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第二章 <断罪阻止>
第24話 <学園祭デート>
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なんとなく、校舎全体が浮足立っている雰囲気を感じる。
前世も今世も、学園祭前の雰囲気というものは変わらないらしい。
しかし、そんなことはローズにとって些事だった。
「ねぇ、リリー。私……幸せだわ……」
「あーはいはいわかりましたわかりました」
クッキーを持った皿をテーブルに置きながら、リリーは表情が抜け落ちた顔で返事をする。
いや、表情が抜け落ちているのはいつも通りである。
「えへへぇ、だってぇ」
「もう!いいですから!何度も聞きました!!」
というか、今までもその程度……というか、もっと色々言われていただろうに。
主人の婚約者の溺愛具合をよく知っているリリーからすれば、最近ローズの口から語られる惚気など「……今更ですか?」と言いたいようなことばかりである。
否、実際に言った。何度も。
「はむ……今日のクッキーは……ピスタチオかしら?うん?抹茶……?」
「今日は街に出てきたので、フロス・クッキーの品です。マッチャピスタチオだそうです」
「フロス・クッキー……!久しく行っていないわね。また行きたい……」
さくり、とした食感に中に、ピスタチオの硬い食感や風味が入ってくる。
抹茶クッキーの味も、前回食べたときよりも美味しい気がする。
幸せに幸せが重なるとこんなにも幸せなのか……!と、語彙力の消えた頭で考えていたローズ。
そんなほわほわとした頭のまま、
「明日はとうとう学園祭当日なのねぇ」
「えぇ、そうですね。明日はアシュガ殿下が迎えに来られるそうです」
いつもは学生寮のホールで待ち合わせて登校している二人だが、明日はアシュガが部屋まで迎えに行くと言って聞かなかった。
学園祭で浮足立っているのは、麗しのヘルビアナ王太子も同じらしい。
__そして、それは表情の抜け落ちたハイスペック侍女も同じである。
リコラスとの学園祭デート……などという単語が頭の中に浮かんでは、脳内の自分の頭をぶんぶんと振って消している。
かれこれ何度目なのだろうか……。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
そんなこんなで迎えた当日。
ローズは様々な理由から、緊張がピークを迎えていた。
「リリー、大丈夫よね!? おかしくないわよね……」
「はいはい、大丈夫ですよ、いつも通り」
「もうすぐアシュガ様が来るのかしら……!」
緊張の理由は大きく分けて二つ。
一つは、ヒロインがイベントを起こすに違いないと考えているから。
そして、婚約者との学園祭デートだから!!
……ちなみに、恐らく後者の理由の方が大きい。
そのとき、ローズの部屋の扉がとんとんとノックされた。
「ローズ嬢、お迎えに上がりました。」
聞こえてくるのはアシュガ様の声だ。
……いつもと違う口調が凄くかっこいいっ……!!
ローズの脳内は、ここ最近ずっと――そして今日も――ふわふわと何も考えられていなかった。
「ありがとうございます、アシュガ様。すぐに参ります!」
そう答えると、すぐにリリーが扉を開ける。
目の前にいたのは、いつも通り美しい婚約者だった。
「ああ……ローズ、今日も私のローズは可愛い。こんな可愛い婚約者とデートなんて……私は幸せ者だな」
「アシュガ様っ……! 朝からそんなに言わないでくださいませ!!」
如何に、美しい婚約者の前でローズの頭が空っぽになっていたとしても、恥ずかしいものは恥ずかしいのである。
「あー、アシュガ。イチャイチャしてるところ申し訳ないがもう始まるぞ。」
「そうだな。……ではローズ、行こうか」
いつも通りの通学路だが、やはり雰囲気がいつもと違う気がする。
ワクワクドキドキする。お祭りの前の独特の気分だ……!
