異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、1年目 ~冬季休暇~

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古い年の終わりと、新しい年の始まりを祝う。

『祈願祭』

それは、王都だけで行われる祭礼。
貴族も平民も、全ての国民が祈りを捧げ、ランタンを灯して空へと放つ。

その光はゆっくりと空へと舞い、祈りの鐘へと届けられる。


「毎年見ているけれど、本当に美しいわね」

「この光景があるのは、国が平和である証拠だろう」

「そうですわね、あなた」


父上と母上が呟く。

確かに、この光景は心が奪われる。
美しいランタンの光が、空へと舞い上がる。

まず初めに国王が。続いて王妃が。
そして俺達がランタンを空へと舞い上げると、広場に集まった貴族や平民が徐々にランタンを空へと飛ばす。

『平和でありますように』

との願いを込めて。





********************





軽食を済ませ、皆で塔の屋上に立つ。
本来なら寒いのだろうけど、マントのお陰かほとんど寒さは感じなかった。
ひんやり、とする空気は感じているけど、ここで待機するのには支障がないくらいだ。


「始まりましたぞ、コズエ様」


声に釣られ、少し下を覗き込む。すると…


「う、わぁ・・・」


ゆっくりと。
地上から暖かな光がゆっくりと昇ってくる。

それは本当に、あのラプンツェルの映画のような光景。

美しい光景に目を奪われる私を、皆が笑って見ている事も気づかずに。


「まぁああなりますよね」
「確かに、俺も最初は何もできなかったよ」
「毎年の事、とはいえ、やっぱり感動しますよね」
「だよなあ」

「ほれお前達、コズエ殿に手本を見せんか」

「「「「了解です!」」」」


その声にハッとする私。
そうだそうだ、遊びに来たんじゃなかった。


「コズエ殿、見ていてくだされ」


そう言うと、ゼクスさんはすいっと空へと魔道杖ロッドを掲げた。すると、近くまで上がってきていたランタンの灯りがスゥっと魔石へと吸い込まれる。

浮かんできていたランタンも同時に消え失せる。
えっ、どうなってんの?もしかして魔術研究所で作ってたのは、この為なの!?


「ランタン自体も、魔法で作ってますのでな。魔石へと同時に吸収するようになっておるんですわ」

「そうなんですね、落ちたりしないのかとちょっと思ってたんですよ」

「この魔道杖ロッド自体に、魔力を吸い取る術式が組み込まれております。なのでいちいち魔法を発動させるような事はありません。術式が発動する際に、術師の魔力を使って発動しますからな。疲れてきたと思ったら休んでくだされよ」

「わかりました!」


周りを見ると、皆もゼクスさんと同じように魔道杖ロッドを空へと掲げて魔力を吸い取っていた。
こうしてある程度貯めたら『祈りの鐘』へ。すると自動的に鐘へと魔力が移動する仕組みだ。

よし、頑張るぞ!

私も皆と同じように、魔道杖ロッドを掲げた。
すると、近くまで上がってきていたひとつのランタンが、スゥっと魔石へと吸い込まれた。

その瞬間。

私の中に、人の『想い』が溢れた。
それは、王国への感謝の想い。この国を護ってくれてありがとう、これからも感謝を。

虚空へと掲げる魔道杖ロッドへ、次々とランタンの灯りが吸い込まれていく。

それと同時に、私へと流れるのは溢れるほどのこの国へと感謝と敬愛を捧げる民の想いだ。

涙が溢れる。
抑えきれない。


「ゼ、ゼクス、さんっ」

「・・・これが、この儀式の『要』なのです」

「これ、止まら、ないっ」

「はい。こうして王族タロットワークは民の想いを受け取り、この想いを自身への戒めとしてきました。
これ以上に、民からの感謝がありましょうか」


ない、ある訳がない。
とてつもなく、隠しようもない、真実純粋な想い。
この想いを受け取ってしまったら、裏切る事なんてできようはずがない。

この人達の想いを叶えるために、その身を捧げる事も厭わないだろう。

涙が溢れて止まらない私の仮面を、ゼクスさんがそっと外してくれた。ローブの端で私の涙を拭う。
けれど、後から後から涙が溢れた。


「ごめ、ごめんなさっ、止まら、ない」

「・・・謝るのは儂の方ですな。コズエ殿程の魔力総量キャパシティがあるならば、このように共感してしまうのも強い事はわかっておりました」


そうか、想いの力は魔法の力に作用する。
全ての魔法がそうとはいえないが、イメージの強さで魔法を強く発動できるとしたならば、がランタンの魔法の灯りに乗るだろう。

そして、その魔法の灯りを受け取る側の魔力総量キャパシティが大きければ、その想いを多く受け止める。
それだけでなく、魔力が強ければ想いを受け取る力も強まる。

この魔道杖ロッドにはその力を増幅する力も備わっているらしい。


「そしたら、ゼクスさん、は」

「・・・儂は慣れておりますからな。毎年こうして自身に戒めるのですよ。驕り高ぶる事のないようにと」


ゼクスさんのお弟子さん達は、私程ではないみたいだ。とはいえ彼等も何も感じないわけではない。
たまに目元を拭っているのが見える。これの為に仮面もあるのかもしれない。


「ありがとうございます。大丈夫です」

「辛かったら、休んでいてもいいのですぞ」

「いえ。私も、今はこの国の一員ですから」


涙を拭いて、仮面を付ける。さっきよりは涙が溢れることもない。じんわりと浮かんでは来るけれど。
落ち着いて灯りを受け止めると、涙だけではない。心がほんのりと暖かくなるようだ。人々の想いを受け止め、祈りの鐘へと捧げる。こんな貴重な体験をさせてもらえるのだ、幸運だと思わなければ。





********************





眼下では、民達がランタンを上げ続けている。
毎年の『祈願祭』において、務めなければならない王族の役目。

それを果たすべく、私はテラスを後にする。
愛する妻は、目が合うと当然のように微笑んだ。


「では、行ってくる」

「ええ、お務めしてらっしゃいませ」


側に立つシリスにも声をかける。
カークには、さて、どうするか。


「シリス、塔へ上がるぞ。カークも来なさい」

「はい、父上」
「俺も、ですか?」

「・・・そうだ。そなたも経験しておく方がいいだろう」


すぐにできる事ではないだろうが。
シリスも見学はさせていたが、今回が初めてだ。
二人とも魔力総量キャパシティは申し分ないかもしれないが…どうだろうか。

二人を伴い、塔の上へと上がる。

屋上へ出れば、そこは幻想的な世界が広がっていた。

3名の魔術師達が、空へと魔道杖ロッドを掲げる。
魔石へとランタンの灯りが吸い込まれ、そして魔道杖ロッドを『祈りの鐘』へと近づければ、魔力の灯りが移動した。

正面にはゼクスレン殿がいて、軽く礼をしている。
ちらりと後ろを確認すれば、シリスもカークもこの景色に見惚れていた。


「二人とも、こっちだ」


声をかけると、ハッとしたように瞬きをする。
シリスは何でもないように、カークは慌てたようについてきた。全く、性格の差か。

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