9 / 85
第一章【黒】
満ちる月
しおりを挟む昼飯はナポリタン。量もそうだが味も満足だ。食後にまた珈琲を入れてもらい、しばしの休息。すると、ダグがカウンター越しに俺の前へ来た。何か話があるらしい。
「・・・何だ?」
「薬草の事だが、その後どうだ?」
「あー、まぁなんとか少しは確保できた。通常の量よりは足りないが、とりあえず王都ギルドに連絡をして詳細は伝えてある」
「そうか。あいつらの事に関しては何かあるか?」
この『片翼の鷹亭』は王都ギルドからの紹介で来ている。なので今回の採取クエストについてもダグは俺よりも詳しいかもしれない。毎回王都ギルドはこの宿を常宿にしているそうだから。
俺もギルド長に何かあれば宿屋の主に相談してもいいと許可を貰っている。なので今回の商業都市ギルドとのいざこざもいい機会なので話しておく事にした。追い出した所から、おそらくダグも個人的な伝手を駆使して相手側に連絡をしているとは思うが。
「そうか、そういう事か。商業都市ギルドもなんだか反応がイマイチだと思っていたんだ。ギルド長が変わっていたとはいえ、ここまで杜撰だとはなあ」
「国王に奏上したってんだから、商業都市の長には間違いなく報告・・・苦情が行ってるだろう。そこからギルドへ何らかの対応をしていると思うが、アイツらにどんな指示が来るのかはわからないからな」
「・・・そうか。ならとりあえず俺からはいい事を教えてやろう。魔女の香草についてだ」
「・・・何?」
ダグの情報は驚くものだった。魔女の香草は春分と秋分の日の前後3日間だけ収穫可能になるという。その3日間を逃すと、花から光が消えるという。
「な、あんた、そんな情報どこから」
「どこから・・・と言われてもな。随分長い事ここで宿屋なんてやってれば、毎年同じ時期にギルドから採取クエストに冒険者が来る。そこで話を聞いてりゃ想像に固くないって事さ」
「~~~っ、そういう事かよ」
言われてみればそうだ。毎年同じ時期に同じクエストしに来る奴がいて、採取成功したのかどうかだってわかる。『何かあれば相談してもいい』ってのはこういう事かよ!
「腐るなよ、情報を出すのも人を見てるからな?」
「ああそうかよ、感謝するぜ」
「お前にゃ見どころがあるからな、これで明日は採取可能だってわかったろ?今年の秋分は明日だからな。でも油断するなよ?ちなみに最高品質の魔女の香草が採取可能なのは朝日が昇るまでの間だ」
「は!?なんだよそれ!?」
「おいおい、よく考えればわかるだろ?月の光を吸収して花に光を宿すんだ。日が昇ったら徐々にその光は薄れていく」
『これまでの奴らは、花に宿る光が日が昇るにつれて徐々に消えてく事に気付くのに2日かかるんだ、だから採取できるのは最終日の夜から朝にかけてが多いな』と笑うダグ。ちくしょう、教えてもらわなかったら俺も仲間入りかよ。
だが、教えてもらったからには最善を尽くさなければ。俺の移動速度ならば可能だが、今回は満を持して夜中から見守る事にした。ジーナは心配そうだったが、ダグは満足そうに俺を送り出した。やっぱり夜から見張るのが正しい選択だったという訳か。試されてたな。
□ ■ □
深夜の森。昼間も静かなものだったが、夜になると真なる闇の洗礼を受ける。覚悟はできていたので、魔力で動くランタンを持ってきている。それでもあまり強い光を使う訳にはいかないから最小限だ。森の霊獣が寄ってきても困る。
昼間よりも慎重に進み、泉に注ぐ湧き水の音が聞こえてくると少し安堵する。奥地の採取エリア、そこは煌々と月灯りが降り注いでいた。
「・・・絶景だな」
柔らかな月灯りが魔女の香草へ注がれる。淡い燐光が薬草全体を包み、光の粒子が周りへと散っていた。これで妖精とか精霊とか出てきても全く違和感はない。
あまり近くで見ているのもなんだ、俺は少し離れて淡い光の乱舞を見守る事にした。水筒を取り出して飲むと、中身は暖かいハーブティーだった。…どこかで飲んだ味だ、と記憶を辿るとヒナの家で飲んだものと同じだった。
「ダグの店でも出してるのか?村の雑貨屋で売ってんのかもな・・・」
このハーブティーを飲むとホッとする。張り詰めたものがほぐれていくというか。それでいて頭の中はちゃんと冷えているから考え事を遮る事もない。
王都に戻る前に少し土産に買っていくとするか。
10
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる