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森の人編 ~種の未来~
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しおりを挟むなんとなくしどけない獅子王。
それを察してなのか、青髪君は恐る恐る近付く。
「おはよう、ございます」
「おう。揃ってんな、用意は出来てんのか」
「あ、はい。大丈夫です」
「んじゃ移動すっかね」
歩きだす方向からすると、昨日の場所ではなさそう。
私も獅子王の歩く方向へ足を向ける。
青の均衡の皆さんの横を通ると、小さな声。
「っ、不潔」
「ミレイユ!」
「だってそうじゃない、しかも二人なんて。
あの女も何考えてんのよ、獅子王様にそんな事させて」
「いい加減にしろよミレイユ、この事に対して俺に何を言おうとパーティメンバーとして仕方ないのかと大目に見るが、レオニード様の事に口を出すな」
「ジョシュアだってあのエルフ達とそういう事したいって思ってるんでしょ?私達の想いを知ってるくせに!」
「あのな、ミレイユ。今そんな事・・・」
「今じゃなきゃいつ言うのよ!」
だんだん声が大きくなっていきます。
もう最後なんて叫んでます。
その場で揉めている彼等に、獅子王が一声。
「おい、人様の土地で痴話喧嘩してんじゃねえ。さっさとついて来い」
「っ、はい!すみません!」
「なによなによ、バカにして」
「ミレイユ、行きましょう。私達はここへ何をしに来ましたの? 冒険者として成すべき事をしましょう」
「シェリアだって納得してないでしょう?」
「・・・それは、その。そうですけれど」
えっ何この子達…まさか付き合ってない…とか?
もしかして、青髪君に向けて、シェリアさんとミレイユさんの一方通行な感じ…?マジで?
ウルズ君とキール君は『おい始まったぞ』という顔をしている。
先に歩き出した獅子王を追い掛けつつ、私は振り返って彼等を見る。女同士まだ話をしているが、男性陣はこちらへ向かって歩き出している。
私は青髪君を手招きして呼ぶ。察してくれたのか、1人だけ走ってきてくれた。
「すみませんレディ、お見苦しい所を」
「ねえ青髪君、貴方、彼女達とお付き合いしているんじゃないの?」
「え、あの」
「違うの?青髪君」
「・・・あの、レディ?俺には一応『ジョシュア・カーバイド』という名前があるんですが」
「だから何?」
「いえ、すみません。彼女達、というのはシェリアとミレイユの事ですよね?」
名前を呼んでください、って事?
いや別に呼ばなくても伝わるし。それに呼ぶほど私君の事知らないし。認めてもらいたいならそれなりの成果を出して欲しいかな。なんて。
「・・・他からどう言われているのか、自分でも認識してはいます。シェリアは幼馴染で、同じ村の出身なんです。村には同じ年齢の子供が少なくて、俺達はいつも一緒でした。
それは成人の儀を終えてからも同じで、『剣士』のスキルが認められた俺が村を出る時に、『僧侶』のスキルがあったシェリアも一緒に出てきたんです」
「テンプレきた」
「え?」
「いえ、なんでもないの、続けて?」
聞きました?テンプレ来ましたよこれ。
幼馴染からの冒険者パーティ、その後はできちゃった婚でしょう。
これは男が鈍感パターンか、近くにいすぎて妹としてしか見れないパターンか。
「村から1番近い大きな町で冒険者ギルドに入って、最初にできた仲間がウルズです。その後にキールや別メンバーも入り、多少メンバーの出入りもありましたけど、一年前からミレイユが入って、今の形になりました」
「ふーん」
「・・・想いを寄せられていることは知っています。俺もそこまで鈍感でもないですし、シェリアもミレイユも大事だと思ってます。
ですが、パーティ内でそうなる事は嫌なんですよ。いざと言う時に動けなくなりますから」
「それは彼女達にもきちんと伝えているの?
『パーティメンバーである以上、それ以上には見れません』と」
「伝えている、つもりです。けれどシェリアは『傍に居られればそれでいい』、ミレイユは『諦めるつもりは無い』と・・・」
「うっかり手を出してないわよね?」
「手を、というのはつまり」
「抱いてないわよね?って事よ。まさか口だけで手は出してます、なんて事してないでしょうね?
