【番外編】異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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ローザリア公爵家の確執【全4話】

4話

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エリザベスが本邸を出ていき、ひと月ほど経ったある日。
公爵家でお茶会が行われた。主催はオーレリア伯爵夫人であるルシアンナ。

数人の上級貴族のご婦人方が集まり、和やかなひとときを過ごしていたらしい。
ナキアが挨拶に出るまでは。

ルシアンナが止めるのも聞かず、公爵夫人であると言い張ってナキアはご婦人方の前に出たらしい。
張り切って挨拶したのはいいものの、周りの婦人方は皆、ナキアをいないものとして扱ったと。


「ひ、ひどいのです、皆さん」

「泣くんじゃない、ナキア。どうして君のお茶会ではないのに出ていったんだい?」

「だ、だって。公爵家で開催するのだから、私が挨拶に出なきゃって」


やる気を出してくれるのはいいが、ナキアはまだ社交界に本格的に出ていない身の上だ。
そんな女性が、お茶会に出ていった所で相手にされるはずもない。わかりきった事なのだが、ナキアにはわからなかったようだ。

ナキアを宥めていると、部屋に入ってきた者がいた。
顔を上げると、それはエリザベスだった。


「全く、留守をしている間に大変な事をして下さいましたのね?」

「帰ったのか、エリザベス」

「帰ったのか、ではありませんわ。ルシアンナ様が慌てて戻っていらしたからどうしたのかと思えば。私、今日はメイリィ様の所でシルヴィのお相手をしていたんですのよ?大変でしたわ、メイリィ様が怒ってこちらへ来ると仰って」


なるほど、ルシアンナはエリザベスに事の次第を報告したのか。ナキアはエリザベスにキッと食ってかかる。


「何よ、笑いに来たの!?」

「笑うどころではありませんわ。全く、何てことをしてくださいましたの?お父様、本日いらしたご婦人達には私からお詫びの手紙を書きますわ。それでよろしくて?」

「すまない、頼む」

「っ、旦那様!どうして!」

「貴方、まだ自分のした事がどんな事かわかっていませんの?貴方は招かれてもいないのに、正式なお茶会に出ていってオーレリア伯爵夫人の顔に泥を塗った上に、ご招待した方に失礼を働きましたのよ?おわかりですの?」

「だって!公爵家でするお茶会なら、旦那様の妻である私が挨拶するべきでしょう!」

「・・・ナキア様、貴方はまだ正式に『公爵家の正妻』と認められた訳ではありませんのよ?」

「えっ?」

「上級貴族の婚姻では、王家の主催する公式の夜会に出て、婚姻したという報告を国王陛下にするまでは、社交界では認められませんわ。貴方はまだ夜会に出られるまで礼儀作法が身に付いていませんし。ですからまだ社会的に『公爵夫人』とは認められていません」

「で、でも、ルシアンナ様やメイリィ様は」

「あのお二人はお父様の『愛人』ですもの。『愛人』には公式な夜会に出席できる地位はありませんわ。ですけれどルシアンナ様やメイリィ様には、お父様がきちんと爵位を王国から買い上げ、ルシアンナ様には『伯爵位』を。メイリィ様には『男爵位』を差し上げておりましたわね?
それにルシアンナ様は『オーレリア伯爵夫人』としてきちんと正式にお父様と夜会に出て、国王陛下にご挨拶しています。そうでしたわね?お父様」

「ああ、ルシアンナに伯爵位を授けた時にね」

「ですから、夜会にはお父様のパートナーとして出席をお願いしていますのよ?ナキア様、貴方気がついていて?
この家にいるメイド達は皆、貴族の出身ですわ。ロレーナも伯爵家の出ですし、他のメイド達も皆それぞれ男爵家や子爵家の出ばかり。平民出なのは下働きの子達だけですのよ?
その中で貴方はなあに?礼儀作法の勉強もせず、見栄えのいい事ばかりに興味を示して。
こんな事ではいつまで経っても、夜会に出る事なんてできませんわよ?いつまで甘えているおつもり?」

「なっ、なん、」
「エリザベス、言い過ぎだろう」

「いいえ、今日という今日は言わせて頂きますわ。お父様、一体いつまでその方のお遊びに付き合っていますの?確かにお早くジルお兄様に爵位をお譲りになって、と言いましたけれど、それまで公爵家の仕事をしなくていいとは私は言っていませんわ。
ナキア様、貴方もです。公爵家の正妻になろうというのなら、この程度の礼儀作法くらい完璧に学べなくてどうしますの?できないというのなら、さっさと正妻の座を降りて愛人にお戻りなさい。努力もしない人間を遊ばせておくほど、公爵家は甘くありませんわ!」

