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第二章【氷】
賢者の知恵
しおりを挟む感慨深く沈んだ爺さんの代わりに、俺が茶を入れる事にした。折角なのでヒナにもらったハーブティーを馳走することにする。
「・・・む?これは何処で手に入れた?」
「これはその『黒』の魔女にもらったもんだ」
「そうか・・・」
「何だ?」
「・・・儂の師匠も同じハーブティーを作っておったよ。懐かしい味だ。このハーブティーは『黒の姫』のオリジナルだったのじゃな」
「『黒の姫』ってのは、『黒』の魔女の事か」
「そうじゃ。系譜の魔女や魔法使いは『古の魔女』の御名を軽々しく呼ぶ事は許されぬ。直属の弟子ならば良いのだろうが、我等が呼ぶ事は出来んよ。何があるかわからんからな。そこで彼の御方を呼ぶ際には通り名を呼ぶのじゃ。
・・・お主にもあるだろう、『閃光のスカルディオ』という名がな」
「やめてくれあれは黒歴史なんだ」
ああくそ、どこの夢見がちな奴が付けたのか知らないが、その通り名を聞く度に身震いする。確かに魔力を纏わせた剣を振るうと光の剣閃が出るが、だからってそのネーミングセンスはどうなんだ!
「お主の呪いは『緋』の魔術であったか。ひとつならば儂にも何とかなろうが、確かに黒の姫の言う通り混じりあっておるの。これでは『緋の系譜』か『緋』の魔女本人でないと危なかろうて」
「なあ、俺にはわからんが『系譜』が違うとそんなに魔術に違いがあるもんなのか」
「そりゃそうじゃろ。力を借りる大元が異なるからの」
爺さんの説明に寄ると、『系譜』というのは単に魔女の属性の区別ではなく、魔女となるべく契約をする時に呼び出す魔神や精霊などの種類が違うそうだ。
『白の系譜』は主に精霊や幻獣との契約が多く、『緋の系譜』は悪魔や魔神が多いのだとか。
「じゃあ『黒の系譜』は?」
「知らん」
「は?待ってくれ爺さん弟子だったんだろ?」
「それはそうじゃが、師匠は教えてはくれんかったのでな」
「・・・おいおい」
「詳しく説明もできるにはできるが、魔法使いでもないお前さんには無用の知識じゃろうよ」
まあ確かにそうだ。そもそもだな、と爺さんの得意な講釈が始まってしまったので、俺は耳を傾けつつもスルーする、というスキルを発揮する事にした。
□ ■ □
「そういやお主、儂に何か用があったんじゃなかったか」
「・・・あ、ああ、そうだった」
「相変わらずじゃのう」
いや、それはいつも爺さんの長い話に全てを忘れ去ってしまうからだ、とは思ったが口には出さない。ひねくれられても困る。
俺は亜空間倉庫から、例の保存容器を取り出した。皮のケースを取り去ると、爺さんは真剣な目になる。
「・・・また厄介な物を持ち込みおって」
「爺さん、これが何だかわかるのか」
「儂も過去に一度しか見た事はない。師匠の所にいた時に、師匠の知り合いの冒険者が持ち込んだ呪物じゃ」
「呪物!? ・・・くそ、やっぱりか」
「やっぱりとは何じゃ」
俺は、王都ギルドで起こっている事を話す。この羽根を見つけた冒険者パーティ達が昨日から目を覚まさない事、王都の大学の研究者達に見せたが何もわからない事、そしてギルド職員もこれを直に接触している事。
すると爺さんは難しい顔になる。そして過去に見た時のことを教えてくれた。
「あの時も、何処ぞの遺跡から発掘したと持ち込まれたはずじゃ。ギルド経由で師匠の所へな。そこではすでに犠牲者が出ていた」
「眠りから覚めない、か?」
「いや違う。それは初期段階のはずじゃ。この呪いは徐々に広がり、接触した者を石化させる死の呪いでな」
「石化!?」
「そうじゃ、生きながらにして体の機能が石化していく。眠りから目覚めないのは呪いの初期症状でな、そこから更に四肢の末端から石化するはずじゃよ」
「嘘だろ、おい。どうすりゃいいんだ?」
「師匠は薬を調合して渡しておったがな・・・しかし儂はその調合方法を知らん。しかも材料の一部は魔女が育てた薬草でなければ作れないはずじゃから、儂が知っていたとしても材料が手に入らん」
爺さんが言うには、完全に石化する前に薬を飲めば命は助かるらしい。石化した部分についてまでは完全に治るかはわからない、と言う。爺さん自身も患者を間近で見たわけではないからだ。
だが、師匠である『氷の魔女』は『厄介よねえ』と淡々と言っていたそうだ。
「すまんな、力になれず。一応ダメ元で師匠に連絡を取ってはみるが・・・」
「ああ、頼む。なんなら俺が直接訪ねてもいい」
「いやそれはやめておいた方が良かろうな。お主が如何に熟練の冒険者であるとはいえ、あの永久凍土には近づけぬよ。あそこは『氷の魔女』が認めた者以外は容易に近づけぬ」
爺さんに頼むしかないのか。俺はこの情報を王都ギルドに渡すべく、急いで戻る事にした。もしかしたらもうロロナ達にも石化の症状が出ているかもしれない。
爺さんには『何があってもその容器から羽根を出すな』と厳命された。俺だって死にたくはないからな。
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