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冒険者ギルド編~多岐型迷路~
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しおりを挟む「まあそれはさておき」
「誤魔化しましたね、エンジュ様」
「副長さん?あんまり虐めないで頂戴?」
「・・・貴方は見張っていないととんでもない事をやらかしそうですね、全く」
困ったように笑うシオン。その表情にツキン、と胸が痛んだ。幾度となく、そうやって窘められるように言葉をかけられた記憶。
たった数ヶ月前の恋。こんなにも痛むのね。久しぶりにした恋の欠片はまだ私の中にあるようだ。
「どうか、しましたか?」
「いえ、なんでもないの。・・・貴方を見てたら昔好きだった人を思い出したわ」
「それは・・・光栄です、と言ってもいいでしょうか」
「お世辞が上手いわね、副長さん」
この話はおしまい、と私は席を立つ。
報告という報告はもらった。私なりの意見も言った。
後は近衛騎士団内で相談し、今後の事を決めてもらおう。
私は『獅子王』を待たせているギルドカウンターへ。
少し離れてシオンも付いてきている。カウンターではキャズが『獅子王』にタグを返している所だった。
そういえば、あのタグってどうなっているのかしら。
「おう、やっと終わったか?」
「ごめんなさいね、待たせちゃって」
「女の支度は時間がかかるもんだ、気にしねえよ」
「懐が深い男は素敵ね、ありがとう」
「なに、いい女にゃ優しくすんのは当たり前だろ?んじゃ、クエスト完了といきますか・・・と言いたいとこなんだがな?」
「何か、問題?」
「いや、今回のクエストだが、俺としては『成功』とは程遠い結果に終わっちまってる。だからこのまま『成功報告』とはしたくねえんだ」
「何言ってるの、ちゃんと『毒胞子』持って帰ってきたじゃない。これ以上何を望むの?」
「俺としちゃ、最低でも5袋は持って帰るつもりでいたんだ。それが3袋だぞ?失敗と同じだよ、んなもん」
えええ?何そのこだわり!依頼人がOK出してるんだからいいんじゃないの?私は困ってしまってキャズを見る。しかしキャズは諦めモード。
えっ、じゃあシオン!と思って後ろを向くが、彼もまた首を振って降参ポーズ。ちょっと2人とも仲良いじゃない!妬けるわ!
「ちょっとちょっと、副長さんもなんとか言って」
「無理ですよ、エンジュ様。昨日から散々話したんですから」
「そうなんですよエンジュ様・・・私達も依頼人が満足しているならそれで、とお話したんですが」
「俺の気がすまねえんだから仕方ねえだろ」
「ええ・・・じゃあどうしたら気が済むの・・・?
もう依頼失敗でもいいわよ別に・・・」
「それじゃ俺の依頼達成率に響く」
「えっ嘘面倒臭いこの人」
「エンジュ様・・・」
「もうちょっと言い方が・・・」
だって依頼人がいいって言ってるのに受けた本人が納得しないって何なのよこれ。クエストってこういうもんなの?
「じゃあどうしたら気が済むのよ」
「もうひとつ、あんたのクエストをタダで受けてやる。何かして欲しい事はねえのか?また『毒胞子』を採ってこい、でも構わねえよ」
「・・・ないことも、ないけど」
「っ!ダメですよエンジュ様!わかってますね!?」
私が呟くと、シオンが焦って止める。
多分『迷宮に一緒に潜れ』とでも依頼する気だと思ったのだろう。さすがにそこまではしないって。
行くなら気兼ねなくキャズを巻き込むもの。
「っ、なんか寒気が」
「あらキャズちゃん勘がいいわよね」
「また変な事考えて・・・!」
「なんだ?何かあるなら言ってみろよ。なんでも叶えてやるから」
「とても素敵なお誘いだと思うんだけど、今のところ特にないのよ。・・・貸しひとつ、じゃあダメかしら?」
「貸し、ねえ?」
「結構お高いと思うのよ?S級冒険者に貸しひとつ、って」
「・・・あんますっきりしねえが。わかった、そういう事にしといてやる」
憮然とした『獅子王』。
私の手にジャラリ、とチェーンを載せた。何?と思って見るとさっきのタグが渡された。
キャズはそれをギョッとして見ている。
「んじゃ、これはあんたに預けとく」
「え、何これ」
「ちょ、ちょっとお待ちください『獅子王』様!」
「それは俺の冒険者証だ。これは俺の命綱みたいなもんで、冒険者にとっちゃ命より大事にするもんだ。貸しを返すまでこれはあんたに預ける」
「・・・重すぎるわよそんなの。いらないわ」
「これは俺のケジメみてえなもんだ。預かっといてくれ」
「これって逆に私が借りを作ってるみたいなものじゃないの?これを預からなくても、貴方が私を騙したり裏切ったりする事はないでしょう?」
「それがあんたの手元にあれば、俺はあんたのものって事になる。他の貴族共にちょっかいかけられずに済む、ってのは俺にとっちゃラッキーだが、裏を返せばそれがあればあんたは俺に命令できるってことだ。俺としてみれば何があってもあんたを優先できる」
