悪役令嬢になりたくないので婚約を阻止しようとしましたが、いつのまにか王子様に溺愛されています。

えるる

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第二章 <断罪阻止>

第23話 <自覚>

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「っアシュガ様!」

 アシュガは、ふわふわとした心地から一気に現実に引き戻される。
 と共に、愛する婚約者の姿を見て愛おしさが込み上げる。

「ローズ」
「あらぁ、ローズ様。ご機嫌よう。私、たった今アシュガ様と学園祭の打ち合わせを……」
「アナベルさん、申し訳ございませんが、そちらの打ち合わせは私が代わりに行っておきますわ。殿下と婚約者でもない貴女が、立会人も無く二人で打ち合わせをするのはあまり外聞がよろしくないのではなくて?」

 ここまで言って、これじゃまるで悪役令嬢だと自嘲する。

「ああ、大丈夫だよ、ローズ。もう打ち合わせしなければならない箇所はほとんどない。後は私がやっておくから、アナベル嬢はもう帰ってくれて問題ない」
「で、でもっ」
「……私が良いと言っている。わかったかい、アナベル嬢?」

 私には向けられたことのない、氷のような声音。
 ぐっ、と詰まるヒロインは、けれど花が咲いたような、健気な笑みをアシュガ様に向けた。

「はいっ、ありがとうございます、アシュガさま!」

 いっそここまでヒロインを演じられることが凄い……。

「ローズは、演劇の練習もう終わったの?」
「はい。先程終わりました」
「お疲れ様だね。私に会いに来てくれたのかい?」
「……はい。ごめんなさい、私、迷惑をお掛けして――」

 そう言った瞬間、アシュガ様は私の手をぎゅっと握った。
 紫色の瞳は、いつものように蕩けている。

「愛しい婚約者が会いに来てくれたのに、迷惑なわけがない。」
「っでも、打ち合わせを邪魔して」

 そう言うと、アシュガ様は心配そうにこちらを見つめてくる。

「ローズ。最近、無理していない?」

 ……正直に言うと、無理している。
 ただ、生徒会長の業務、王太子としての業務、演劇の練習、その他もろもろを請け負っているアシュガ様ほどではないと思うけれど!!

「いえ、私は大丈夫です。アシュガ様こそ、ご無理をなさっていませんか?」
「私は慣れているからね。……でも、今は少しローズに癒してほしいなぁ」

 にこり、と綺麗な笑み。
 だが、私には黒い笑みにしか見えない……!

「あ、はは、お疲れでしたら、部屋に戻ってお休みになったほうが……」
「ローズ。」
「……はい。」

 結局、私はこの腹黒王子アシュガ様に弱いらしい。

「ローズ、私の膝に」
「ふぇ!?」
「癒してくれるんだよね?」

 ……やっぱり来るんじゃなかった!!
 と思いつつ膝に乗ってしまう辺り、やはり私はアシュガ様にとことん弱い。

「……はぁ、可愛い。好きだ、愛しているよ、ローズ。」
「そういうことをいきなり言わないでくださいっ……!」
「いつでも、いくらでも伝えたい。……ねぇローズ、私がアナベル嬢に心変わりするかもしれない、だなんて考えているのかい?」

 図星を突かれ、ローズの表情が一瞬固まる。

「そんなことは……」
「悪い子だね。私はこんなにもローズを愛しているのに、ローズはそれをわかってくれない」
「ちがっ……」
「違わないね」

 凪いだ瞳で見つめられて、何も言い返せなくなる。

「……はい。」
「いい子だ。ねぇ、ローズ、私のことはいくらでも疑えばいい。そのたびに、私はいくらでもローズに愛を告げる。」
「っ……」

 いつになく静かに、それでいて情熱的な言葉で。
 私の耳を侵す低くて甘い声は、私の心までも侵していく。
 私にとって、とても甘い言葉を囁く。

「それでは、だめなのです。私は、私はアシュガ様を疑ってはいけないのに」
「ローズ。俺は君を愛すると誓った。その誓いを忘れることはない。君に疑われようと、その気持ちに変わりはない。何度でも疑えばいい、何度でも俺の愛を信じさせる。」

 ローズははっと目を目を見開いて、それからにっこりと笑う。
 そうか、アシュガ様は、ちゃんと私を愛してくれている。
 翳りを見せていた気分が、少しずつ癒されていくのを感じる。
 アシュガ様は、私に好きにさせるのが本当に上手い。

「ありがとうございます、アシュガ様。」
「はぁぁ、ローズが可愛い。可愛すぎて辛い。リコラス、どうすればいい。」

 へ?
 扉こそ薄くあけられているものの、この部屋には今、私とアシュガ様しか……

「呼ぶのがおっせぇよ!アシュガ、お前なぁ!」

 ……壁の戸棚から、リコラスが出てきた。
 きっ……聞かれていた!?

「あ……アシュガ様の馬鹿ああああああああ!!」
「ローズ!?」
「あうぅっ……恥ずかしいぃ…………」
「アシュガ……そりゃそうもなるだろ。」

 アシュガの膝から降りようとして、思ったより強く抱き締められて拘束されていたことに目を白黒させるローズ。
 そのままばたばたと足を振っていたが、アシュガは、

「はぁ……やっぱり、可愛い。」

 と、表情を蕩けさせるだけなのであった。
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