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留学帰国後 〜王宮編〜
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しおりを挟む「ではカイナス、姫の護衛は任せる」
「シオン、手を出したら・・・試合でアナスタシアが修羅と化すぞ」
「心得ておりますのでご準備ください、お2人とも」
どうもカイナスさんは順位戦の事でフレンさんを呼びに来たらしい。アナスタシアも打ち合わせがあるようで、私の案内&護衛はカイナスさんがしてくれる事に。
さて、お席はどこかしら?と思ってカイナスさんを見上げると、優しいアイスブルーの瞳が見下ろして来た。
こほん、と咳払いをすると、先程のフレンさんと同じように跪いて騎士の礼を取った。
「不詳、シオン・カイナス。コーネリア・タロットワーク様のご案内と警護を務めさせて頂きます。
我が剣に誓いまして、お護り致します。何なりとご命令を」
「ふふ、ありがとうございます」
「と、少し格好付けはしてみたけど恥ずかしいね」
「そうですか?決まってましたしドキドキしましたよ」
跪いたまま私を見上げるカイナスさん。
イケメンにこんな姿取らせるなんてときめいちゃう。
騎士服姿のカイナスさん、この間の夜会の時とはまた違って素敵だもの。
カイナスさんは自然に私の手を取り、甲に軽く口付ける、
そのまま手を取って、席へと案内してくれた。
やだー!惚れちゃうー!惚れてまうやろー!!!
「ドレス姿も似合いますね。・・・見惚れました」
「お世辞もお上手ですね、カイナスさんたら。夜会に出てるからお口が上手くなったんですか?カイナスさんも夜会服姿はとっても素敵でしたよ?」
そう言った途端、ピタリと足を止めた。
振り返り、私を見る。心無しか瞬きが多い。
「夜会、服?」
「ええ、この間の王太子婚約発表の夜会で」
「・・・コーネリア姫、いらしていたんですか?」
「はい、こっそり。エリザベス嬢の艶姿を見たくて」
「ええと、他にも、何か?」
「そうですね、ドレスアップしたアナスタシアを見たかったのと、フレンさんとのダンスも見たかったので。
今度の夜会に出ることがあったら、私もフレンさんにダンスを申し込んでしまおうかなって思いました」
「出ることが、あるんですか?」
「いやー、こんな名前になってしまいましたので、出ざるを得ない時もあるらしくて・・・」
「そう、でしょうね。貴方は今、唯一のタロットワークの姫ですから。
・・・婚約を申し込んで来る男性も多いでしょう」
「そうみたいですね、私のことも知らないのによく申し込んでくるものだと半ば感心しますね」
そんな話をしながら、席に到着。
ちょっと高座に作られた席で、他にもいくつか席がある。
そのうちフレンさんやアナスタシアが来るのかな?
私の隣にカイナスさんが座り、近くに置かれたテーブルにはお茶の用意までされました。至れり尽くせりです。
「なんかすみません、お茶まで」
「当たり前ですよ、タロットワークの姫君をお迎えして何もしない訳がありません。今日は貴方が来るという事で、順位戦に参加する騎士達もかなり気合が入っていますよ」
「そんな私が来るくらいで・・・大げさな。あちらにいる可愛らしいお嬢様たちにこそいい所見せなくてどうするんですか」
「ああ、まあそういう者もいますね。ですが、タロットワークの姫に勇姿を見せる、という事に意味があるのですよ?」
「───本当に、困っちゃいますよねぇ」
「困るのは、俺も、ですよ」
「え?」
「ああいや、なんでもありません、いや───」
「カイナスさん?」
口ごもったカイナスさん。なんて言ったのか聞き取れなかった。
しかしあのご令嬢達の中に、アントン子爵令嬢いるのかしら?さすがにエリーも絵姿までは用意してなかったしな。
ここで聞いてみちゃう?みちゃう?
「あの、カイナスさん?」
「・・・」
「・・・・・シオン様?」
「っ!?」
反応がなかったので、名前で呼んでみました。
ものすごくびっくりした顔でこっち見てる。そんな驚く?
「反応ないんですもの」
「あーーー、えー、すみません、ご無礼を。何かありましたか?」
「今日は来ていらっしゃいます?」
「誰がですか?」
「アントン子爵令嬢ですわ」
「~~~っ、姫、その名前を、どちらで?」
「この間の夜会と、エリザベス嬢から」
何やら目元を抑えて項垂れてらっしゃる。これもしかして聞かれたくなかったやつかしら?でもカイナスさんモテるから仕方ないじゃない?
目元を覆った手を外し、ちらりと私を見てきた。
その目には困ったような色。
私はそんなカイナスさんに向けて首を軽く傾げてみせる。この年齢ならばギリセーフでしょう、この仕草も。
カイナスさんが口を開こうとした時、部下の騎士さんが呼びに来た。そうね、カイナスさんも順位戦に出るのだものね?