確かに依頼で何日も外で野営とかする時もあるでしょうし、そんな時に迫られたら危ないのもわかるけど」
「ありませんよさすがに。ウルズもキールもいるんですよ?」
「そこは自覚があるのね」
「確かにそういうパーティもいるとは聞いてますが・・・」
俺もそう見られてるんですか…と落ち込む。
いや、だって『ハーレムパーティ』なんて言われてるみたいだし。てっきり2人とも手を出してるのかと。
「・・・ごめんなさいね、この際だから聞くけど、以前のメンバーが貴方を巡る恋愛事情で抜けたと聞いてるのだけど」
「正直、それで数人抜けたりしているのは事実です。はっきりと『パーティメンバーにはそういう事は考えられない』と告げると出ていくので。
ウルズにもキールにも迷惑をかけていることは承知の上ですが、長く付き合っている仲間だからか、理解をしてくれてます」
「・・・まあそのおこぼれに預かっている、という事もあるかもしれないけどね」
「鋭いですねレディ、ウルズが以前付き合ってたみたいです」
なんか、合コンにイケメン連れてって、その人目当てに寄ってきた女の子を周りの友達が頂いちゃう、という図が浮かびました。
青髪君にその自覚はないと思うけど、モテ属性なのね。まあ確かにイケメンだしね。APPいくつだこの野郎。
「・・・13、ね。そりゃ仕方ないか」
「え?年齢ですか?俺は21ですよ」
「あらそうなの、若いのね」
「冒険者になって、7年です。色々ありましたけど、まだまだ上を目指していきたいんですよ」
7年か。成人の儀っていくつでやるんだっけ?
地方と王都じゃまた違うのかしら。話からすると、13から14くらいで成人と見なされるのかしら。
「ここへ来たのは、『渦』のことを知って?」
「ええ、そうです。ギルドマスター直々に話を貰いました。その、『繁殖活動』については現地で決めろと」
「してあげたら?人助けよ、ある意味」
「・・・レディ、直球ですね」
「いいじゃない、キレイな子と気持ちいい事できて、人助けにもなって、自分の欲もさっぱり。あの二人が彼女だと思っていたから手を出しにくいのかと思っていたけど、そうじゃないなら気兼ねする意味がわからないわ」
「彼女達の事を思うと」
「ねえ、これは私の勝手な意見だけど。
貴方がそうやって、彼女達に応える気もないのに気がある素振りを見せるからややこしい事になってると思うんだけど?
それとも何?彼女達のうちどっちかを自分の女にする気が少しでもあるの?」
「それは・・・」
「ないならキッパリ切り捨てなさい。変な期待を持たせない。その期待を持たせている間、彼女達は他にいい男がいても、そっちに目を向けられないのよ。貴方がいる限り」
「・・・そう、ですよね」
「彼女達に対して、責任を取るつもりがあるならいいのよ。そうやっていつまでも『自分の事を好き』でいてもらいなさいよ」
「そんな、つもりは」
「ないわよね。わかってるわ、見れば。
でもね、そういう事なのよ。時間は有限だわ。あの子達の1番綺麗でいる時間が貴方で消費されてくのよね。
貴方も同じよ?いつまでもそんなに若くてイケメンでいられるとは限らないんだもの」
「・・・レディ、俺の事いい男だと思います?」
「いや、ヘタレだと思ってるわ。貴方アルマに比べたら残念すぎるイケメンだもの」
「はは、レオニード様に比べられると痛いですね」
「女を抱いたことがない、って、訳じゃないんでしょ?
ここはひとつエルフのお姉さんといい事して、自分は生身の男なんだ、って見せてあげたら?」
「生身の男、ですか?」
「ええ、女も抱くし、汚いことも考えるゲスい男なんだって」
「待ってください、ゲスいって」
「あら、可愛い女の子を自分の為に飼い殺しにしてチヤホヤされる事を楽しんでいるのに『ゲスい』って言わないの?」
「うぐっ」
クリティカルヒットを出しました。
だって聞いてると『お前はオタサーの姫か』って思っちゃったもの。いい男を2人振り回している私が言えた立場じゃない事は100も承知だけどね!
あれっ?これ自分にもブーメラン返ってきてる?
ダメージを受けている青髪君が、ガリガリと頭をかきむしって私を見た。完璧なまでのイケメンスマイルを繰り出す。
「レディ、今日俺と一晩過ごしてもらえませんか?」
「貴方、アルマよりも私を満足させられる自信がある?」
「うぐっ・・・、さすがに無理ですね」
「なら諦めてね?」
「・・・はあ、少しは反撃できたかと思ったんですが」
「それは甘いわね。貴方今日私に負けたら、エルフのお姉さんを・・・そうね、5人は引き受けてもらおうかしら」
「ええっ!?」
「アルマは10人引き受けさせたのだから、半人前という事で半分。後はウルズ君とキール君で頑張ってもらおうかな。
大丈夫よ、『渦』の討伐に行ったら、精神が高揚して女が欲しくなったりするんじゃない?」
「・・・ない、とは言いませんけども」
「なら決まりね」
すると、青髪君はちょっと生意気そうに笑った。
ちょっぴり、ドキッとする。いけないいけない、私オラオラ系に弱いんでした。
「いいでしょう、受けますよ。レディ、俺に勝てるつもりですか?」
「貴方こそ私に勝てるつもりなの?ジョシュア・カーバイド」
「女だろうと手加減しませんよ」
「安心して、私、治癒魔法使えるから、死ぬ事はないから」
「・・・楽しみにしておきます」
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