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第二章 <断罪阻止>
第26話 <魔法の夜>
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金属やガラスの衝撃音が混じり、一瞬にして轟音が広がる。
それと共に、ローズは頭に激しい衝撃を感じ、脳がぐらぐらする感覚で吐きそうになっていた。
「ったああああああああ!!!!」
「ご、ごめん、ローズ! 大丈夫かい!?」
……別にシャンデリアが当たったわけではない。
ただ、アシュガにタックルされ、床に頭をぶつけたのだ。
「だ、大丈夫ですわ……。……ですから、あの、アシュガ様、その……退いてくださいません!?」
今、ローズは床に倒れ、その上にアシュガが覆いかぶさっている。
この態勢は少々……というかかなりまずい。
そもそもここは舞台上で、観客が……と思ったが、観客席は大騒ぎだった。
これでは、演劇どころではない。……いや、そもそもシャンデリアが落ちた時点で演劇どころではないか。
――だから、シンデレラらしからぬ表情で憎々し気にローズを見つめるアナベルの姿に、ローズもアシュガも、そして観客も気付いていなかった。
アシュガは漸くローズの上から退いたが、立つ気にはなれず、舞台上に座り込む。
「……ローズ、君が無事で、本当によかった……。」
またもや視界に闇が広がり、全身が温かさに包まれる。
その腕はいつもより遥かに弱々しい。
震える声で、腕で、私を包むアシュガ様の顔を、見ることができなかった。
――事件の……いや、事故の原因はすぐにわかった。魔法によってシャンデリアの吊り具がすっぱりと切られていたのだ。
そして、犯人もすぐにわかった。
「ご、ご、ごめんなさい」
舞台袖で風魔法を使っていた生徒だ。
どうやら、緊張して魔法の方向と威力がずれたらしい。
「……ローズ」
「なんでしょうか?」
「事故とは言え、ローズを殺しかけた相手だ。万死に値する。」
「だめですよ!?!?!?」
アシュガ様は今までのどの笑顔よりも凶悪な笑顔を浮かべていたが、どうにか宥めすかして(ただし、夏休みの半分くらいをアシュガ様に持っていかれることになった)、事無きを得た。
そんなことがありつつも、後処理は大人に任せ、残りの時間を楽しむことになった。
……ただし、学園祭中にローズの両腕が自由になることはなかった。
「あの、アシュガ様? 私は大丈夫ですから、ここにはシャンデリアはありませんわよ。ですから、腕を離してくださいませ……。」
「だーめ。……ローズ、私が安心するんだ。だめか?」
「っ卑怯ですわよ!!」
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
気が付けば空は群青色に染まり、特に明るい星達が散り始める。
そろそろ模擬店などが閉まる時間だ。
満足そうな、けれど少し寂しそうな表情のローズを見て、アシュガは微笑む。
ハプニングこそあったけれど、自分との一日を心から楽しんでくれていたのだろう。そう思うと、いつにも増して愛おしさがこみ上げてくる。
「ローズ。行きたいところがあるんだ、着いてきてくれないか?」
「行きたいところ、ですか? ですが……」
「大丈夫。さ、行こう。早く行かないと間に合わなくなる」
困惑するローズの手を引いて、アシュガは校舎の中へ入る。
「ど、どこに行くのですか?」
校舎の中はいつもより暗く、そして人気が少ない。
残っている学園祭の装飾が、より非日常感を与えていた。
階段を上り続けること暫く。
「はぁっ……アシュガ様、この先は……」
一気に最上階まで階段を上ったせいで息を荒げるローズを見て、アシュガはもう少しゆっくり上ればよかったと少しだけ後悔した。
「ふふ。そう、この先は屋上しかない。そして、屋上は施錠されていて開かない……けれど」
アシュガはニヤリと笑い、ポケットから鍵を出す。
「アシュガ様!?」
「生徒会長の仕事も頑張ったし。……私は王太子だし。」
「アシュガ様、王太子の権力をこんなことに使うのはあまり……」
ローズが微妙な顔をしていることは知らないふりをして、扉を開けた。
瞬間。
魔法の光が弾けて、重たい音が心臓に響く。
「わ……」
「ギリギリ間に合ってよかった」
その音を皮切りに、上空は輝く魔法でいっぱいになっていく。
学園祭のフィナーレ、花火の時間だ。
「きれい……」
幻想的な光景に目を奪われるローズ。
きっと、彼女の瞳には美しいものしか映っていないのだろう。
(できれば、ずっとそのまま、美しいものだけを映していてほしいのだが)
もしも自分と婚約しなければ、あるいは。
それでも全くというわけには行かないだろうが、まだドロドロとした貴族社会を目の当たりにすることは少なかったかもしれない。
(……だが、逃がしてはやれないな)
せめて、ローズができる限り幸せであれるように。今は、美しいものだけを見ていてほしい――
「――アシュガ様?」
「っ、なんだい、ローズ?」
自分とは違う、恐ろしい程に澄んだ淡い翡翠の瞳。
その瞳に映るのは、咲き乱れる魔法の花々ではなく、自分だけで。
「私の隣にいてくださるのがアシュガ様で、とても幸せです」