「エリザベス、人には人のやり方があるだろう」

「だからなんですの?お父様、貴方は子供であった私に同じような教育をさせてきましたわよね?私はこの通り歯を食いしばってでも一人前になる様に努力して来ましたわ!子供の私にできるようなことが、こんな大人のナキア様にできないわけがないでしょう?少しばかり我慢して、学ぶ姿勢があればできることですわ!それをやらないのはただの甘えです!貴族たるもの、下の者に規範を示すべく自らを律しなくてどうするのですか!」


あまりのエリザベスの剣幕に、ナキアも憔悴していた。

部屋の隅に控えていたアルベルトとロレーナは、うんうん、と頷いている。
私はまた、ナキアに対して甘やかしていたのだと知る。


「すまない、エリザベス」

「お父様?もう一度このような事があれば、私その方ごとお父様を見限ってよ」

「ああ、わかった」

「これ以上、私にお父様を『軽蔑』させないでくださいまし。
アルベルト、ロレーナ、あとはお願いしますわ」

「かしこまりました、エリザベス様」
「かしこまりました、我が主マダム


アルベルトとロレーナはエリザベスを女主人と認めている。しかしナキアの事はどう思っていたのだろう。


「旦那様、エリザベス様に捨てられぬ様、精進せねばいけませんよ」
「ほら、貴方も立ちなさい!全く、エリザベス様より五つも歳上でいらっしゃるのにどうしてこんなに堪え性がないのかしら」

「ず、ずみませぇん」

「ナキア様、私並びに使用人一同、貴方様をこの家の主人と認めることはございません。なぜなら、貴方はそれだけの器量を備えていらっしゃらない。エリザベス様にこの屋敷を任せられた一か月、貴方は一体何をしていましたか?ただインテリアの事に口を出しただけ。それでは邸の女主人として到底力不足です」

「は、はい」

「礼儀作法に関してもです。いくら私達が懇切丁寧に教えても、貴方様に覚える気がないのなら無駄な事です。悪い事は言いませんから、今すぐにでも別邸にお戻りなさい。ここは使用人でも貴方より身分の高い女しかいません。自分から奉公を志願し、自らを高める気概のある者ばかりです。その中で遊び呆ける貴方を主人としてみるものはおりません。別邸では使用人は平民から呼んでいましたから、さぞかし居心地がよかったのでしょうか?」

「う、はい」

「ただチヤホヤされたいが為に、旦那様のお情けを願うならば愛人でいる方が貴方の幸せです。公爵家の第一夫人というものは、家を守り、社交界で女の戦いをし、情報を集めて伴侶である旦那様に仕え、家の為に愛人を迎える事を認め、世話をする。女の幸せだけでできるような事ではないのです。亡き奥様はそれを見事に務め上げていました。貴方に同じ事ができますか?」

「わ、私には、無理です・・・!ルシアンナ様やメイリィ様の事だって、羨ましくて、疎ましくて!旦那様の愛が私だけに向かってほしくって!」

「・・・でしたら、エリザベス様の言う通り、礼儀作法を習い、ジル様が公爵家を継ぎ、その奥様がこの家に来られるまで静かに過ごすことですね。
それまでは邸の女主人はエリザベス様が務めてくださいます。貴方は貴方の望み通り、旦那様のお帰りだけをこの邸でお待ち申し上げればよろしい」

「う、うわああああああん」
「ナキア・・・」


ロレーナはスっと私に向き直り、一礼。


「差し出がましい口を出しましたこと、申し訳ありませんでした」

「いや、よく言ってくれたロレーナ。礼を言う」

「───メルティーナ様が生きておられたら、きっとこう言うと思いました。私の主人はメルティーナ様、そしてそのお子様のエリザベス様だけでございます。
ですが、このお屋敷をジル様にお渡しする日まで、ナキア様も『公爵様の妻』としては扱わせていただきます。それ以上の忠誠はご容赦くださいませ」

「ああ、それでいい。エリザベスを頼む。アルベルト、そなたもな」

「かしこまりまして」


こうして、私達は平穏を手にした。

ひとつの屋敷に住みながらも、私とナキア、エリザベスが顔を合わせることはほとんどない。
ルシアンナやメイリィも、ほとんど私と会わなくなった。
二人からはエリザベスがこの公爵家から嫁いだ後、公爵家より辞する旨の手紙を受け取った。

エリザベスが嫁ぐ年齢になるまであと二年か、三年か。
それと合わせて私は公爵位を、息子のジルに渡すことになる。その後は領地に戻り、ナキアと二人慎ましく暮らすつもりだ。領地の経営は次男のアランに任せるつもりでいる。

ナキアはあれから礼儀作法を習い、夜会にも少しばかり出られるまでになった。
公爵夫人、として社交界に出たものの、やはり受け入れられる事はないようだ。しかし、それが自分の選んだ事だから、と笑顔で私にそう言ってくれる。それだけで私には十分だ。

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