墓場の主と魔王様

てぃきん南蛮

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「こちらが今晩のお部屋です」
湯を浴びてからネネに連れられてやってきたのは、魔王城の客間。一馬の今晩の宿である。
「夕食は後程お持ちします。何かご入用でしたら、こちらのベルを鳴らして頂けましたら別の者が仰せつかります」
「……ネネは?」
「わたくしには別の仕事がございます故、申し訳ございません」
「ああ、いや……大丈夫」
ネネが退出し、やっと一馬は一人きりになった。
暫く呆然と立ち尽くしていたが、フラフラとおぼつかない足取りでベッドへ近づく。そして汚れも気にせず、ベッドへうつ伏せにダイブした。
疲労が蓄積した体を、今日一馬を受け止めてくれた羊といい勝負の柔らかさが受け止めてくれる。
シーツの海で弱々しくもがきながら、ようやっと押し寄せてきた現実の処理をしていく。

…………異世界転生を、した。
本当に?夢でもドッキリでもなく?
元の世界の俺はどうなった?
最後の記憶は、こちらに向かって急発進する大型トラックのライトのみ。
……本当に、死んだのか?
仕事もない?
金もない?
家もない?
今まで積み上げてきた物が、たった一瞬で全てなくなった???
「……ハハ」
死に物狂いで頑張ったこの数年の人生はどうやら幕を閉じたらしい。
苦労に似合わぬ、あまりにも呆気ない終わりに自嘲のような乾いた笑いが込み上げた。
ついさっきの出来事である筈の、妹からの結婚報告がまるで遠い昔のようだ。
そこではたと、思い出す。
そうだ、妹が結婚したのだ。
「婚姻届を提出しました」のテキストだけの、味気ないやり取りだが鮮明に思い出せる。

妹が結婚したその日に、死んでしまった。

一気に血の気が引いて、激情のあまりベッドを殴りつけた。
「…………っざけんな……!!!」
今までの人生、決して楽しいことは多くなかった。むしろ後半は吐きそうな程しんどかった。
それでも踏ん張れたのは、妹だけは幸せにしなければという使命感からだった。

井上一馬は母を殺した。

井上一馬は父を殺した。

井上一馬は、親しい者を次々と殺す体質を持つ。

誰も知らない、秘密の罪。
一馬だけが薄らと感じている、誰も信じない謎の現象。
妹から、母を奪った。父を奪った。祖父も、祖母も奪った。
残された一馬が、何とか妹が幸せになるまでを見届けなければいけなかった。
その道は決して楽ではなかった。何もかも捨てて自由になりたいと、何度思ったか。
それでもギリギリで踏みとどまって、なんとか人としての幸せを掴んでもらったのに。

最後の最後で、一馬が全てを台無しにしてしまった。
妹が結婚した日に死んでしまうなど、なんて不幸者だ。

ブチリ

頭の奥で何かが切れるような音がした。
「……帰らなきゃ」
異世界?転生?そんなもの知るか。
何が何でも、一馬は元の世界へ帰らなければいけない。このまま妹の結婚記念日を、兄の命日にしてたまるか。
「やってやるよ、死霊の統治」
異世界転生した自分とて死者と同義だ。死者を操る力がこの身にあるというのなら、帰還の糸口が見つかるかもしれない。
あの世界に帰る為なら、墓場の王にだってなってやる。

皺になるほどシーツをキツく握り締めながら、一馬はかつてない重荷を背負う覚悟を決めた。

 
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