「お話中、失礼致します。カイナス副官、そろそろ始めます」
「わかった、すぐに向かう」
「はっ」
私にもビシッと騎士礼を返し、去っていく騎士さん。
うむ、格好いいな。そのままいい男に育っていただきたい。
「気になりますか?姫」
「え?ああ、先程の方ですか?やっぱり皆さん素敵ですよね」
「・・・アナスタシア様の気持ちが今ならわかるな」
「はい?」
「いえ、なんでもありません。申し訳ありませんが、私も行かねばなりません。ここは他の者も警備に当たります。
できるだけ私か団長、アナスタシア様が来ますので、側にいられませんが御容赦ください」
「はい、大丈夫ですよ?カイナスさん、私が魔法を使えるの忘れてません?」
「・・・そうでしたね。ですが油断はしないでくださいね。
あまり他の男を容易に近付けてほしくはありませんから」
「ん?はい」
「で、アントン子爵令嬢でしたね。
・・・そうですね、来ているのではないでしょうか。
ここからでは確認できませんが、恐らくは」
「そうなんですね!」
「・・・気になるんですか?」
「ええ、だって私以外にもカイナスさんの事を『素敵』って言っている方ですよ?いわば同士じゃありませんか」
そう言うと、一瞬虚をつかれたように目を見開いた。
その後は苦笑して、私を見る。すっと近くに寄り、私の耳元へ唇を寄せる。
「俺は貴方が見つめてくれるならそれでいいですよ」
「っ!?」
「コーネリア姫、私が勝ち抜いたら何かお祝いを頂けませんか?」
「お祝い、ですか?」
「ええ。貴方の時間を私に」
「それくらいなら、いつでも構いませんけど」
「なら、何か考えておいてください。
・・・この剣に誓い、貴方に勝利を」
ドレスの裾を取り、口付ける。
まるで物語の一幕のようで、驚いてしまう。
えーと…ん?カイナスさん…なんか今日はイケイケだったな…
********************
『そうみたいですね、私のことも知らないのによく申し込んでくるものだと半ば感心しますね』
その言葉に、やはりコーネリア姫へ求婚者が詰め掛けているのだと確信する。チリ、と心の奥で炎が生まれる。
団長を探しに来てみれば、何処ぞの姫君と抱擁している姿を発見した。またアナスタシア様をおいて何をしているのやら。と、思えば後ろからアナスタシア様が。
「役得だなフリードリヒ。私の姫になんと不埒な。
・・・まあ、姫から強請ったのであれば致し方ないが」
「あれは、コーネリア姫、ですか」
「ああそうだ。私の元へ戻っていらした。カイナス、お前も姫に挨拶するのなら手に口付けまでは許してやるぞ?」
そう言って団長に声をかけるアナスタシア様。
いつも通り弁解する団長の姿に微笑みながら抱擁を解くコーネリア姫。その姿に胸が軋んだ。
こちらを見た姫は、1年ぶりにまた美しく成長していた。
いや、艶がかかった、というべきか。
姫に見蕩れた事に気付いたのか、団長もアナスタシア様もコーネリア姫の案内を俺に変えてくれた。
その気遣いは嬉しいやら、心苦しいやら…なんと言おうか。
お嬢さん、コーネリア・タロットワーク姫。
タロットワークの名を冠することで、王位継承権を持つ姫君となられた。ますます手の届かない女性になったのでは?
話し始めれば以前と変わりなく、屈託なく話しかけてくれる。
なんだか懐かしいな、と思っていれば次々と爆弾を落としてくれた。
なんと、この間の夜会にどこにいたのか出席していたらしい。ドレス姿を褒めれば、俺の夜会服姿も素敵でした、なんて言っている。
その上、アントン子爵令嬢の事まで…
誰から聞いたのかと聞けば、話題提供者は王太子の婚約者であるエリザベス嬢…これは何から何まで知られていると思うべきだろう。
社交界の華、エリザベス・ローザリア嬢ならば、手に入れられない噂話などあるまい。
ああそうなると、グレイスの事もか…オランディア男爵夫人との関係も知っているのだろうな、まずい…
どんな顔をすればいいのか、と困り果てた俺に、可愛らしく小首を傾げてみせるコーネリア姫。それは卑怯でしょう…!
ああ、完敗だ。
こんな年下の女性に、だなんて言っている余裕なんて俺にはないな。
彼女が誰を選ぶのかはわからない。ただ、格好悪いだろうがきちんと自分の口から説明だけはさせてもらう事にしよう。
そのためにはまず、勝ち進まないとな。
俺は自分の利き手に口付けて、気合いを入れる。
願わくば、勝利の口付けを女神から頂きたいものだ。
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