魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

文字の大きさ
44 / 85
第三章【情】

緊急クエスト

しおりを挟む


「あっ、シグムント、よかった」

「ナターシャ、何があった?」

「何が、というか・・・」


 うほん、という咳払いに顔を向ければ、それなりの飾りがついた服を着た奴が立っていた。…貴族だな。貴族でないならコスプレか?


「依頼人はアレか」

「・・・口の聞き方を知らぬと見える。まあ良かろう」

「・・・悪いが、俺はまだ『受ける』と言ってないんだが?断ってもいんだぜ、オッサン。俺以上の適任者がいるんならな」

「っな、無礼な!」

「仮称ゴールドさん?こちらの人は当ギルド所属のクラスS冒険者です。こちらの人が嫌なら無理に依頼できませんので他の人が見つかるまで待つことになりますが、よろしいのですね」

「・・・クラスSか。ならば我慢してやる」


 殴り倒したい気になるが、ナターシャは『無視して』と小声で囁いてくる。こういう奴は多くいる。自分の身分が誰にでもどこにでも通用すると勘違いしている奴が。
 
 王都ギルドは基本的に飛び込みの依頼を請ける事は稀だ。きちんと下調べをしてから各冒険者へ依頼を出す。たとえ王族といえどもそれは変わらないし、こうやって緊急クエストとして扱うのは本当に国民に多大な被害が出るだとか、災害級のハプニングが起きただとか本当に時間との戦いである時のみ発生するものだ。

 だから今回こんな貴族の頼みのようなクエストで呼び出される事なんかないのだが…?


「依頼内容は何だ?ナターシャ」

「簡単にいうと『失せ物探し』ね。建国祭に合わせて王都に来たらしいのだけど、落としたのかスられたのかなくなってしまったんですって」

「あれは本当に貴重な物なのだ!早く見つけ出せ!」

「・・・仮称ゴールドさん?黙っててもらえますか?本来こんな事でクエストをお引き受けする事はないんですよ?嫌なら自警団か王国軍に頼んで頂いてもいいんですけど!」

「うっ、」


 ナターシャの静かな怒りの声に、黙る貴族のオッサン。確かに単なる遺失物なら今は自警団か見回りをしている王国軍に頼む方がいいのでは。そう思った俺に、ナターシャは耳を貸せ、と指で招く。


「・・・どうやら、ソレ、曰く付きの品みたいなのよ」

「曰く付き、だと?」

「ええ。自警団に最初頼んだらしいんだけど、どうやらそれをスった相手、裏に持ち込んだみたいなの」

「・・・最悪だな」


 こういった建国祭、という騒がしい祭りの中、裏稼業でも同じように『祭り』が行われる。それは盗品を主にした『ブラックオークション』だ。人の命から、魔力を秘めた一品、果ては呪いの品と言った曰く付きの品までも。


「だからあの人、自警団が手を引いたのを見てここに来たのよ。王国軍に言ったらあの人が捕まるから」

「それだけ『ヤバい品』って事か」

「・・・なんでも『魔女の眼球』だそうよ」

「っ!?」


 このオッサン、なんてもんを持ち込みやがった!?下手すりゃ仲間の『魔女』が突っ込んで来たらどうするんだ!聞くところによると、きちんと封印がしてある為、探索魔法にかかることはないとの事だが、それも小箱が開けられてしまえば意味が無い。
 ブラックオークションに出されてしまえば、品を確認する為に小箱を開ける事もあるだろう。そうなれば、その『眼球』に反応した別の『魔女』が報復に来てもおかしくはない。


「・・・おいオッサン。なんだってんなもん持ち込みやがった」

「あれは私の主人からの頼まれ物なのだ!私もあんな物騒な物を持ち運びするのは嫌だった!」

「何に使うんだ。呪詛か」

「し、知らん!だが魔術の触媒だろう!それ以上は関わりたくないから知らぬ!」

「・・・という訳。緊急クエストにするしかないでしょう?」

「確かにな。ナターシャ、ワイズマンには連絡は?」

「したわ。ギルドマスターは『万が一』を考えて城に行ったわ。裏の祭りを止めるのは王国軍でも無理だけど、違うツテを頼るって。シグムント、貴方には違うアプローチで止める方法を探って」

「了解。・・・しこたまふんだくれよ」

「当たり前でしょ?破産させてやるわ」


 ギロリ、と仮称ゴールドさんを睨みつけるナターシャ。その視線の鋭さに震え上がる貴族のオッサン。
 俺は手がかりを集めるべく、まずは自警団の詰所に行く事にした。捜索には手を貸してくれないだろうが、それが裏に回ったという情報をきちんと押さえておきたいからな。



     □ ■ □



 自警団の詰所へ行くと、何も聞かれず中に通された。中にはそこのリーダーと思わしき中年のオッサンがいた。側には数名の自警団の青年がいる。


「・・・事情を聞かせてくれ。何も聞かず通したという事はどうして来たのか分かっているんだろ?」

「あの男はギルドへ逃げ込んだのか。あのまま王国軍に突き出してやればよかったな」

「そうしたら今頃祭りどころじゃなくなってるよ。とりあえず何があったか手短に頼めるか」

「・・・あんたなら話してもいいだろう、閃光ひかりのスカルディオ」

「・・・あ、ありがたい」


 ぐああああああ!この名前はこういう時には役に立つが気色悪いのは収まらねぇぇぇ!!!

 俺は自警団リーダーのオッサンの向かいに腰を下ろし、報告を聞かせてもらうことになった。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ
恋愛
 初夜の最中。王子は死んだ。  犯人は誰なのか。  妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。  12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】瑠璃色の薬草師

シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。 絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。 持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。 しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。 これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...