いつも通っている門と、その先に待つ非日常感に、ローズのワクワクは溢れるばかりだった。
ローズの劇は午後からだ。午前中はアシュガ様との学園祭デートを楽しめる。
午後への不安は一旦置いて、ローズはこの状況を全力で楽しむことに決めた。
「アシュガ様っ、これを見てくださいませ!」
「うん……? 魔法薬学部?」
ローズとアシュガの目の前にあるのは、何やら怪しげな雰囲気のブースだった。
ブースの中には、色とりどりの透明な液体が入った瓶が並べられている。中にいる2人の生徒は、びくびくとしながら話しかけてきた。
「あっ……アシュガ殿下……。」
「おひとついかがですかっ……?」
「お、おすすめは、『フェザーフロートエッセンス』です……」
「フェザーフロートエッセンス……?」
ローズが興味津々な声で繰り返す。
魔法薬学部だと思われる三人はみんなぼそぼそと話している。が、魔法薬には興味がある!!
「はい、フェザーフロートエッセンスは、一滴たらすだけで、物体や生物が一時的に軽くなって、重力の影響を受けにくくなる魔法の薬です。まるで羽根を持っているように、飛行を容易にしたり、軽い足取りで歩くことができるんです!」
突然キラキラとした目で語りだす部員たちを見て、若干面食らうローズだったが、次の瞬間には負けず劣らず目を輝かせていた。
すると横からアシュガが笑顔で銀貨を出す。
「一本頂けるかな」
「えっ、アシュガ様!?」
「あっ、ありがとうございます……」
トン、とアシュガの手のひらに小瓶が乗る。
そのまま飲むのかと思いきや、アシュガはローズの方を振り返って、小瓶を差し出した。
「アシュガ様が飲むのではないのですか?」
ローズは驚きながらも、アシュガの手にある小瓶を受け取る。
陽の光で燦めく透明な小瓶には、空色の液体が詰まっていた。
(ど、どんな味がするのか見当も付かないっ……!)
意を決して小瓶の蓋を開け、そのまま一気に煽った。
すると、体がスッと軽くなるのを感じる。
試しに一歩踏み出してみると、重力の影響を受けずに軽やかに歩くことができる。
……ちなみに、味はほとんどしなかったが、前世で幼い頃に飲んだ薬のシロップの味がほんのりとした。
「すごい……!」
ローズが歓声を上げてアシュガの方を見ると、いつも通りの蕩けた目で見つめ返された。
そうこうしているうちに、ローズの体には重さが戻ってくる。
「そろそろ効果が切れたみたいですね。ありがとうございます、とても楽しい経験でしたわ」
「私からも礼を言おう。」
アシュガ様のキラキラスマイルでお礼を言われた魔法薬学部の二人組は、あたふたし始めた。
「っい、いえ、こちらこそ、楽しんでいただけて光栄ですっ……」
「あ、ありがとう、ございましたあ」
(さっきまで凄く軽かったから、足が重く感じるわ……)
なんだか転びそう、などと考えてはいたのだが。
「あっ」
「っローズ!」
お腹の奥がヒュッとなる感覚……の、次の瞬間には、腕を引っ張られ、頼もしい胸の中に居た。
「あっ……アシュガ様、も、申し訳ございません」
「いや、ローズが転ばなくてよかった……」
自分の体とは違う硬い胸の感触。
それを感じて、ローズの顔は急に熱くなる。
「あ、あ、ありがとうございます!!」
真っ赤な顔で叫ぶローズは、そのまま離れようとしたのだが……
「可愛い。本当に、ローズに怪我がなくてよかった……」
いつもの黒い笑みとは違う、安堵したような表情でローズを抱きしめるアシュガを見て、ローズは少し迷う。
……が。
「……アシュガ様。みんなが見ていますっ……離して……」
羞恥心には勝てず、アシュガに懇願する。
名残惜しそうに抱擁を解いたアシュガは、ローズの顎をクッと上げさせて、いつも通りの笑みで囁く。
「ローズ、ちゃんと私の手を握っていて? また転ぶと思うと不安だ」
またもや顔を茹で上がらせたローズは、満足そうに笑うアシュガの手を握り、歩き出した。
