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第二章 <断罪阻止>
第16話 <実技試験>
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「申し訳ございません、遅れてしまいました」
演習場に入ると、私とアナベルとレン様以外は皆揃っていた。
「レンデュラ・シユリとアナベル・イージュはまだか?」
「多分医務室へ行っているかと」
先生が眉根を寄せたが、それ以上何も言わずに話し出す。
確か生徒会の顧問の先生だ。
「えー、みんな知っている通り、これからここで実技の試験が行われる。そこで、魔術が壁を破壊したりしないよう結界を張ってもらおうと思う。」
ふむふむ。
「もちろんこれはちょっとした練習みたいなものだ。上級生になると生徒会で準備をしたりすることもあるから、その為の練習。壊れた時はその奥に先生達の結界があるから、気にしなくていいぞ。皆授業で習ったはずだろう、では、始めてくれ」
なるほど。次は魔術の演習だから、光の結界が最適かな。
「光よ、我が意に応えよ。光盾魔法」
周りを見ると、様々な結界が張られている。
対物理に適している結界は、土、氷、火等である。対魔法に適しているのは、水、光。
風の結界もないことはないが、魔法に対してはあまり効果を発揮せず、物理に対しては触った瞬間風で吹き飛ばしたりする結界なので、あまり使われることはない。
水属性は派生が氷なので、物理でも魔法でも対応することができるのだ。
ただし、聖魔法の結界は対魔物に特化している。
「終わったみたいだな。集まってくれ」
ぞろぞろとみんなが集まる。
「みんなありがとう。ヴィリディの生徒はそろそろ時間だからここに残りなさい。試験は全力で挑むように!」
そう言うと先生はどこかへ行ってしまった。
「ローズ」
後ろを振り返ると、アシュガ様がいた。
「私がいない間、何もなかった?」
私には何もなかった。
でも、何もなかったわけじゃない。
だが、これは確かレン様の好感度上げイベントのはず。
ゲームの強制力が何に働くかわからない以上、アシュガ様に言うのは憚られる。
「はい――」
そう言おうとした時、いつもの声が演習場に響いた。
「集まれ」
ラベンダー先生だ。もうすぐ試験が始まる。
「――行きましょうか」
「そうだね。ローズも頑張って」
とにかく、今はヒロインの事は忘れて全力で試験に挑もう。
ローズはそう決めて、ラベンダー先生のもとへ歩き出した。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
試験は終わった者から退室。ただし、見学してもいい。
試験の順番は完全にランダムである。
一番初めの生徒は、なんとヒロインだった。
そんなにはやく回復するものなのか……
「いきますっ」
そう言うと、彼女は詠唱を始める。
「水よ、我が意に応えよ。水霧魔法……光よ、光魔法」
その瞬間、強い光が彼女を覆う。
会場が少しざわざわとする。
たかが平民が!と言っている者もあれば、純粋に驚いている者もいた。
2つの属性の魔法を重ねている自体が珍しいのだ。
更に、その一方が光魔法となればあまり見れるものではない。
「ふむふむ……なるほどな」
試験官も、一年生の一番初めの試験でこのレベルの魔法が出るとは思わなかったのだろう。
関心しているのがわかる。
「ありがとうございましたっ!」
彼女は元気よく――悪く言うならあまり美しくない――礼をして、観客席に向かってパタパタと小走りで駆けていった。
多分、細かい水に光を反射させたのだろう。
尤も、あの霧を調節して反射させやすくしないと強い光を生むことはできないだろうけど。
それともう一つ、詠唱短縮。
光属性の中で一番単純な光魔法だったから――
「――ズ、ネーション!」
「っは、はい!」
しまった。
つい考え過ぎた。
「よろしくお願い致します。」
礼をし、指定の場所に立つ。
そして、今日の為に準備してきた魔法を詠唱し始めた。
「光よ、我が意に応えよ。光壁魔法。」
まず、この壁でぐるりと自分の周りを覆う。
光盾魔法の派生の魔法だ。
「風よ、我が意に応えよ。暴風魔法」
目を閉じて、集中する。
渦巻く激しい風……竜巻をイメージして、天高く――
「……ほう」
