悪役令嬢になりたくないので婚約を阻止しようとしましたが、いつのまにか王子様に溺愛されています。

えるる

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第二章 <断罪阻止>

閑話 <街歩き>

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「リコラス、少し付き合ってください」
「はっ!?なんだ、リリーか……って、ここ男子棟だからな!?」

 少し用事があり従者棟に行くと、いつも通り無表情な侍女……そして、俺の恋人であるリリーが声をかけてきた。
 廊下を歩いている途中で、突然だ。
 俺にすら気配を悟らせない姿は、底知れなさを感じさせる。
 一体何者なんだ……と、おおよそ恋人に対するものではない考えを浮かべていたが。

「街歩きに行きましょう」
「……デーt」
「街歩きです。いいですか」
「……リリー、デートが恥ずかしいのか」
「そうですか。ではこの話はなかったことに」
「いえ!街歩き!!行かせていただきます!!」

 ☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+

 恋人になったと言えども、二人はあまり話せる機会がない。
 そして、そもそも長い間話していたこともない。

 しかし、そんな二人の共通の話題と言えば……

「リコラス。貴方の主人のせいで、ローズ様がダメ人間になってしまったのですが」
「……すまん。俺もあいつの暴走を止めることはできん……!」
「最近は、『アシュガ様はぁ、私に何度でも愛を伝えてくれるのですってぇ』と、ずっと言ってきます」
「うわああああああ、申し訳ないっ……てか声真似うめぇ……」

 手の掛かる主人とお嬢様のことである。

 これでは、どちらかと言うと同僚の会話だ。

「……あ、少しいいですか」
「ん?……あぁ、ここか」

 リリーが足を止めたのは、リコラスにも見覚えのある店だった。

「ご存知でしたか」
「ローズ嬢がアシュガと共に来ていたな」

 外にいても感じるバターの香り、清潔な窓から覗く様々な種類のクッキー。
 ここは、ローズ御用達のクッキー専門店、『フロス・クッキー』である。

「いらっしゃい!――ああ、リリーちゃんかい!」
「ごきげんよう。新作のクッキーはありますか」

 いつも通りの無表情で尋ねると、店主はにっこりと笑って言う。

「えぇ、えぇ、あるよ。ちょうど昨日からの新作だよ」
「それを4枚ください。それと、ジンジャーマーブルクッキーも4枚お願いします」
「ここで食べていくのかい?」
「はい。お願いします」

 慣れた様子で注文するリリー。
 それもそのはず。

 お嬢様のせいで何度も何度もここに通う羽目になっているからだ。
 ……そして、何を隠そうリリー自身も、この店のクッキーの熱狂的なファンである。

「ローズ嬢、クッキー好きだもんな」
「そうですね。よく毎日毎日飽きずに食べられるなと思います」

 相変わらずの毒を吐くリリーだが、本人も毎日毎日飽きずに毒見して食べている。
 ただし、リコラスがそれを知るのはまだ先になりそうだ。

「はいはい、お待たせ。こっちが新作、こっちがジンジャーマーブルだよ」

 テーブルに置かれたクッキーは、片方は緑色、片方はマーブル模様が美しいクッキーだ。

「いただきます」
「いただきます!」

 リリーはジンジャーマーブルクッキーを手に取り、リコラスは緑色のクッキーを手に取った。

「……これは、なんだ?ピスタチオか?」
「そちらも食べてみます……そうですね。ピスタチオとマッチャです」

 マッチャの風味に、ピスタチオの食感が楽しい。
 リリーは、マッチャ好きのお嬢様のために買って帰ろうと決めた。

「マッチャ?」
「外国のお茶の一種ですね」

 普段あまり甘いものは食べないリコラスだが、たまには悪くない。と考える。

 ……それより、甘いものを食べているリリーは、いつもより少しだけ表情が緩い気がする。
 かわいい。

 などと考えて見ていると、リリーがこちらを見て、クッキーを飲み込んだ。

「そういえば、リコラス。明日は学園祭があるようですが、護衛はどうなっていますか」
「あぁ、そういえばリリーもローズ嬢の護衛を務め……」

 ニヤニヤしたアシュガから伝えられたのはこうだ。
『リコラスとリリーは、少し離れてついてきてくれ。二人で学園祭の参加者のふりをしながら』
 ……しかし、護衛? リリーはやはり何者だ?

「わかりました。では明日もよろしくお願いします。」
「お、おう」

 その後、リリーは武器屋でやたらじっくり暗器コーナーを眺めていたり、本屋に寄って『外国の最新兵器』という本を購入していた。
 ……リコラスの疑問は深まるばかりだった。
 しかし、学園の授業が終わる時刻になり、従者棟へ帰らなければならなくなった。

「今日は楽しかったです」

 と、全く楽しくなさそうな表情で言うリリー。
 こんな時でも表情が変わらないのは同じ……いや、気のせいかもしれないが、ちょっとだけ表情が緩い?

「俺も楽しかった。ありがとな」

 楽しかったのは本当だ。
 少し怖くもあったが。

 そんなことを考えていた刹那、リリーの顔が近付いてくる。

(いつも突然だな……)

 リコラスは内心笑う。
 今回は!リリーからはさせない!!

 そう考え、リリーの後頭部へ腕を回そうとした。
 回そうとした・・・・・・

 腕を叩き落とし、勝利したのはリリーだった。

 今回もアシュガに泣きつくことになるのは、言うまでもない。
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