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森の人編 ~魔渦乱舞~
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私は疑問に思った事を口に出してみた。
世界樹の守護者ならば、この問いに答えを出してくれる?
「あの、世界樹の守護者」
『済まぬな、渡り人よ。我では其方の問いには答えてはやれぬ』
「え・・・」
『かの昔、其方と同じように世界の扉を開けてこちらへ来た者が同じように問うた。自分がここに来た意味を、と。其方の問いも同じか?』
「・・・はい」
『その問いに答えられるのは、神だけであろうな。
我はこの世界樹を護る者であり、それ以上の事は知らされておらぬのだ』
「そう、ですか」
『何か答えをやれれば良いのだがな。
・・・人は生きることに意味を見出す生き物なのだったな』
「生きることに、意味を、見出す」
『そうだ。森の人はどちらかというと生きる事にも受動的であるな。意味を見出そうとする個体もたまに出るが、人の子程ではあるまい。
森の人はそこにいる事で意味がある、と理解をしているようだが』
「そこにいる事で、ですか」
『そうだ。その時、そこに『存在』している事で、世界を回す意味があると。確かに世界はそう回っているのだが。・・・上手く伝えられているかどうか難しいのだが』
そこにいるだけで、意味がある。
ちょっと目から鱗が落ちる感覚だ。
ただ意味もなく生きている…そう思っている人も少なくないだろう。
しかし、それこそが、『存在理由』である、という。
『今回、其方があの郷にいたからこそ、此度の渦は収束を得た』
「えっ、でもそれは他の人でも」
『───確かにそうかもしれぬな。だが、我に葉をくれたかはわからぬ。枝を育てる事ができたかわからぬ。
誰一人欠けることなく、その場にいたからこその、今だ』
ふわり、と優しい風が駆け抜ける。
まるで、世界の全てが『そうだよ』と同意をしてくれているようだ。
私だけではない。
世界の全てが───ここだけではなく、あちらで生きる全ての人に、動物に、植物に。全ての『存在』に『意味』があり、無駄なんかじゃない。
わかっているようで、忘れてしまう。
あるがまま、ありのままに。偶然ではなく、必然。
『─────腑に落ちたか?』
「はい。なんだか悩んでいた自分がちっぽけに感じます」
『良い。そうやって悩む事こそが、大事なのだから。考えもしない事はあまり好ましくない。今の森の人のように停滞してしまうからな』
「停滞、ですか」
『それだけではないが、それ故に種の危機に瀕しているだろう。他種族の風を入れることで補う事を続けているが。
森の人もまた危なかった。風を引き入れることを選ばなければ、そのまま消えていただろうな』
「・・・もし、そうであっても見守り続けたのですか?」
『そうだ。我は見守る事が使命ゆえ』
この人は世界樹の分身。
…本体が『木』だからなのかしら。変わることは許されない、のかな?
