異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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学園生活、1年目 ~後期・Ⅱ ~

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「こんにちは、アリシアさん」

「え?あ、コズエさん!」


私が声をかけると、アリシアさんはぴょこん!と立ち上がりお辞儀をしてくれた。手にはスコップ。


「花壇の手入れ?」

「あ、はい!放課後暇だし、何かしたいなと思って。
いつも手入れをしてるおじさん達と知り合いになったので、頼んで世話を手伝わせてもらっているんです」


えへへ、と笑うアリシアさん。
聞けば、元々土いじりは好きらしい。村にいた頃は野菜を作ったりしていたから、こういった作業は苦でもないのだと。


「・・・植えちゃえば?野菜」

「えっ!?だ、ダメですよさすがに!ここにいきなりトマトとか生えたら驚きますよきっと!」

「食育、って事でなんとかならないかしら」

「食育、ですか?」


おっと、こっちにはそういう言葉ないのかな?
言葉が通じてるからこういうギャップに合うんだけど、そもそも私が話してるのって多分突き詰めれば『日本語』じゃないのかもなぁ。

異世界に来たことで、言語翻訳とかされてるだけなんだと思うんだよね。その証拠に、最初は言葉が話せても、読む事できても、書けなかったし。文字も意味が分かるし読めるけど、綴りは日本語ではない。英語でもない。何かと言われると困るけど。私あんまり外国語得意じゃないし。

アリシアさんに食育についてサラっと説明すると、なるほど、とうんうんと頷いていた。


「そう言われるとわかります、確かに平民なら野菜の育て方を知ってる人も多いでしょうけど、平民でも上流階級になるとわからないかも。手ずから育てるのは、王都周辺より周りの各領地に住む人達ならわかりますけど」

「野菜を作ったり、ってのも趣味でやる人いるかもしれないけどね。貴族だとさすがにそういうものは『買うもの』だろうし。作る事も思いつかないかもね。だって彼等にとったら食事って『作ってもらえる』ものだろうし」

「あはは、確かにそうですね。ここでお花を育てていることもどうしてやっているのかわからない、って言われますもん」

「ドランにもそう言われたの?」

「えっ!?もしかしてコズエさん、見てたんですか?」

「声をかけようと思ったら、二人で話してるからちょっと待ってたの。邪魔しちゃ悪いかなって。さすがに内容聞いてないわよ?」


そう言うと、アリシアさんは焦ったように慌てたりほっとしたりと忙しそうだ。何か聞かれたら困る話なのかな?

せっかくなので私はアリシアさんと二人でお花の世話をする事にした。いいんですか?と聞かれたけど、私は向こう地球にいる時によく雑草抜くのとかやってたのだ。母親が家庭菜園するの好きな人だったからね。子供の時はよく手伝ったものだ。私も土いじりは好きなのです。
今でも別邸ではハーブの手入れを手伝っているから気にならない。


「そうなんですね、だったら安心です」

「どうして?」

「いえ、オリヴァー様が手伝いを申し出てくれた時、雑草以外も摘んでしまってたので・・・」

「なるほど・・・」


そこまで見分け付かないもんなのね。まあいい所のおぼっちゃまが花の芽と雑草の区別が付くほど精通してたらそれはそれでツッコミどころが満載な気が。

二人でしゃがみながら花壇のお世話をする。
アリシアさんはなんだか嬉しそうだった。聞くと誰も手伝ってくれなかったらしい。


「皆アルバイトとかあるから仕方ないですけどね」

「アリシアさんもアルバイトしたら?寮生活だけだとつまらないでしょ。王都内ならアルバイト出来るところはたくさんあるでしょ」

「そうなんですけどね。勉強も手を抜けないので、そうするとやっぱり花壇のお世話くらいがちょうどいいんです。これも一応アルバイトに入るので、少しですけどお金が出るんですよ」

「へぇ、そうなんだ。学園からアルバイト代が出るの?」

「はい、そうなんです。あ、今日はコズエさんの分ちゃんと渡しますから」

「ううん、私はいいわ。後でジュース奢ってくれる?それで構わないから」

「クスッ、分かりました」

「ところで、ドランとはよく話すの?」

「そうですね。だいたいここで花壇の手入れをしていると来られます。オリヴァー様はそんな事をして何か得られるものかあるのかとか、無駄な事をって言ってましたけど、こうして手を入れているから綺麗な花壇になるって言ったら、良く見に来てくださるようになりました。珍しいんですよね多分」


おお…よくあるイベントじゃないか…
こういう所から自分にないものを気づかせてくれる彼女、みたいな気持ちが湧いてきて、ここで二人で話す時間を大事にする的なやつですね?