そんな二人の後ろには、やはり少し重たそうな足と死んだ目で歩くリコラスと、涼しい顔のリリーがいた。
リリーがリコラスの手をギチギチと音が鳴りそうな強さで握っていることは、この二人だけが知っている。
――だが、そのまた後ろから覗く悪意に満ちた視線は、誰も気付くことはなかった。
前世も今世も、学園祭前の雰囲気というものは変わらないらしい。
しかし、そんなことはローズにとって些事だった。
「ねぇ、リリー。私……幸せだわ……」
「あーはいはいわかりましたわかりました」
クッキーを持った皿をテーブルに置きながら、リリーは表情が抜け落ちた顔で返事をする。
いや、表情が抜け落ちているのはいつも通りである。
「えへへぇ、だってぇ」
「もう!いいですから!何度も聞きました!!」
というか、今までもその程度……というか、もっと色々言われていただろうに。
主人の婚約者の溺愛具合をよく知っているリリーからすれば、最近ローズの口から語られる惚気など「……今更ですか?」と言いたいようなことばかりである。
否、実際に言った。何度も。
「はむ……今日のクッキーは……ピスタチオかしら?うん?抹茶……?」
「今日は街に出てきたので、フロス・クッキーの品です。マッチャピスタチオだそうです」
「フロス・クッキー……!久しく行っていないわね。また行きたい……」
さくり、とした食感に中に、ピスタチオの硬い食感や風味が入ってくる。
抹茶クッキーの味も、前回食べたときよりも美味しい気がする。
幸せに幸せが重なるとこんなにも幸せなのか……!と、語彙力の消えた頭で考えていたローズ。
そんなほわほわとした頭のまま、
「明日はとうとう学園祭当日なのねぇ」
「えぇ、そうですね。明日はアシュガ殿下が迎えに来られるそうです」
いつもは学生寮のホールで待ち合わせて登校している二人だが、明日はアシュガが部屋まで迎えに行くと言って聞かなかった。
学園祭で浮足立っているのは、麗しのヘルビアナ王太子も同じらしい。
__そして、それは表情の抜け落ちたハイスペック侍女も同じである。
リコラスとの学園祭デート……などという単語が頭の中に浮かんでは、脳内の自分の頭をぶんぶんと振って消している。
かれこれ何度目なのだろうか……。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
そんなこんなで迎えた当日。
ローズは様々な理由から、緊張がピークを迎えていた。
「リリー、大丈夫よね!? おかしくないわよね……」
「はいはい、大丈夫ですよ、いつも通り」
「もうすぐアシュガ様が来るのかしら……!」
緊張の理由は大きく分けて二つ。
一つは、ヒロインがイベントを起こすに違いないと考えているから。
そして、婚約者との学園祭デートだから!!
……ちなみに、恐らく後者の理由の方が大きい。
そのとき、ローズの部屋の扉がとんとんとノックされた。
「ローズ嬢、お迎えに上がりました。」
聞こえてくるのはアシュガ様の声だ。
……いつもと違う口調が凄くかっこいいっ……!!
ローズの脳内は、ここ最近ずっと――そして今日も――ふわふわと何も考えられていなかった。
「ありがとうございます、アシュガ様。すぐに参ります!」
そう答えると、すぐにリリーが扉を開ける。
目の前にいたのは、いつも通り美しい婚約者だった。
「ああ……ローズ、今日も私のローズは可愛い。こんな可愛い婚約者とデートなんて……私は幸せ者だな」
「アシュガ様っ……! 朝からそんなに言わないでくださいませ!!」
如何に、美しい婚約者の前でローズの頭が空っぽになっていたとしても、恥ずかしいものは恥ずかしいのである。
「あー、アシュガ。イチャイチャしてるところ申し訳ないがもう始まるぞ。」
「そうだな。……ではローズ、行こうか」
いつも通りの通学路だが、やはり雰囲気がいつもと違う気がする。
ワクワクドキドキする。お祭りの前の独特の気分だ……!