珍しい物を見た、と言う試験官の声も、先程よりも煩いギャラリーの声も聞こえず、ただ風を渦巻かせ、ある程度風の力が渦の中に溜まったら、ぎゅっと力を自分に集めた。
そして最後、自分で張った光の結界をぶち壊すように、四方へ力を解き放つ。
結界が砕け散り、キラキラと光が舞う中で、ローズは自分の出来に満足して微笑みながら一言。
「ありがとうございました。」
素晴らしいお辞儀を披露した。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
ローズが披露したのは、風の派生属性、嵐属性の『竜巻魔法』を風魔法で再現するというものだ。
単純に暴風魔法を使うだけでなく、力をコントロールして自分の周りを渦巻かせる必要があるので、呪文は初級の魔法でもなかなか難しい。
アシュガ様とアザミの魔法も見たいので見学しよう。
先に順番がきたのは、アシュガ様だった。
……多分、ゲームの順番だ。ヒロインが一番で、その次が私。その後、攻略対象達……かもしれない。よく覚えていないが。
「よろしくお願いします」
あぁ、やっぱりかっこいい。
「火よ、我が意に応え、ここに望むものを出現させよ。火剣魔法」
少し長めの詠唱。これは、火の魔法の中でも最も高難度な魔法のうちの一つだ。
会場がどよめく。流石アシュガ様……と見惚れる者もたくさんいて、チクリと胸が痛んだ。
「氷よ、我が意に応えよ。氷結魔法」
その火の剣を、氷が包んでいく。
「わぁ……」
とても綺麗だ。
透明度の高いキラキラとした氷の中に、揺らめく火の剣が入っている。
素晴らしい。
アシュガ様は指をパチンと鳴らして、それを破壊した。
「ありがとう」
そうして、観客席に向かって歩いていった。
「アシュガ様、とても綺麗でした。格好良かったですわ」
「ふふ、ありがとう。ローズもとても格好良かったよ」
「そ、そんな……」
確かに自分でも上手くいった自信はあったが、アシュガ様に比べればまだまだだと思う。
まだ派生の練習はしていないし、基本的な魔法しか使えないのだから。
「あ、次の人が始まるよ。」
「次は――」
と、アシュガ様と意見を言い合いながら楽しく見ていた。
先に会場を出る人もいるが、観客席もあまり空きが目立たなくなってきた所でアザミの出番だった。
「あ、アザミだわ」
「ほんとうだ、アザミ嬢はどんな魔法を使うんだろう」
「楽しみですね」
わくわくしながら見ていると、アザミは詠唱を始める。
「水壁魔法」
その短い詠唱で創られた壁は、とても大きく強固なものだった。
「ありがとうございました。」
流石、アザミ。回復や防御は得意だもんね。
「すごいね、あの大きくて強固な結界を短い詠唱で創れるなんて」
「そうですわね。さすがアザミです」
「ローズ自慢の友達だもんね」
――恋愛のことになると鬼だけど。
その一言は心の奥に押し込めて、アザミを迎えた。
「お疲れさま!すごいわよ、アザミ」
「ふふふ、ありがとう、ローズ。ローズも凄かったわよ」
「ありがとう、嬉しいわ」
そんな会話をしつつ、思いがけず楽しく試験を終えることができた。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
「リリー、試験が終わったと思ったらもうすぐ学園祭で、生徒会の仕事が忙しくなりそうなの」
「そうですか、王妃……どころか王太子妃になっただけでもっと忙しいと思いますよ」
相変わらずだなぁ、リリーは……。
「最近アシュガ様とゆっくりできてないし……」
「どこがですか? ずっといちゃこらしてるじゃないですか。国民としては喜ばしい限りでございますが」
「ちょっとリリー最後棒読みよ」
そんな軽口を叩きながらも、リリーは美味しい紅茶とクッキーをだしてくれる。
今日はアイスボックスクッキーとシンプルなレモンティーだった。
「結局レモンティーって侮れないのよね」
侮ってはいないが。
そうしてゆっくりと試験終わりの開放感を味わって午後を過ごし、夕食後。
窓から鳥の形をした紙――多分、風伝魔法で飛んできたのだろう――が、窓から入ってきた。
「ローズ様、明日、アシュガ殿下がローズ様とお出掛けに行きたいそうで」
「行きますって伝えといて。」
「承知しました」
サラサラと返事を書くと、リリーは呪文を唱える。
「風よ、我が意に応えよ。風伝魔法」
ふわりと窓から紙が飛び立った。
魔法はやはり便利だと思う。
「明日に備えてもう寝るわ。おやすみ、リリー」
「おやすみなさいませ、ローズ様」
