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第三章【情】
緊急クエスト
しおりを挟む「あっ、シグムント、よかった」
「ナターシャ、何があった?」
「何が、というか・・・」
うほん、という咳払いに顔を向ければ、それなりの飾りがついた服を着た奴が立っていた。…貴族だな。貴族でないならコスプレか?
「依頼人はアレか」
「・・・口の聞き方を知らぬと見える。まあ良かろう」
「・・・悪いが、俺はまだ『受ける』と言ってないんだが?断ってもいんだぜ、オッサン。俺以上の適任者がいるんならな」
「っな、無礼な!」
「仮称ゴールドさん?こちらの人は当ギルド所属のクラスS冒険者です。こちらの人が嫌なら無理に依頼できませんので他の人が見つかるまで待つことになりますが、よろしいのですね」
「・・・クラスSか。ならば我慢してやる」
殴り倒したい気になるが、ナターシャは『無視して』と小声で囁いてくる。こういう奴は多くいる。自分の身分が誰にでもどこにでも通用すると勘違いしている奴が。
王都ギルドは基本的に飛び込みの依頼を請ける事は稀だ。きちんと下調べをしてから各冒険者へ依頼を出す。たとえ王族といえどもそれは変わらないし、こうやって緊急クエストとして扱うのは本当に国民に多大な被害が出るだとか、災害級のハプニングが起きただとか本当に時間との戦いである時のみ発生するものだ。
だから今回こんな貴族の頼みのようなクエストで呼び出される事なんかないのだが…?
「依頼内容は何だ?ナターシャ」
「簡単にいうと『失せ物探し』ね。建国祭に合わせて王都に来たらしいのだけど、落としたのかスられたのかなくなってしまったんですって」
「あれは本当に貴重な物なのだ!早く見つけ出せ!」
「・・・仮称ゴールドさん?黙っててもらえますか?本来こんな事でクエストをお引き受けする事はないんですよ?嫌なら自警団か王国軍に頼んで頂いてもいいんですけど!」
「うっ、」
ナターシャの静かな怒りの声に、黙る貴族のオッサン。確かに単なる遺失物なら今は自警団か見回りをしている王国軍に頼む方がいいのでは。そう思った俺に、ナターシャは耳を貸せ、と指で招く。
「・・・どうやら、ソレ、曰く付きの品みたいなのよ」
「曰く付き、だと?」
「ええ。自警団に最初頼んだらしいんだけど、どうやらそれをスった相手、裏に持ち込んだみたいなの」
「・・・最悪だな」
こういった建国祭、という騒がしい祭りの中、裏稼業でも同じように『祭り』が行われる。それは盗品を主にした『ブラックオークション』だ。人の命から、魔力を秘めた一品、果ては呪いの品と言った曰く付きの品までも。
「だからあの人、自警団が手を引いたのを見てここに来たのよ。王国軍に言ったらあの人が捕まるから」
「それだけ『ヤバい品』って事か」
「・・・なんでも『魔女の眼球』だそうよ」
「っ!?」
このオッサン、なんてもんを持ち込みやがった!?下手すりゃ仲間の『魔女』が突っ込んで来たらどうするんだ!聞くところによると、きちんと封印がしてある為、探索魔法にかかることはないとの事だが、それも小箱が開けられてしまえば意味が無い。
ブラックオークションに出されてしまえば、品を確認する為に小箱を開ける事もあるだろう。そうなれば、その『眼球』に反応した別の『魔女』が報復に来てもおかしくはない。
「・・・おいオッサン。なんだってんなもん持ち込みやがった」
「あれは私の主人からの頼まれ物なのだ!私もあんな物騒な物を持ち運びするのは嫌だった!」
「何に使うんだ。呪詛か」
「し、知らん!だが魔術の触媒だろう!それ以上は関わりたくないから知らぬ!」
「・・・という訳。緊急クエストにするしかないでしょう?」
「確かにな。ナターシャ、ワイズマンには連絡は?」
「したわ。ギルドマスターは『万が一』を考えて城に行ったわ。裏の祭りを止めるのは王国軍でも無理だけど、違うツテを頼るって。シグムント、貴方には違うアプローチで止める方法を探って」
「了解。・・・しこたまふんだくれよ」
「当たり前でしょ?破産させてやるわ」
ギロリ、と仮称ゴールドさんを睨みつけるナターシャ。その視線の鋭さに震え上がる貴族のオッサン。
俺は手がかりを集めるべく、まずは自警団の詰所に行く事にした。捜索には手を貸してくれないだろうが、それが裏に回ったという情報をきちんと押さえておきたいからな。
□ ■ □
自警団の詰所へ行くと、何も聞かれず中に通された。中にはそこのリーダーと思わしき中年のオッサンがいた。側には数名の自警団の青年がいる。
「・・・事情を聞かせてくれ。何も聞かず通したという事はどうして来たのか分かっているんだろ?」
「あの男はギルドへ逃げ込んだのか。あのまま王国軍に突き出してやればよかったな」
「そうしたら今頃祭りどころじゃなくなってるよ。とりあえず何があったか手短に頼めるか」
「・・・あんたなら話してもいいだろう、閃光のスカルディオ」
「・・・あ、ありがたい」
ぐああああああ!この名前はこういう時には役に立つが気色悪いのは収まらねぇぇぇ!!!
俺は自警団リーダーのオッサンの向かいに腰を下ろし、報告を聞かせてもらうことになった。
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