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植物学者の僕は嫌われ者の獣人さんのことを好きになってしまいました。
煉獄
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「手を食いちぎられちまってな……。早く焼いて止血したいところだが……」
セゾは炎の前にたちはだかる民衆たちへ目を向けた。先ほどまでとは違いセゾを見ても怯む様子を見せない。それどころか、処刑に使われるはずだった斧を拾い上げ、セゾとマルクを射抜くように見据えている。
「獣人も手負いだ……! 一斉にかかれば倒せる!」
声を張り上げたのは、リヒトに血を懇願したのとは別の騎士だった。気づけば数人の騎士がリヒトとホタルの血を狙う群衆の側へと加わっていた。
「采配を誤ったな……」
マルクが低く呟き、ホタルに目をやる。
「俺が食い止める! その間に止血しろ!」
叫ぶやいなや、マルクは炎の前に立ちはだかる民衆へ剣を向けた。丸腰の者は土壇場で怯えて逃げ散り、斧を握る者は渾身の力でマルクの剣へと打ちつける。
一方でセゾも身を翻し、群衆を身体ごとはじきとばす。そして、ホタルの腕を燃え盛る炎の中へと差し入れた。
「っ……あ゛……!!」
気を失っていたホタルの口から呻き声が漏れ、目が大きく見開かれた。
「あ゛っ……い゛……!」
「あぶねぇっ!」
痙攣するように身体が跳ね、火の中へ落ちかけたホタルをセゾが必死に押さえ込む。次の瞬間、焦げ付く匂いが辺りに広がった。
(クソ……ッ。人間なんざ焼いたことねぇ。どこまでやれば止血になる……!?)
「獣人のほうを狙え!」
ホタルを押さえ、止血しているセゾが動けないと見るや、誰かが声を張り上げた。
「獣人を倒せなくても、妾の子を落とさせろ!!」
叫び声と同時に、処刑台の下からセゾの腕めがけて石が飛んだ。それを合図にしたかのように、台上の群衆が一斉にセゾへと殺到する。
「ホタル様!!!」
マルクが駆け寄る者たちを蹴り飛ばし、剣で弾き返す。しかし、その数はあまりに多く、とても捌ききれない。
「く……キリがない!!」
「外で虫に入られた者が……戻ってきているんだ」
リヒトは出口を見やりながら、息を呑むように言葉をこぼした。目や耳を押さえ苦悶する者たちが次々と処刑場へ引き返してきていた。
「……花を求めて戻ってきた者たちが、ボクと兄様の血の話を聞きつけて、次々と加わっているんだ……」
セゾは、飛んでくる石からホタルを庇いながら押さえ込んでいる。
「……セゾ、さ……ん。熱い、でしょ……僕、自分で……やります……」
炎の痛みに意識を引き取り戻されたホタルが途切れ途切れの声で訴える。
「俺のことなんか気にしなくていい!!」
怒鳴るように返した瞬間、セゾの足元がぐらりと揺らいだ。
「ぐ……っ!」
必死に踏みとどまるが、再び視界が霞み、意識が遠のいていく。
(クソ……熱ィ……)
セゾがよろけたのを見て、群衆が一斉に沸き立った。四方八方から石や枝が飛んでくる。セゾの鼻先に岩がぶつかり、鈍い音が響いた。
「あがっ!!」
踏ん張っていた足がもつれ、ホタルを抱えたまま膝をつく。
(やべぇ……今度こそ、立てねぇ……)
意識が遠のくなか、腕の中からふっと重みが消えた。ホタルが這い出すと、左手で飛んできた岩を拾い上げ、民衆を睨みつける。
「アレで戦う気か?」
乾いた笑いが広がった。それでもホタルはセゾを背に庇うよ庇うように立ちはだかった。
「バカ……アンタが……狙われてんだぞ……逃げろ」
「……逃げる場所なんて、もうありません」
淡々と告げる声にセゾは歯を食いしばりながら辺りを見回す。処刑台の下から石を投げつける人々は、最初よりもはるかに増えていた。セゾがれ崩れ落ちれば、マルクへの猛攻も激しくなった。
「……ッ、ダメだ!」
守りきれないと悟ったマルクは、リヒトをホタルとセゾの方へ突き飛ばした。
「いっ……!」
身体を打ち付けたリヒトが小さく悲鳴をあげる。
「二人を抱えて逃げられるか!?」
汗に塗れた額を拭うこともできず、マルクはセゾへ怒鳴った。
(抱えて……? クソ……やる、しかねぇ……)
セゾは朦朧としながらも、膝をついたままホタルに手を伸ばす。そして、もう片方の手をリヒトに差し伸べた。
だがリヒトは眉をひそめ、その手を強く振り払った。炎を背に、ただホタルだけを見つめ迷うことなく炎の中へ身を投じた。
「リヒト!?」
ホタルが咄嗟にリヒトへ左手を伸ばして手をつかんだ。
(……あぁ、きっとボクは……)
熱に顔を歪めるホタルを見ながら、リヒトは心の底から吐き出す。
「……本当は、ミアを失った悲しみを……一緒に抱えて欲しかっただけなんだ」
静かな声とともに、リヒトはホタルの手を振り払う。だが、ホタルは諦めず落ちていくその腕を再び掴みなおした。しかし、重力に引かれ落下していくリヒトを掴み上げることはできない。そして二人は一緒に炎の中へ呑み込まれていった。
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マルクが低く呟き、ホタルに目をやる。
「俺が食い止める! その間に止血しろ!」
叫ぶやいなや、マルクは炎の前に立ちはだかる民衆へ剣を向けた。丸腰の者は土壇場で怯えて逃げ散り、斧を握る者は渾身の力でマルクの剣へと打ちつける。
一方でセゾも身を翻し、群衆を身体ごとはじきとばす。そして、ホタルの腕を燃え盛る炎の中へと差し入れた。
「っ……あ゛……!!」
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「あ゛っ……い゛……!」
「あぶねぇっ!」
痙攣するように身体が跳ね、火の中へ落ちかけたホタルをセゾが必死に押さえ込む。次の瞬間、焦げ付く匂いが辺りに広がった。
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「ホタル様!!!」
マルクが駆け寄る者たちを蹴り飛ばし、剣で弾き返す。しかし、その数はあまりに多く、とても捌ききれない。
「く……キリがない!!」
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リヒトは出口を見やりながら、息を呑むように言葉をこぼした。目や耳を押さえ苦悶する者たちが次々と処刑場へ引き返してきていた。
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「俺のことなんか気にしなくていい!!」
怒鳴るように返した瞬間、セゾの足元がぐらりと揺らいだ。
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セゾがよろけたのを見て、群衆が一斉に沸き立った。四方八方から石や枝が飛んでくる。セゾの鼻先に岩がぶつかり、鈍い音が響いた。
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意識が遠のくなか、腕の中からふっと重みが消えた。ホタルが這い出すと、左手で飛んできた岩を拾い上げ、民衆を睨みつける。
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