『さて、其方にはまだ話すことがある。あの世界樹の枝なのだが、其方の家の庭に持ち帰ってもらえぬか』
「えっ!?」
『昔なのだが、枝から成長させた若木を譲る約束をした事がある』
「だっ、誰とですか?」
『愛し子の影、と言っていたが。其方の知り合いであろう。その腕輪の魔力の主だ』
「えっ!?まさか、セバス!?」
『そうか、あの男はセバスという名であったか』
「昔、という事は、その。セバスにここへ来ることを言った時に『刺激しない方がいいでしょうから』と言われたのですけど」
そういうと、世界樹の守護者は少し笑ったかのようだった。
長い話になるのか、座り込んだ。私にも座るように薦める。座れそうな切り株があったので、腰を下ろした。
すると、どこからともなくお茶が。周りを見渡せば、透き通った人影がすっと消える。
「え、いまの・・・」
『ここには既に身体を失い魂だけとなった者がいる。たまにそうして客人をもてなしてくれる。重宝していてな』
「死んでる人、ですか」
『世界樹のふもと、というのは『死者に会える場所』としても知られる。会えるのは一生に一度だ。ここ最近は訪れる者が減っているな』
まさに死後の楽園なんですけど。
エルフの郷の名前、やっぱりわかっていて付けてるんじゃないの!?少なくとも、郷を作った人は絶対に知ってて付けてる。間違いない。…今いる人達が知っているかどうかはわからないけど。
『少し前・・・そうだな、人の感覚では50年近く前の事か。世界樹の葉を貰い受けたいと言って、この庭へ侵入してきた者がいてな』
「ご、50年前、ですか」
『そうだ。なんでも人の世では病が流行っていたようだ。人の間では世界樹の葉は万能薬として知られているらしい。そのような事はないのだが』
ふわり、と風が吹いて、私の前に一枚の葉が舞い降りる。
手のひらを出すと、そっと手の中へ落ちた。
あの生きてる杖に生えていたものより、ふた周り程大きい。桜の葉に似ているが、柏の葉くらいの大きさ。
断って鑑定をしてみることに。鑑定魔法をかけた結果、なんだか小難しい内容が出てきたが、私の見解では『色んなものの効果が上がる…かもしれない』というような事だった。
「・・・・・・なんです、これ」
『まああれだ。・・・効果は推して知るべし、という事か』
「多分違います。効果が上がる?んですか?」
『世界樹の葉、というのは高密度の魔力を蓄えているのだ。それをどう扱うかはその者によるだろう。我が食べて己の力を補ったように』
「ん?だとすると、回復薬に漬けたら威力が上がったりするとか?」
『そういう使い方も出来ような。故に、人界に流す事は許容できなかった。人の世ではその流行病の薬もなかった。下手に使われたら、その流行病が爆発的に拡がることもあったろう』
流行病。50年前。セバス。
結び付くのは、ゼクスさんの兄弟姉妹が亡くなった、という流行病の事。…もしかしたらセバスは、ゼクスさんや先々王陛下…ジェムナス陛下の命を受けてここまで来たのかもしれない。
その時、もしかして無理やりにでもここへ来たのでは無いだろうか。今は世界樹の守護者も朗らかに話をしてくれているけれど。
「あのー。その時、ご迷惑をかけたりは・・・」
『そうさな、枝を折って行こうとしていた故、少しばかり仕置きをさせてもらった。人の世にもあれだけの事をしてもピンピンしている者がいるのだな、と感心さえした。
あの者がまだ生きているのならば伝えてくれぬか?存外に楽しかった、手足を引きちぎっても生やすなどどうやったのだ?と。其方は方法がわかるか?』
「わかりません」
聞いた私が悪かった。ものすごく怖かった。
手を?引きちぎって?どうしてそうなった。
そしてセバスは手足生やしたの?どうやったの?治癒魔法使えたんだっけ?本当の事を聞くのも怖い。
『しかしその者が生きているのなら、また顔を見たいものだ』
「やけに興味持ってますね」
『あれはハイエルフと人の子のハーフ故な。
我の前に来た時も既に初老の姿であったが』
「えええええええ!?ハーフエルフ!?」
せ、セバス…貴方ハーフエルフだったの!?
そう言われれば、確かにその気はあった。だって、ゼクスさんに仕えてるけど、先々王陛下の時から『影』だったって言ってたもの。そしたら今幾つ?って話じゃない?
セバスの見た目は、50代後半くらいだ。
ゼクスさんもその位に見えている。…魔法を使っている人は、老化が遅くなるという説があるため、ゼクスさんに関しては少し年齢よりも若く見えている。本人おじいちゃんみたいにしてるけど。
その後も色々と話をされたが、こちらが驚くことばかりだった。
あの観葉植物状態の世界樹の若木は、タロットワーク邸に持ち帰って研究してみることに。
世界樹の若木を経由し、世界樹の守護者は移動が可能なので、たまに様子を見に行く、と。
まあそれもいいか、と安請け合いして私は帰ることにした。
…多分、世界樹の守護者の興味はセバスなんじゃないかと思うのだけどね。
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