「そうなのね」

「はい、たまにエドワード様も来てくれますよ。あちらの花壇のお花は、エドワード様が持ってきてくれた種から育てたものです」


なんと…エドワードまでが花壇イベントに。
アリシアさんが示す花壇を見ると、そこにはまだ花は咲いていないものの、育っている苗があった。春になったら花が咲くのかな?

どうやら花壇の世話はかなり前からやっていたみたいだ。なるほど、カーク王子以外の攻略対象とはここで話したりして親密度を稼いでいたのかな?
まあ、カーク王子は至る所で話しかけているみたいだけど。何か他にもイベント起こしてるのかな。

気になった私はそれとなくアリシアさんに話を振る。
そうすると、アリシアさんは聞いてくれるのが嬉しかったのか、色々と話をしてくれた。

カーク王子とは、今でもたまに二人で話をしたりするらしい。それこそカフェだったり、この中庭だったり。

ドランとは、主にこの花壇の世話をしている時に話をする事が多いそうだ。何度か教室から職員室までテキストを運ぶ時に代わりに持ってくれたりしたらしい…


「いつも無口なんですけど、そういう時は『婦女子を助けるのは騎士の役目だ』なんて仰って。優しいんですよ」

「いつも同じ顔にしか見えないのよね」

「気難しい方ですからね。たまに笑ってくださる時もあるんですよ?」


笑う!?それはかなりの好感度を稼いでいるのではないの!?これはカーク王子の次にドランなのか…?

エドワードはもうあの通りなので、会うと話をしてくれるし、色々と優しくしてくれるらしい。
数回王都に買い物を付き合ってもらったとか。
偶然街で会って、荷物を持ってくれたという事だけど。

ステュアートは、音楽室を通りがかった時に偶然ピアノを弾いているのをみたそうだ。
その音色がとても素敵なので、拍手したのだと。でも毎回何も言わずにプイっと出ていってしまうそうだ。

…聞き込みの結果、着実にイベントこなしてますよね?夏には星夜祭でダンスもしてるし。これは本格的に二年目の学園生活で何か起こるかもしれません…!
もう気持ちとしてはプレイヤーの心境だ。


「あれ、ところでコズエさん、私に何か用事があったんですよね?」

「あっ、忘れるところだった」


つい自分の好奇心を満たすのに夢中になって、本来ここに来た意味を忘れていた。雑草抜くのも無心にやっちゃってたし。

私はエリーに誘われたので、次の特別授業に一緒に行かないかと言ってみた。もちろんキャズもディーナも誘ってはみましたが皆お断りしてきました。くそう、友達甲斐のない奴等め…

アリシアさんはそれを聞いて迷っていたけれど、花壇の世話を終えて手を洗っている時に『行きます』と言ってくれた。


「嫌なら無理にとは言わないよ?」

「いえ、前にコズエさんに言われてから、私色々考えてたんです。その、貴族の生活の事とか、しきたりとか」

「それで?アリシアさんはどう思ったの?」

「何より、私は知らない事が多すぎて。知ったからカーク殿下と、って事じゃなくて。私はもっと基本的な常識を知るべきだなと思うんです。二年生になったら、私は士官コースを選ぶつもりなんですけど、士官の道を選べばやっぱり貴族に近づくことも多くなると思います。その時に少しでも知っている事が多ければ、何かあった時の判断材料になりますよね。だから、今回はエリザベスさんがくれたチャンスだと思います」

「そっか、だったらよかった」


アリシアさんがそういう気持ちで特別授業に参加するのなら、私も安心だ。
確かに、貴族社会を見てみる事は勉強になる。私もエオリアさんとのお茶会に行くことで色んな知識をもらってるし。国内外の事は、シュレリア様とのお茶会の時に。

だから、アリシアさんにも得るものはきっとあるはず。まあお嬢様達が意地悪してきたら私が少しは防波堤になることにしよう。
エリーがお茶会のホストをするって言ってたから、そこまで危ない事もないだろうけど。

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