そして、私は明日の事に思いを馳せながら、ふかふかの布団の中に埋もれた。
演習場に入ると、私とアナベルとレン様以外は皆揃っていた。
「レンデュラ・シユリとアナベル・イージュはまだか?」
「多分医務室へ行っているかと」
先生が眉根を寄せたが、それ以上何も言わずに話し出す。
確か生徒会の顧問の先生だ。
「えー、みんな知っている通り、これからここで実技の試験が行われる。そこで、魔術が壁を破壊したりしないよう結界を張ってもらおうと思う。」
ふむふむ。
「もちろんこれはちょっとした練習みたいなものだ。上級生になると生徒会で準備をしたりすることもあるから、その為の練習。壊れた時はその奥に先生達の結界があるから、気にしなくていいぞ。皆授業で習ったはずだろう、では、始めてくれ」
なるほど。次は魔術の演習だから、光の結界が最適かな。
「光よ、我が意に応えよ。光盾魔法」
周りを見ると、様々な結界が張られている。
対物理に適している結界は、土、氷、火等である。対魔法に適しているのは、水、光。
風の結界もないことはないが、魔法に対してはあまり効果を発揮せず、物理に対しては触った瞬間風で吹き飛ばしたりする結界なので、あまり使われることはない。
水属性は派生が氷なので、物理でも魔法でも対応することができるのだ。
ただし、聖魔法の結界は対魔物に特化している。
「終わったみたいだな。集まってくれ」
ぞろぞろとみんなが集まる。
「みんなありがとう。ヴィリディの生徒はそろそろ時間だからここに残りなさい。試験は全力で挑むように!」
そう言うと先生はどこかへ行ってしまった。
「ローズ」
後ろを振り返ると、アシュガ様がいた。
「私がいない間、何もなかった?」
私には何もなかった。
でも、何もなかったわけじゃない。
だが、これは確かレン様の好感度上げイベントのはず。
ゲームの強制力が何に働くかわからない以上、アシュガ様に言うのは憚られる。
「はい――」
そう言おうとした時、いつもの声が演習場に響いた。
「集まれ」
ラベンダー先生だ。もうすぐ試験が始まる。
「――行きましょうか」
「そうだね。ローズも頑張って」
とにかく、今はヒロインの事は忘れて全力で試験に挑もう。
ローズはそう決めて、ラベンダー先生のもとへ歩き出した。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
試験は終わった者から退室。ただし、見学してもいい。
試験の順番は完全にランダムである。
一番初めの生徒は、なんとヒロインだった。
そんなにはやく回復するものなのか……
「いきますっ」
そう言うと、彼女は詠唱を始める。
「水よ、我が意に応えよ。水霧魔法……光よ、光魔法」
その瞬間、強い光が彼女を覆う。
会場が少しざわざわとする。
たかが平民が!と言っている者もあれば、純粋に驚いている者もいた。
2つの属性の魔法を重ねている自体が珍しいのだ。
更に、その一方が光魔法となればあまり見れるものではない。
「ふむふむ……なるほどな」
試験官も、一年生の一番初めの試験でこのレベルの魔法が出るとは思わなかったのだろう。
関心しているのがわかる。
「ありがとうございましたっ!」
彼女は元気よく――悪く言うならあまり美しくない――礼をして、観客席に向かってパタパタと小走りで駆けていった。
多分、細かい水に光を反射させたのだろう。
尤も、あの霧を調節して反射させやすくしないと強い光を生むことはできないだろうけど。
それともう一つ、詠唱短縮。
光属性の中で一番単純な光魔法だったから――
「――ズ、ネーション!」
「っは、はい!」
しまった。
つい考え過ぎた。
「よろしくお願い致します。」
礼をし、指定の場所に立つ。
そして、今日の為に準備してきた魔法を詠唱し始めた。
「光よ、我が意に応えよ。光壁魔法。」
まず、この壁でぐるりと自分の周りを覆う。
光盾魔法の派生の魔法だ。
「風よ、我が意に応えよ。暴風魔法」
目を閉じて、集中する。
渦巻く激しい風……竜巻をイメージして、天高く――
「……ほう」
珍しい物を見た、と言う試験官の声も、先程よりも煩いギャラリーの声も聞こえず、ただ風を渦巻かせ、ある程度風の力が渦の中に溜まったら、ぎゅっと力を自分に集めた。
そして最後、自分で張った光の結界をぶち壊すように、四方へ力を解き放つ。
結界が砕け散り、キラキラと光が舞う中で、ローズは自分の出来に満足して微笑みながら一言。
