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しおりを挟むクリケットに導かれるままワバラの奥へ進むと、段々と活気がなくなってきた。建っている家屋も見窄らしくなり、通りかかるアンデッド達もそれこそゾンビのようにフラフラとしている。
「この辺は活動限界の近いアンデッド達が住む場所ッス。器次第では腐敗が進みやすくなるんで、嫌でも表側から遠ざけざるを得ないんスよね」
「即ち、ここの者たちを早急に救ってもらいたい」
「早急っつっても……」
一馬は己の掌を見つめてみる。不思議なエネルギーを感じるなどといった、特殊な変化はない。
異世界転生したからと言って、不思議な力で直ぐに魔法が使えるなんてことはなかった。
「案ずるな。貴様は無意識だが既に周囲から生命力を吸って蓄えている。人間の寿命約100年分だ」
「は???」
「ひゃ……!!そんだけあれば200人は救えるッスよ!!」
100年の寿命が己の中にある?
──瞬間的に、最悪な予感が一馬の脳裏に走ったが直ぐにその考えを打ち消した。
「蓄えがあるなら今は与える事さえ出来れば良い。来い」
魔王がある一点を見つめながら、物置のような小屋に向かっていく。小蝿が集り、蜘蛛の巣が張った小屋の前には、ガラクタの山。
その中から、魔王は大きな片手に収まる犬の人形を取り出した。
「それは……」
ポツリと漏らしたクリケットの声は、先程よりワントーン低かった。
突っ立ったままだった一馬を、魔王が手招きする。おそるおそる近づくと、3人のものではない微かな声が聞こえた。
『ァ……アァ……』
「この声、この人形……?」
「これは水子のアンデッドだ」
「水子……?」
「堕胎した、産まれることすら出来なかった魂だ」
魔王の手の中に収まる、布と綿でできた塊を見下ろす。この中に、生きる事すら出来なかった魂がいる。
「奇跡的に与えられた、己の脚で立つことも出来なかった者が……ゴミのように打ち捨てられ朽ちていく。我々と同じ命が宿ってるというのに」
人形を掴んでいる魔王の手に力が籠る。助けたいのだろう、掌に収まる消えかけの命を。
……コレを、救える術を一馬は持っているらしい。
「どうすればいい」
無意識のうちに口に出ていた。
特に深い意味や、突き動かすような正義感はない。ただ、助けられるなら出来るだけのことをやった方がいいだろう。という、保身にも似た理由だった。
それでも、一馬の一言が意外だったのだろう。魔王は初めて驚いた表情を一馬に見せた。
「……いいんだな?」
「ん?いや、いいも何もやり方知らない……」
魔王は一馬の言葉を待たずして、一馬の手を鷲掴みにして持ち上げた。
「あ……!!さ、触るな!」
積み重ねたトラウマを刺激されて魔王の手を振り払おうとしたが、力が強過ぎてびくともしない。
それどころか、一馬の手を犬の人形に押し付けた。
「開くぞ」
魔王が一言告げた次の瞬間、腕の神経の芯がビキビキと割れていくような衝撃が走った。
痛みのあまり涙が出そうになって、目を瞑って堪える。
「……っぁ!!い゛っ……!!」
完全に閉じていた傷口を無理矢理開かれるような痛み。痛みは腕の中で神経を通るように枝分かれしていき、腕全体がバラバラになったのではないかというほど細かい痛みが絶え間なく生まれていく。
おそるおそる薄目で腕を見ると、蛍光電灯にでもなったのではないかというほど、若草色の光で輝いていた。
一馬の理解が追いつかないまま、光は人形に吸収されてゆく。そして全ての光が人形に収まった時、ようやっと腕の痛みがピークを過ぎた。
「……どうなった?」
場を無音が支配する。
まさか、失敗──
もぞっ
掌に当たる布がひとりでに動いた気配に、人形に視線を落とす。
魔王がやっと手を解放したので、一馬もおそるおそる手を退ける。
次の瞬間、ボロ切れ同然の人形がワタワタと動き出した。
『ァ、ヤ……!』
歩くことも出来なさそうなバラバラな脚の動き、聞こえる声も喃語の域を出ない。
それでも確実に、手の中の消えかけていた命が息を吹き返したのを感じた。
「マ、マジで回復した……!!これがネクロマンサーの力……!!」
背後でクリケットが驚嘆の声を漏らす。
一馬は痺れの残る腕を摩りながら、魔王を恨めしげに睨み上げた。
「何したんだよ」
「魔力の流れに使用する神経をこじ開け、そこから生命力が流し出せるように魔法の流転方向を一時的に反転させた」
「……??」
「貴様は今まで水を溜め込み過ぎたダムと土砂で埋もれた川のような状態だった。そこで、水が流れるように突貫で土砂を掘削し、ダムの水門を一時的に解放した……これでわかるか?」
「分かった……けど、無理矢理やんな!!!」
一馬の怒声が響く中、魔王の手の中の人形はどこか楽しそうにもがいていた。
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