悪役令嬢になりたくないので婚約を阻止しようとしましたが、いつのまにか王子様に溺愛されています。

えるる

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第二章 <断罪阻止>

第13話 <温もり>

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 悪夢を見た次の日、アシュガ様とリリーが結託して私はベッドの中に押し込められていた。

「ローズ、まだ休んでて。」
「そうですよ、ローズ様はベッドの中で大人しくしてて下さい」

 ……もう、登校してもいいと思うのだけれど……

「ええっ、でももう熱は下がって」
「「いいから休む!!」」
「……はい。」

 言うだけ無駄なパターンだ。
 というわけでこの日は、一日何も無かった。
 ひたすらにベッドの中で暇を持て余していた。

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

 その次の日、漸くお許しが出たので制服に着替え、アシュガ様と共に登校する。

「ローズ、本当に大丈夫?体調が悪くなったらすぐに言うんだよ。わかったね?」
「わかりましたから、アシュガ様、私は大丈夫ですわよ。」

 かれこれ三回目のやりとりだ。
 アシュガ様が過保護スキルを発動させている……。

 チラと視界に映る銀髪。
 反射的にそちらを見ると、横にいるのは……レン様?
 ゲームと違って、アシュガ様ルートでもレン様とハッピーエンドを迎えられるのかしら。
 それとも、断罪イベントのための好感度上げ……?

「――い、ローズ?」
「……っ、なんでしょうか、アシュガ様。」
「大丈夫?やっぱり休んだほうが……」
「ただの考え事ですわ!!」

 きっと大丈夫、断罪イベントなんて起こらない。
 だってほら、アシュガ様が悪役令嬢をこんなに心配しているわけがないもの。

「ローズ?」
「いえ、アシュガ様と一緒に居られるのは幸せだと思っていただけです」
「……ローズ、やっぱり休もう。俺の部屋で。」

 真顔。アシュガ様、目が怖い。
 あと一人称変わってるよ!!

「……だ、だめです。」

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

「ローズ!」
「アザミ!」

 ここ最近、アザミと会わない日はなかったので嬉しく思う。

「風邪ひいてたんでしょう?もう大丈夫なの?」
「ええ、一日熱が出たけれどすぐに良くなったわ。私がいない間、学校はどうだった?」

 その瞬間、アザミの顔が一瞬引きつったように見えた。

「い、いいえ、特に何も起こってないわ。授業では――」

 そうして、二日間の授業の様子を話してくれたのだった。

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

 放課後。
 あまりよく知らないご令嬢に、生徒会室に呼ばれていると伝言が来た。
 アシュガ様も色々忙しいみたいなので、一足先に生徒会室に居るようだから、一人で生徒会室に向かう。
 人気のない廊下。そう言えば一人になるのは久しぶりだな……なんて考えていた時、声が聞こえた。

「ローズ・ネーション」

 反射的に振り向いた先にいたのは、レン様……レンデュラ・シユリだった。
 その後ろにはさらさらとした銀の髪が見えている。
 なんだろう……今は、アシュガ様もいないのに……。嫌な予感がする。

「……? レンデュラ・シユリ様、何か御用ですの?」
「……彼女に謝ってくれ」
 敵意をむき出しにして、それでも静かな声。
 ……え? なんで?

「どうして私が謝らなくてはなりませんの……?」

 心底訳がわからなくて、純粋にその声の持ち主にきく。

「決まっているだろう、君がアナベルを虐めるように指示したんだから謝るべきだよ。」

 静かな怒りをぶつけるレン様は、ヒロインを背に私を見ていた。
 これは、レン様のイベントだ。
 本命はアシュガ様なのだろうが、このゲームでは他のキャラの好感度も上げなければならない。しかし、『あれ? アシュガ様ルートを選んだけど、他の人とのエンドも行けるんじゃない?』なんて考えて他の人の好感度を上げると、ノーマルエンドにしか辿り着かないのだが……

「嫌がらせ……? 私は、そんな指示はしていませんわ。」
「証言があるんだよ。君が学園に来ていない間、彼女に嫌がらせをした者が君からの指示だと言ったんだ。」

 そう、このイベントは……

『っ、やめてっ!!』
『平民のくせに、ローズ様に歯向かうなんて!』
『そうよそうよ!』

 アナベルを池に突き落とし、彼女達は嘲笑う。

『ふふふっ、酷い様ね!』
『平民は汚い池がお似合いよ!』

「聞いているのか? ローズ・ネーション。」
「っ!」
「アナベルに謝れと言っているんだよ。」
「ですから、私は謝る理由が無いと言っているのです。」
「だから――」

 その時、酷く冷たい声が間に割って入る。

「レン? 私のローズ・・・・・に何をしているんだい?」

 アシュガ様だ。
 知らぬ間に入っていた肩の力がふっと抜けた。

「アシュガ、何故ここに――」
「アシュガさまぁっ!」

 レン様が何か言いかけた時、レン様の背から銀髪にオパール・アイの少女……ヒロイン、アナベルが飛び出してきた。

「違います、アシュガさま! そこのローズ様が指示をして、私が虐められたんです!レン様を責めないで下さい、ただ罪を償ってもらおうと――」
「そうだよ、その女が全て悪いんだ、アシュガ」

 レン様が私を指差す。

「その女? 私の婚約者を、その女呼ばわりするのか?」

 更に冷気が増した声で言うアシュガ様。
 公爵家の嫡男であるレン様は、そもそも王太子のアシュガ様に逆らうことはできないが、それを除いても今のアシュガ様に逆らうのは無理だろう。

「なんの言いがかりを付けているのか知らないが、これ以上私のローズにおかしなことを言うな」

 そう言って私の肩を抱いて出口に歩き出そうとした時、焦ったようなレン様の声が後ろから飛んでくる。

「で、でも、アナベルを虐めたそいつが悪いだろう!?」

 その瞬間、アシュガ様は振り返って、そのアメシストの目に冷たく、静かな魔力を乗せてレン様を睨みつけた。

「レン、これ以上馬鹿げた事は言わないでくれるかな。」

 レン様は、その若葉の瞳に明らかな怯えを浮かべて、アナベルと共に立ち去った。
 アシュガ様が助けてくれるなんて展開、ゲームにはなかったと断言してもいい。
 この世界の運命はちゃんと変わっている……?

「ローズ」

 そう言ってアシュガ様はぎゅっと私を抱きしめた。
 暖かい。アシュガ様の体温も、冷えていた心も。

「ごめんね、私が一人にしたばかりに怖い思いをさせて……」

 その時、初めて自分が震えていたことを自覚する。

「いえ、大丈夫、です」
「大丈夫じゃないでしょう? 震えている。可哀想に……」

 ほんのちょっとだけ、甘えてもいいだろうか。
 そんな気持ちで、私はしばらくの間黙ってアシュガ様の体温を感じていた。
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