悪役令嬢になりたくないので婚約を阻止しようとしましたが、いつのまにか王子様に溺愛されています。

えるる

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第二章 <断罪阻止>

第15話 <筆記試験>

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 今日はとうとう試験当日である。

 年に3回ある試験は、成績を決める上でとても大事になる。この試験で一定の成績をとれなければ進級、卒業はできず、場合によっては退学となる。

 ローズは公爵令嬢として、また王太子の婚約者として、相応しい成績をとらなければならない。

「私も頑張らなくちゃ。ローズに抜かされないようにね」
「まさか、私がアシュガ様を抜かすなんて。ありませんわ」
「それはどうかな?」

 この試験で重要になるのは、筆記試験ではない。
 実技試験である。
 実技試験は魔法の実技だが、男子は希望すれば剣技の試験も受けることができるらしい。ただし、ライティアは男女共に剣技試験は必須だ。

 もちろん、魔法を使う上で、また社会に出る上で必要な知識を身に着けないといけないので筆記試験もあるが、そこまで難しいものではないと聞いている。

「けれど、1位は私達では無理だろうね。」

 頭の中に過ぎる銀髪の少女。
 アシュガ様の頭にも同じ人物が浮かんでいるに違いない。

「そう、ですわね……」

 ゲームでの試験の結果は確か……パラメータで決まったはずだ。
 もちろん、今は現実なので選択肢をぽちっとすれば成績があがるわけではないだろうが。

 『今日は何をしよう?』という、毎回放課後に出てくる選択肢。これが主なパラメータ上げの時間。
 学力を上げるには、『図書室に行く』、または『演習場に行く』を選択する必要がある。ただし、たまに攻略対象が出てきて勉強ではなく好感度上げの場にもなるが。
 『誰かの所へ行く』を選択すると、攻略対象や、アザミサポートキャラの所に行くことができる。
 デートの約束をしているのに、別のキャラを間違えて選択してしまった時には悲惨である。

「とにかく、ローズも頑張ってね」
「はいっ、頑張りますわ!」

 一時間目は、筆記試験。

「始めろ。」

 ラベンダー先生の声と、教室に降り注ぐ光。
 その瞬間、真っ白だったはずの問題用紙に文字が浮き出てきた。

第一問 基本属性を五つ答えよ。

 火、水、風、光、土だ。簡単。

 解答用紙に魔法のペンで書き込んでいく。

第二問 派生属性を五つ答えよ。

 これも簡単。炎、氷、嵐、聖、岩。

第三問 基本属性にも派生属性にも属さない魔法をなんというか。

 無属性魔法だ。……思ったより簡単だわ……。

 そうして順調に、自己採点全問正解で筆記試験を終えることができた。正直、筆記だけなら頑張ればゲーム知識だけでも解けそうな問題だった。

 昼食休憩を挟んで、次は実技試験だ。
 内容は簡単、なんでもいいから魔法を使うこと。レベルが高い魔法、もしくは低級の魔法でも工夫して威力が高かったり、詠唱が短かったりすれば点数は上がる。

「ローズ、どうだった?」
「アシュガ様。筆記試験は順調でしたわ」
「後は実技試験だね。お互いに頑張ろうね」

 実技試験会場はいつもの演習場だ。
 ヴィリディは一番最初に試験がある。
 指定された時間までに、各自演習場に向かうことになっている。

「ごめんね、私は先に演習場へ行かなくてはならないんだ。流石に学園内でローズに危害を加える者はもういないだろうけど……」
「大丈夫ですよ、アシュガ様。いざとなれば結界を張りますから」

 最近は何かと便利な光魔法を練習している。光の結界は対魔法にとても有効だと本で読んだので、練習して使えるようにした。
 あわよくば光の派生、聖属性魔法もゆくゆくは使えるようになりたいと思っている。

「私としてはそれでも心配なのだけれど……気をつけてね。」
「はい。いってらっしゃいませ!」

 そうしてアシュガ様を見送る。
 アザミが居たら一緒にご飯を食べようかな。
 今日は何を食べようか。

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

 食堂前できょろきょろとしていると、ちょうどアザミが声を掛けてくれた。

 
「ローズ! 一人なのね?」
「ええ、ご飯一緒にどうかしら?」
「もちろんよ!」

 アシュガ様とご飯を食べるのもいいけれど、やっぱり友達と食べるのも心が弾む。

「そういえば、あの本の続編が発売されるのよ!」
「ええっ、ほんとに!?」

 嬉しさに舞い上がりそうだ。

 あの本というのは、アザミと私が友達になるきっかけとも言える本だ。
 たしか隣国へ行く所で終わっていたので、続きが気になって仕方なかった。

「隣国へ行ってどうなるのかしら……」
「全く想像がつかないわね……。あぁっ、はやく読みたい!」

 そんな他愛もない話をしていたら、少々地味目な、見慣れない令嬢が近付いてくる。

「あの……失礼します、ローズ様」

 えーと……あ、多分生徒会の。ローゼアの子だ。

「何かしら?」
「あのっ、先生が一年生徒会メンバーはすぐに演習場にくるように、と。」
「わかったわ、ありがとう。」

 そう言うとローゼアの女子生徒は他の生徒会メンバーを探しにどこかへいってしまった。

「……ってことで、いってくるわね、アザミ」
「ええ、いってらっしゃい」

 生徒会がよばれているって、何をするのかしら?
 ゲームでは……だめだ、思い出せない。
 何かあったような気もするし、なかったような気もする……。
 あぁ、なんでこんな時に限って一人なんだ。

「こんにちは、ローズ様。」

 あぁ!! 本当に、なんでこんな時に限って一人なんだ!!

「……何かご用ですの?」

 目を細めてにっこりと嫌な笑みを浮かべるのは、アナベルだった。

「そうよ、ローズ様――ううん、悪役令嬢さん」

 笑みが更に深まった、その瞬間。

「きゃあぁぁっ!!」

 アナベルの背後は、そう長くはない階段だった。
 まるでスローモーションのように、ふわりとアナベルヒロインの体が後ろに倒れる。

 人が倒れる音と悲鳴が混ざり合って、人気のない廊下に鳴り響く。

「な……なにを、して……」

 あまりのことに言葉が出ない。

 これは、一体、なに?
 いや、わかっている。簡単だ、これはイベント。

「何事だい!?」

 びくりと振り向くと、そこにはレン様がいた。

 立ちすくむ私を無視して、アナベルの所へ駆け寄ると、私のほうを睨めつけた。

「……お前っ……今度は何をした」
「レン、様、違うんですっ……ぅぅ……」

 私が答える前に、アナベルが話しだした。

「私が、勝手に、転んでしまっただけです。」
「アナベル、無理しなくていい。」

 メガネの奥から冷ややかな目線が飛んでくる。

「今はお前よりアナベルが心配だ。……次はないぞ、ローズ・ネーション。」

 呆然とする私を置いて、レン様はアナベルを横抱きにして歩いて行った。

 次は、ない?
 私は何もしていないのに。
 このままじゃ、アシュガ様がこれから冷たくなって私を嫌ってそのまま――

「……あら?ローズ?どうしてここにいるの?」

 その声でふと我に返った。
 アザミだ。
 しまった、呼ばれてたんだった!
 色々と考えたいことはあるが、とりあえず一旦置いて、仕事をしなければならない。

 元日本人としての意地でもある。

「あっ、急いで行ってくるわ!」
「えぇ……いってらっしゃい……?」

 不思議そうにするアザミを置いて、私はできるだけ早足で演習場に向かった。
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