いつも通っている門と、その先に待つ非日常感に、ローズのワクワクは溢れるばかりだった。
ローズの劇は午後からだ。午前中はアシュガ様との学園祭デートを楽しめる。
午後への不安は一旦置いて、ローズはこの状況を全力で楽しむことに決めた。
「アシュガ様っ、これを見てくださいませ!」
「うん……? 魔法薬学部?」
ローズとアシュガの目の前にあるのは、何やら怪しげな雰囲気のブースだった。
ブースの中には、色とりどりの透明な液体が入った瓶が並べられている。中にいる2人の生徒は、びくびくとしながら話しかけてきた。
「あっ……アシュガ殿下……。」
「おひとついかがですかっ……?」
「お、おすすめは、『フェザーフロートエッセンス』です……」
「フェザーフロートエッセンス……?」
ローズが興味津々な声で繰り返す。
魔法薬学部だと思われる三人はみんなぼそぼそと話している。が、魔法薬には興味がある!!
「はい、フェザーフロートエッセンスは、一滴たらすだけで、物体や生物が一時的に軽くなって、重力の影響を受けにくくなる魔法の薬です。まるで羽根を持っているように、飛行を容易にしたり、軽い足取りで歩くことができるんです!」
突然キラキラとした目で語りだす部員たちを見て、若干面食らうローズだったが、次の瞬間には負けず劣らず目を輝かせていた。
すると横からアシュガが笑顔で銀貨を出す。
「一本頂けるかな」
「えっ、アシュガ様!?」
「あっ、ありがとうございます……」
トン、とアシュガの手のひらに小瓶が乗る。
そのまま飲むのかと思いきや、アシュガはローズの方を振り返って、小瓶を差し出した。
「アシュガ様が飲むのではないのですか?」
ローズは驚きながらも、アシュガの手にある小瓶を受け取る。
陽の光で燦めく透明な小瓶には、空色の液体が詰まっていた。
(ど、どんな味がするのか見当も付かないっ……!)
意を決して小瓶の蓋を開け、そのまま一気に煽った。
すると、体がスッと軽くなるのを感じる。
試しに一歩踏み出してみると、重力の影響を受けずに軽やかに歩くことができる。
……ちなみに、味はほとんどしなかったが、前世で幼い頃に飲んだ薬のシロップの味がほんのりとした。
「すごい……!」
ローズが歓声を上げてアシュガの方を見ると、いつも通りの蕩けた目で見つめ返された。
そうこうしているうちに、ローズの体には重さが戻ってくる。
「そろそろ効果が切れたみたいですね。ありがとうございます、とても楽しい経験でしたわ」
「私からも礼を言おう。」
アシュガ様のキラキラスマイルでお礼を言われた魔法薬学部の二人組は、あたふたし始めた。
「っい、いえ、こちらこそ、楽しんでいただけて光栄ですっ……」
「あ、ありがとう、ございましたあ」
(さっきまで凄く軽かったから、足が重く感じるわ……)
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「あっ」
「っローズ!」
お腹の奥がヒュッとなる感覚……の、次の瞬間には、腕を引っ張られ、頼もしい胸の中に居た。
「あっ……アシュガ様、も、申し訳ございません」
「いや、ローズが転ばなくてよかった……」
自分の体とは違う硬い胸の感触。
それを感じて、ローズの顔は急に熱くなる。
「あ、あ、ありがとうございます!!」
真っ赤な顔で叫ぶローズは、そのまま離れようとしたのだが……
「可愛い。本当に、ローズに怪我がなくてよかった……」
いつもの黒い笑みとは違う、安堵したような表情でローズを抱きしめるアシュガを見て、ローズは少し迷う。
……が。
「……アシュガ様。みんなが見ていますっ……離して……」
羞恥心には勝てず、アシュガに懇願する。
名残惜しそうに抱擁を解いたアシュガは、ローズの顎をクッと上げさせて、いつも通りの笑みで囁く。
「ローズ、ちゃんと私の手を握っていて? また転ぶと思うと不安だ」
またもや顔を茹で上がらせたローズは、満足そうに笑うアシュガの手を握り、歩き出した。
そんな二人の後ろには、やはり少し重たそうな足と死んだ目で歩くリコラスと、涼しい顔のリリーがいた。
リリーがリコラスの手をギチギチと音が鳴りそうな強さで握っていることは、この二人だけが知っている。
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