「ありがとうございました。」
素晴らしいお辞儀を披露した。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
ローズが披露したのは、風の派生属性、嵐属性の『竜巻魔法』を風魔法で再現するというものだ。
単純に暴風魔法を使うだけでなく、力をコントロールして自分の周りを渦巻かせる必要があるので、呪文は初級の魔法でもなかなか難しい。
アシュガ様とアザミの魔法も見たいので見学しよう。
先に順番がきたのは、アシュガ様だった。
……多分、ゲームの順番だ。ヒロインが一番で、その次が私。その後、攻略対象達……かもしれない。よく覚えていないが。
「よろしくお願いします」
あぁ、やっぱりかっこいい。
「火よ、我が意に応え、ここに望むものを出現させよ。火剣魔法」
少し長めの詠唱。これは、火の魔法の中でも最も高難度な魔法のうちの一つだ。
会場がどよめく。流石アシュガ様……と見惚れる者もたくさんいて、チクリと胸が痛んだ。
「氷よ、我が意に応えよ。氷結魔法」
その火の剣を、氷が包んでいく。
「わぁ……」
とても綺麗だ。
透明度の高いキラキラとした氷の中に、揺らめく火の剣が入っている。
素晴らしい。
アシュガ様は指をパチンと鳴らして、それを破壊した。
「ありがとう」
そうして、観客席に向かって歩いていった。
「アシュガ様、とても綺麗でした。格好良かったですわ」
「ふふ、ありがとう。ローズもとても格好良かったよ」
「そ、そんな……」
確かに自分でも上手くいった自信はあったが、アシュガ様に比べればまだまだだと思う。
まだ派生の練習はしていないし、基本的な魔法しか使えないのだから。
「あ、次の人が始まるよ。」
「次は――」
と、アシュガ様と意見を言い合いながら楽しく見ていた。
先に会場を出る人もいるが、観客席もあまり空きが目立たなくなってきた所でアザミの出番だった。
「あ、アザミだわ」
「ほんとうだ、アザミ嬢はどんな魔法を使うんだろう」
「楽しみですね」
わくわくしながら見ていると、アザミは詠唱を始める。
「水壁魔法」
その短い詠唱で創られた壁は、とても大きく強固なものだった。
「ありがとうございました。」
流石、アザミ。回復や防御は得意だもんね。
「すごいね、あの大きくて強固な結界を短い詠唱で創れるなんて」
「そうですわね。さすがアザミです」
「ローズ自慢の友達だもんね」
――恋愛のことになると鬼だけど。
その一言は心の奥に押し込めて、アザミを迎えた。
「お疲れさま!すごいわよ、アザミ」
「ふふふ、ありがとう、ローズ。ローズも凄かったわよ」
「ありがとう、嬉しいわ」
そんな会話をしつつ、思いがけず楽しく試験を終えることができた。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
「リリー、試験が終わったと思ったらもうすぐ学園祭で、生徒会の仕事が忙しくなりそうなの」
「そうですか、王妃……どころか王太子妃になっただけでもっと忙しいと思いますよ」
相変わらずだなぁ、リリーは……。
「最近アシュガ様とゆっくりできてないし……」
「どこがですか? ずっといちゃこらしてるじゃないですか。国民としては喜ばしい限りでございますが」
「ちょっとリリー最後棒読みよ」
そんな軽口を叩きながらも、リリーは美味しい紅茶とクッキーをだしてくれる。
今日はアイスボックスクッキーとシンプルなレモンティーだった。
「結局レモンティーって侮れないのよね」
侮ってはいないが。
そうしてゆっくりと試験終わりの開放感を味わって午後を過ごし、夕食後。
窓から鳥の形をした紙――多分、風伝魔法で飛んできたのだろう――が、窓から入ってきた。
「ローズ様、明日、アシュガ殿下がローズ様とお出掛けに行きたいそうで」
「行きますって伝えといて。」
「承知しました」
サラサラと返事を書くと、リリーは呪文を唱える。
「風よ、我が意に応えよ。風伝魔法」
ふわりと窓から紙が飛び立った。
魔法はやはり便利だと思う。
「明日に備えてもう寝るわ。おやすみ、リリー」
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そして、私は明日の事に思いを馳せながら、ふかふかの布団の中に埋もれた。
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