「んんん?それって自ら鎖を付ける、って事?」
「ま、そういうこった。あんたになら縛られてもいいと思ったんだよ。しばらく俺はここを拠点にして多岐型迷路を調査してる。ギルド本部からの依頼が終わってねえしよ。
その間、それはあんたに預けとく。なんかして欲しい事決まったら返してくれ。優先して頼み事を聞くからよ」
「・・・これ以上譲らないってことね?」
「そういう事だな」
*******************∧
これ以上話しても平行線だな、と思った私は切り上げる事にした。彼が自分の誓いの中で譲れない一線があった、という事なのだろう。それを消化できるまで預かってあげることにした。とりあえずマジックバッグに。
なんだかんだと時間がかかり、キリ君が先に帰っていたので私も魔術研究所へ戻ることにした。
シオンが送ります、と言ってくれたので甘えることに。
「驚きました、レオニードが貴方にタグを預けるとは」
「まあ、本人の譲れない部分があったんでしょうね。私としてはちゃんと『毒胞子』持って帰ってくれたから特に問題はないんだけど。プロの矜持ってやつなのかしら」
「わからなくはないですけどね」
メイン通りがやたらと混んでいるので、少し脇道に入ることに。治安が悪いわけではないし、シオンもいる。
特にガラの悪い人に絡まれる事もないだろう、と思っていた矢先、フラグが立ちました。
「ちょっと待ちなさいよ」
「・・・呼ばれてるわよ?副長さん」
「いやあれはエンジュ様に向けてなのでは」
「無視してんじゃないわよオバサン!」
「ナメてんじゃないわよ」
「無視してるって決めつけるの早くない?」
「いえあれはもう決め台詞なのでは?」
「こそこそ話してんじゃないわよ!」
「そっちの騎士様は関係ないんだから引っ込んでて!」
「ですって」
「エンジュ様・・・煽ってますからそれ」
当たり前じゃない、こんなテンプレなイベント。
路地の向こう、女の子が1人。そして後ろには2人。
どこかで見た事があるような、ないような?
「調子に乗ってんじゃないわよ!」
「返しなさいよ、『獅子王』様の冒険者証!」
「あんたなんかが持ってていいものじゃないわよ!」
「返すなら本人に返すわ」
「口答えしてんじゃないわよ、調子に乗って!」
「あんたみたいなオバサンが、あの方に構ってもらってヘラヘラしてんじゃないわよ!」
「男を侍らせていやらしい!そんな女に『獅子王』様に近づいて欲しくないわ!」
「・・・近付かないから帰っていいかしら」
「何よ、下手に出ちゃって!」
「二度とギルドに来るんじゃないわよ!」
「オバサンはオバサンらしくしてればいいのよ!『獅子王』様に近づかないでよ!」
あっこれもう、ループするやつだわ。
結局何を言っても罵られるやつでしょ?とはいえこの子達にタグを渡したらとんでもない事になりそう。主にキャズが怒り狂いそう。
ちなみにシオンの顔が笑顔でキープされたまま動きません。
目が笑ってないのでこの後が怖いです。
すると、痺れを切らしたのか1人の子が何かを振りかぶった。
瞬間、シオンが私をかばう位置に出る。
え、シオンが怪我するのもイヤなんだけど!
「っ、イタタタタタ!痛いっ!」
「きゃあっ!何すんのよ!」
「いや、苦しいっ!」
「え?」
「・・・、誰かいます」
すたん、と彼女達と私達の合間に影が降りる。
ふわり、とメイド服が翻り、私に向けて一礼。
「・・・遅れまして申し訳ございません。お聞き苦しいものをお聞かせ致しました。御容赦の程を」
「・・・オリアナ?」
「はい。しばしお待ちください、こちらを片付けます」
「いたっ、痛い!」
「何よこれっ」
「腕が、痺れ、て」
「ど、どうなってるの?」
「糸、ではないかと」
「糸?」
芋虫のように転がる彼女達、
どうやら特殊な糸?のようなもので動きを封じられている様子。まあ誰がやったかなんて一目瞭然。
オリアナは冷え冷えとした目を向け、蹴り上げた。
「浅ましくも我が主になんという無礼か。身の程を知れ」
「ひっ、」
「ごめ、ごめんなさ」
「なにこ、れ、舌が、しびれ」
「よもや五体満足で帰れるとは思うな」
「やめ、たすけ」
「おねが、い、しま」
「しゃべ、れ、な」
「ちょちょちょ、オリアナさん!何してますか!」
「お気にかける事はございません、痺れ薬を使っただけです。この者達はきちんと処理致しますので御安心を」
「できない!ものすごく不安すぎる!」
「大丈夫です、薬で記憶をなくして放り出しますので。
今ここで起きた事はキレイさっぱり忘れます」
「えーと、生かして帰すのよね?」
「消した方が良ければそのように」
「五体満足でお帰しください」
「かしこまりました、我が主」
な、なんだかわかんないけど助かった?
でも何でオリアナが?王宮を守るのが仕事では?
私はシオンに連れられ、そこを後にしたのだった。
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