何の打算も裏もない、真っすぐな言葉だということは、ローズの表情を見れば否応にも解ってしまう。
(ああ、これだから)
俺は君を逃がしてやれない。
それと共に、ローズは頭に激しい衝撃を感じ、脳がぐらぐらする感覚で吐きそうになっていた。
「ったああああああああ!!!!」
「ご、ごめん、ローズ! 大丈夫かい!?」
……別にシャンデリアが当たったわけではない。
ただ、アシュガにタックルされ、床に頭をぶつけたのだ。
「だ、大丈夫ですわ……。……ですから、あの、アシュガ様、その……退いてくださいません!?」
今、ローズは床に倒れ、その上にアシュガが覆いかぶさっている。
この態勢は少々……というかかなりまずい。
そもそもここは舞台上で、観客が……と思ったが、観客席は大騒ぎだった。
これでは、演劇どころではない。……いや、そもそもシャンデリアが落ちた時点で演劇どころではないか。
――だから、シンデレラらしからぬ表情で憎々し気にローズを見つめるアナベルの姿に、ローズもアシュガも、そして観客も気付いていなかった。
アシュガは漸くローズの上から退いたが、立つ気にはなれず、舞台上に座り込む。
「……ローズ、君が無事で、本当によかった……。」
またもや視界に闇が広がり、全身が温かさに包まれる。
その腕はいつもより遥かに弱々しい。
震える声で、腕で、私を包むアシュガ様の顔を、見ることができなかった。
――事件の……いや、事故の原因はすぐにわかった。魔法によってシャンデリアの吊り具がすっぱりと切られていたのだ。
そして、犯人もすぐにわかった。
「ご、ご、ごめんなさい」
舞台袖で風魔法を使っていた生徒だ。
どうやら、緊張して魔法の方向と威力がずれたらしい。
「……ローズ」
「なんでしょうか?」
「事故とは言え、ローズを殺しかけた相手だ。万死に値する。」
「だめですよ!?!?!?」
アシュガ様は今までのどの笑顔よりも凶悪な笑顔を浮かべていたが、どうにか宥めすかして(ただし、夏休みの半分くらいをアシュガ様に持っていかれることになった)、事無きを得た。
そんなことがありつつも、後処理は大人に任せ、残りの時間を楽しむことになった。
……ただし、学園祭中にローズの両腕が自由になることはなかった。
「あの、アシュガ様? 私は大丈夫ですから、ここにはシャンデリアはありませんわよ。ですから、腕を離してくださいませ……。」
「だーめ。……ローズ、私が安心するんだ。だめか?」
「っ卑怯ですわよ!!」
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
気が付けば空は群青色に染まり、特に明るい星達が散り始める。
そろそろ模擬店などが閉まる時間だ。
満足そうな、けれど少し寂しそうな表情のローズを見て、アシュガは微笑む。
ハプニングこそあったけれど、自分との一日を心から楽しんでくれていたのだろう。そう思うと、いつにも増して愛おしさがこみ上げてくる。
「ローズ。行きたいところがあるんだ、着いてきてくれないか?」
「行きたいところ、ですか? ですが……」
「大丈夫。さ、行こう。早く行かないと間に合わなくなる」
困惑するローズの手を引いて、アシュガは校舎の中へ入る。
「ど、どこに行くのですか?」
校舎の中はいつもより暗く、そして人気が少ない。
残っている学園祭の装飾が、より非日常感を与えていた。
階段を上り続けること暫く。
「はぁっ……アシュガ様、この先は……」
一気に最上階まで階段を上ったせいで息を荒げるローズを見て、アシュガはもう少しゆっくり上ればよかったと少しだけ後悔した。
「ふふ。そう、この先は屋上しかない。そして、屋上は施錠されていて開かない……けれど」
アシュガはニヤリと笑い、ポケットから鍵を出す。
「アシュガ様!?」
「生徒会長の仕事も頑張ったし。……私は王太子だし。」
「アシュガ様、王太子の権力をこんなことに使うのはあまり……」
ローズが微妙な顔をしていることは知らないふりをして、扉を開けた。
瞬間。
魔法の光が弾けて、重たい音が心臓に響く。
「わ……」
「ギリギリ間に合ってよかった」
その音を皮切りに、上空は輝く魔法でいっぱいになっていく。
学園祭のフィナーレ、花火の時間だ。
「きれい……」
幻想的な光景に目を奪われるローズ。
きっと、彼女の瞳には美しいものしか映っていないのだろう。
(できれば、ずっとそのまま、美しいものだけを映していてほしいのだが)
もしも自分と婚約しなければ、あるいは。
それでも全くというわけには行かないだろうが、まだドロドロとした貴族社会を目の当たりにすることは少なかったかもしれない。
(……だが、逃がしてはやれないな)
せめて、ローズができる限り幸せであれるように。今は、美しいものだけを見ていてほしい――
「――アシュガ様?」
「っ、なんだい、ローズ?」
自分とは違う、恐ろしい程に澄んだ淡い翡翠の瞳。
その瞳に映るのは、咲き乱れる魔法の花々ではなく、自分だけで。
「私の隣にいてくださるのがアシュガ様で、とても幸せです」
何の打算も裏もない、真っすぐな言葉だということは、ローズの表情を見れば否応にも解ってしまう。
(ああ、これだから)
俺は君を逃がしてやれない。
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