないか?」

 王太子である俺に回ってくる仕事は、学生という身分もあって王や宰相よりはかなり少ない。
 しかし、学園生活に政務、それにローズの事件も狙っている俺にとっては多い。
 加えて生徒会長に選ばれ、もうすぐ学園祭も控えている。

「王になったらもっと忙しいだろ」
「……とりあえず、ローズの件についてはお前に任せたぞ。」
「あぁ、もうあと二日もすれば片付く」

 俺の愛するローズを狙う輩がいる。
 しかし、それにしてはおかしい気もする。
 ……まぁ、気のせいだろう。

「ローズに会いに行きたい」
「さっきまで会ってただろ。膝枕で気持ち良さそうに寝てたじゃねえか」
「寝るつもりはなかった。知らない間に眠ってたんだ」

 癒しを求めてローズに膝枕を要求すると、顔を真っ赤にしながら膝を貸してくれた。
 可愛かったなぁ……。

「アシュガ、その顔他でするなよ」

 ……俺はどんな顔をしていたのか。
 想像もしたくない。

「わかってる」

 俺は、緩んでいたであろう顔を引き締めた。

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

「学園祭?」
「ええっ、そうよ! ローズはアシュガ殿下とデートするのでしょう?」

 夢見る乙女のような表情。
 今、私の部屋にいて学園祭の話をしているのはアザミである。
 まだアシュガ様からの外出禁止令が解けていないので、アザミを部屋に呼んたのだ。

「そ、そうね……多分、そうなると思うけれど」
「ふふふっ、ロマンチック! 終わったらお話聞かせていただけますわよね?」

 にーっこりと笑って言うアザミ。断わらせる気が無いんじゃないかと思う。

「そんな話せるようなことなんてないわよ!?」

 ……多分。

「ええ~、お店の食べ物をあーんしてもらったり、手を繋いで歩いたり、人気のない所でキスしたり……アシュガ殿下、やりそうですけどね」

 あ、うん、絶対やる。

「そ、そんなことはありません!」

 左の人差し指に髪をくるりと巻きつけながら否定するローズ。
 アザミはチラとローズの左手を見てから、意味深に微笑んだ。

「ないの、そうなの……」
「な、ないわ。」

 居心地が悪くなって、冷めてしまった紅茶に口をつける。

「そういえば、学園祭の前は生徒会の皆様も大変らしいですね」
「えぇ、運営が生徒会だもの。私も頑張らないといけないわ」
「ローズなら大丈夫ですわ!応援してるわよ」
「ありがとう、アザミ」

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

「っ! 学園祭のイベントの対策、忘れてた……」

 アザミが帰って暫く。
 明日の予習と今日の復習が終わり、ベッドでさぁもう寝よう、とした瞬間。
 最近、アシュガ様やアザミとばかり居るから忘れかけていたが、ここは乙女ゲームの世界で私は悪役令嬢なのだ。
 ヒロインには動きが無い。今の時期はゲームでは何をしていた?
 思い出せない。頭がふわふわして、具体的なことがなにも考えられない……。

 そのまま、ローズはパタリと眠ってしまった。

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

『――ーズ!……いや、ローズ・ネーション!』
『んぅ……?』

 目を薄っすらと開けると、目の前にはズラリと並んだイケメン達と、一人の可憐な少女。
 その中には、よく見知った顔もあって。

『あ……アシュガ様?』
『馴れ馴れしく呼ぶな!』

 なに?どうなっているの?

『え……?アシュガ……アシュガ殿下……?なんで、断罪イベントが起きてるの……?私は、ヒロインを虐めたりしてないのに……』

 自分で言って、こんな他人行儀な呼び方と混乱で泣きそうになる。

『アナベルを虐め、更には殺そうとした証拠はここに残っている。聖女の殺害未遂、それは許されるものではない。よって貴様を処刑する』

 騎士が私の腕を捻じりあげる。
 嫌だ、やめて、離して……

「――大丈夫だよ、ローズ。君が心配することは何もない。だから、ほら、泣き止んで……」

 困ったように目尻を下げて私の涙を拭き取ってくれるのは、さっきまで離れた場所にいたはずのアシュガ様だ。

「アシュガ様……よかった、私、怖かったのです、アシュガ様、アシュガ様……」

 気がつけば、自分の寝室にいて、アシュガ様の手を握っている。

「っアシュガ様!?」
「よかった、随分魘されていたよ。本当に心配した……」

 というか、なんでアシュガ様がここに?

「えっ……と、今は何時ですの?」
「もう夕方だよ。ローズは酷い熱をだしてずっと目を覚ましていなかったんだ。授業が終わって飛んできた。体調は大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」

 心配させまいとにっこり笑って言う。

「そうか、じゃあ私はもう帰るから、大人しく寝ているんだよ、ローズ。またね」
「はい、さようなら、アシュガ様。」

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

 アシュガは、自分の部屋に戻って考え事をしていた。
 ローズの寝言についてだ。

『ア……ガ……シュガ殿下……?断罪……べ…ト…起きてるの……?私…、ヒロイン…虐め…り…てないのに……』

 微かな声だが、『アシュガ殿下』と呼んでいた。
 おかしい、その直後も直前も『アシュガ様』と呼んでいたのに、だ。
 それに、『断罪』『虐め』『ヒロイン』と、よくわからない事を言う。
 たかが夢、されど夢。それに、違和感を感じていたのだ。イージュ男爵令嬢のことになると、ローズは冷静さを欠く。

「ローズ、君は何に怯えている……?」

 今まで、幾度となく考えた。
 答えは出ない。いくら愛を囁いても、彼女の不安は消えてくれない。
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