願いの詩

ゆなはむ

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三人

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わたしとまりの幼なじみ。友貴ともき
別にかっこよくはないけど、優しさの教科書みたいな人だ。
「お茶いる?今日はあったかいお茶。」
「うん。寒くなってきたもんね。」
友貴が嬉しそうに水筒のコップにお茶を注いでくれた。
善意が受け入れられたときのうれしい笑顔。
友貴はこの笑顔が仔犬のようにかわいい。

放課後17時、生徒がほとんど下校したあとの教室で、こうやってゆっくり飲み物を飲み、まりが来るのを待つのが習慣になっている。
「みず!友貴!」
「ああ。まり。」
ほとんど二人同時に、まりの方に振り返り、声が重なった。
「なに。おじいちゃんとおばあちゃんみたい。今日はあったかい飲み物?ますます、じじばばだね。」

まりはかわいい。私たちのことを愛おしそうに笑うその表情は、強くて優しくてかわいいのだ。
「みずとまりはそっくりなのに、性格だけは全然違うよなあ。」
「双子ってそういうもんじゃない?」
そういうもんとは分からないけど、わたしはまりの意見に頷いた。本当にわたしとまりは性格が違う。まりは大雑把だけどいつでも元気で明るくて、わたしはどっちかというと元気は節約しているほうが楽だと思っている。

「あったかいほうじ茶美味しかった、明日も飲みたいなー。」
「分かった、持ってくる。」

「ラブラブだね。夫婦だもんね。」
「夫婦じゃないもん!」
むくれたわたしに謝りもしないで、まりは帰るよと言った。まりが帰ると言ったら三人で帰るのだ。

高校生になっても三人一緒だなんて、夢みたいだと思った。しかもこうやってほとんど毎日一緒に仲良く帰っている。クラスがばらばらになっても。他にたくさん友達ができても。三人で過ごす時間がないと何か大切なものがなくなるということを三人とも分かっている、そんな感じだった。


わたしは友貴のことが好きだ。
中学生になってぐっと背が伸び、男らしさが垣間見えはじめたあたりから、わたしは友貴を異性として意識し始めていた。
一緒にいてドキドキするわけではない。
手を繋ぎたい、キスをしたいと、気持ちが焦るような恋でもない。
ただ、友貴と一緒にいると心が温かくなる。
友貴のことを考えると、曇った気持ちも晴れるのだ。

「ねえ、わたしたちっていつまで一緒かな。」
わたしが明日の授業の教科書を準備していたら、まりがベッドの上で本を読みながらそんなことを口にした。
「まりはいつまでだと思うの?」

『わたしたち』とは三人のことだ。『まりとみずと友貴』の三人組が当たり前に存在する、私の隣にはいつもまりと友貴がいる、そんな将来しか考えられないと子供じみたことを高校生になっても思っていた。でももうわたしたちは高校生なのだ。この先の進路や作っていきたい人生は三人とも違うものだろう。それでもどこかでわたしは、三人が一緒にいる図を想像していたから、まりのその言葉で心臓がつねられたような気がした。


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